日本でも喫緊の課題であるSDGs
SDGsの17のゴール(国連開発計画HPより)
いきなり海外在住者の浦島太郎ぶりを披露してお恥ずかしい限りだが、2016年に一世を風靡していたピコ太郎氏はまだ日本でご活躍なのだろうか?
今回、SDGs(持続可能な開発目標)分野で活躍する女性起業家のためのビジネスコンペ「The WE Empower Challenge」についてのお話をするにあたり、彼が外務省により2017年にSDGsの親善大使に任命され、かのPPAPのSDGsバージョンを国連で披露していたことを思い出したのだ。
当時CM動画を観た筆者は「底抜けAIR-LINEの古坂氏がここまで来たか」と思っていいのか「日本のお役所がPRのためにこんな奥の手を出すほどSDGsへの取り組みが緊急性を帯びてきているのか」と思っていいのか、なんとも複雑な気分で唖然として見入ってしまったが、ともあれ彼の功績もあってか今年に入ってからの調査によると、現在日本におけるSDGsの認知度は19%にまで向上しているという。
すでに経団連や吉本興業、岡山大学など各機関や企業が積極的な取り組みを始めており、笑下村塾やイマココラボなどSDGs教育の開発・展開を行う団体も設立されている。
また、日本企業への最大の投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年にPRI(国連責任投資原則)に署名したことをきっかけに、企業は財務的要素だけではなくESG(環境・社会・ガバナンス)への考慮を投資家からも求められる風潮が高まっており、社会貢献の観点のみならず企業の競争力も決定する要素としてSDGsへの取り組みが重要視されている。
SDGsとその背景
そもそもSDGsとはサステイナブル(S)・ディベロップメント(D)・ゴールズ(Gs)の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されている。2030年に向けて2015年に採択された国連の開発目標であり、人権、平和、環境保全などに関わる17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる。
2015年に終結した、世界の貧困・感染症・子どもの死亡率などを有意に低下させたミレニアム開発目標(MDGs)の後継目標としての位置づけだが、新たに気候変動や経済的不平等、イノベーション、持続可能な消費、平和と正義などの分野を優先課題として盛り込んでいる。
最終目標は「貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすること」。
平和な日本で生まれ育っている私たちにはこの「持続可能な」というコンセプトはなかなかピンと来づらいが、最近主に環境保全の文脈で「サステイナブル」という言葉は普及しているので、そこから内容がイメージできる人もいるかもしれない。
SDGsの「サステイナブル」はさらに広く、「世界の」持続可能性を包括的に含む。地球環境はもとより、貧困や不平等、人権問題、経済問題や戦争など、現在人類が抱える大きな問題に途上国も先進国も一緒に取り組んでいかないと「世界が持続しない」という危機感を前提としたうえで、「持続可能で理想的な」世界をみんなで協力して目指すためのゴールがSDGsなのだ。
SDGsを推進する女性起業家のためのビジネスコンペ
そんなSDGsだが、現時点での進捗状況ははかばかしくないと言われている。2017年の国連報告書によると、掲げられている多くの分野の前進が2030年までに達成できるペースをはるかに下回っているとされ、日本においても17のゴールのうち達成されていると評価されたのは教育のみであった。
そこで、SDGsの認知をさらに広げ、その動きを加速させようという試みが世界各地で実施されている。その1つが昨年から開始された、SDGs分野で活躍する女性起業家のためのビジネスコンペ「The WE Empower Challenge」だ。
国連が規定する世界の地区ごとにSDGsの達成に向けて活躍する女性起業家1名を選出し、受賞した起業家は事業を拡大するためのトレーニングや能力開発への援助を与えられるというもの。既存のSDGsビジネスをサポートするとともに、SDGs認知を高め、女性起業家を増やすことも目標に定められている。
スポンサーにはグローバル企業のP&G、Black&Decker、英オックスフォード大学などが揃い、受賞者は上記の褒賞を授与される他、国連総会やG5の夕食会などのハイレベルな会合へ招待される。
第一回受賞者たちの事業内容、そのSDGsに向けた社会へのインパクト
昨年秋に第1回目が開催され、世界各地から5名の女性起業家が選ばれたので紹介したい。
まず、アフリカ地区から選ばれたナイジェリア人のハビバ・アリ氏は、再生可能エネルギー利用の拡大を目指すSosaiを創業した女性起業家。ソーラーパワーの電灯や浄水器といった商品から、総合エネルギーセンターの建設、再生可能エネルギーに関するコンサルティング業務まで広くカバーし、クリーンなエネルギーの普及のみならず製品を販売することを通じて女性や若者に経済的エンパワーメントをもたらしている。
ハビバ・アリ氏(国連公式Youtubeチャンネルより)
Sosai創設のきっかけは、元々経営が専門だったアリ氏が屋内の空気環境について学ぶ会合に出席したこと。慣れ親しんだ暖炉や灯油ランプが人体に有害な煙を排出していると知った後にたまたま見つけたソーラーパワーの電灯を、馴染みの商店の女性などに貸し出すために10個購入したことがビジネスの始まりだった。
SDGsの17のゴール(上図参照)のうち、1「貧困をなくそう」、7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、10「人や国の不平等をなくそう」の3項目への貢献が評価された。
中南米地区からは、有機スナックの開発・販売を通じて地元の貧困をなくす取り組みをしているペルー人のマルタ・デル・リオ氏が選出。
ヨーロッパに学び、P&Gやロレアル、バーガーキングやアメックスといった小売りや金融サービスなどの領域でキャリアを積んだ彼女は、そのスキルと経験をもっと社会的なインパクトのある活動に利用することを決意したという。
女性のエンパワーメントへの情熱を片手に、アンデスやアマゾンの熱帯雨林中からレア度が高いスーパーフードを収集し、それを味がよくおしゃれなスナックにブレンド。さらに貧困にあえぐ地元の小規模な農家の組合を束ねて、スナックの製造・販売を担う企業「Wasi Organics」を組織した。また、健康を意識するリーダーシップにより、食品業界の変革も見据えている。
SDGsのうち、1「貧困をなくそう」、3「全ての人に健康と福祉を」、5「ジェンダー平等を実現しよう」の3項目に貢献が大きいとされた。
Wasi Organicsのスナック(公式HPより)
我らがアジア太平洋地域の代表は、中東で女子に対する教育を普及させているヨルダン人経営者ハデール・ムスタファ・アナブタウィ氏。彼女が創設した「Alchemist Lab」は、特に社会的に脆弱な農村部や難民キャンプの女子など25000人に教育の機会を提供し、自信を持って自分や世界に向き合える人材となるために必要な情報とスキルを身につけさせている。
彼女の提供する教育は従来の教育と比較して学習と現実世界とのつながりを意識し、一人一人の子どもに合わせ、実践的で楽しい体験を通じて学ぶことに重点を置いているという。
その他女子のためのキャンペーンや、子どものためのラジオ番組なども担当する彼女は、SDGsのうち、4「質の高い教育をみんなに」、5「ジェンダー平等を実現しよう」への貢献が評価された。
このほか、東ヨーロッパ地区からは人身売買やその他あらゆる形態の暴力から生還した、またはその危険にさらされている女性にベーグルカフェで研修を施すことにより生活力をつける活動を行うセルビア人女性のマリヤナ・サビッチ氏。西ヨーロッパ他の地域からは、海洋の生態系の繁栄をサポートするコンクリートを開発したイスラエル人の海洋生物学者がそれぞれ選出された。
経歴も事業内容も異なる5人の女性起業家が受賞したWe Empower Challengeは、今年は5月1日まで応募を受け付けている。SDGsに何らかの形で貢献している女性起業家の皆様は、ぜひ応募してみてほしい。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)