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サーキュラーエコノミーの未来を担う企業に贈られる「ザ・サーキュラーズ」賞
近年の世界の人口増にともない、資源乱用・廃棄により宇宙船地球号が沈みかけていると言われて久しい。
資源の利用法が見直され、リサイクル・リユースなど地球資源の有効活用に関する議論が本格化する中、サーキュラーエコノミー(循環経済)を担う企業の存在はサステイナビリティのみならず競争力の観点からも注目が集まり始めている。
世界経済フォーラムは、サーキュラーエコノミーは世界経済に4,5兆ドル(約490兆円)の新たな成長をもたらすと試算しており、アクセンチュアのスポンサーシップにより循環経済に貢献した団体・個人を表彰する「ザ・サーキュラーズ」賞を主催している。
世界中から廃棄物や二酸化炭素の排出、有害物質の使用などを削減するイノベーションをもたらした個人や企業、公的機関などを選出するこのアワードは、開始から今年で5年目。1月に同フォーラムの年次総会(いわゆる「ダボス会議」)の中で授賞式が行われ、世界各国からの450の応募の中から最終的に7個人・団体が受賞したので、後にまとめたい。
「エコと経済性の両立」サーキュラーエコノミーが求められる背景
「儲かるエコ」「ゴミからトミ(富)へ」などとも表現されるサーキュラーエコノミー。このキーワードが近年にわかに注目を浴びている背景には、もちろん「待ったなし」の淵に立つ環境問題の数々がある。
昨年、国連が「このままのペースで地球温暖化が進んだ場合、早ければ2030年にも深刻な気候変動が生じる」と警告し、「あと12年しかない!」と世界を騒然とさせたことは記憶に新しい。
ひっ迫する現状を受けてEUが2015年に採択した「サーキュラーエコノミー・パッケージ」は、昨年末で予定通り3か年計画のアクションプランを終え、先日ひととおりの包括がなされた。
レポートは、サーキュラーエコノミー・パッケージが開始1年で創出した400万人の雇用や1470億ユーロの経済効果、プラスチック利用・廃棄の大幅な見直しや消費者のエンパワーメントに言及し、「(サーキュラーエコノミーは)今や止めることのできないメガトレンドである」としながらも、結論ではその成果をあくまで「今後も続いていく取り組みへの参考」と位置付けている。
使い捨てプラスチックの廃止や食品廃棄問題への挑戦などいくつかのアクションプランは日本の企業にも波及し、経団連のシンクタンクである21世紀政策研究所も昨年サーキュラーエコノミー研究プロジェクトを立ち上げている。
本年「ザ・サーキュラーズ」賞受賞者
さて、そんな状況の中決定された、本題の本年「ザ・サーキュラーズ」賞。
世界経済フォーラムのグローバル・パブリック・グッズ・センターで部門長補佐を務めるテリ・トヨタ氏は授賞式において、「『輪を閉じる』(資源の循環システムを作る)ことは単なる天然資源の管理の問題ではなく、ビジネスにおける競争力を得るために必要な条件であることを意識している企業が増えてきています。その戦略を欠く企業は、第四次産業革命時代の新しい経済に取り残されるリスクがあります」とコメント。
41のファイナリストの中から、最終的に7団体・個人が受賞した。
例を挙げると、まず「世界で最も循環経済的な人」とも言える「サーキュラーエコノミー・リーダーシップ部門」受賞者に、デンマーク政府のサーキュラーエコノミー諮問委員会の議長フレミング・ベセンバッシャー氏。
ベセンバッシャー氏(ザ・サーキュラーズ賞公式HPより)
同氏が監査委員会の議長を務めるカールスバーグ社が採用した「スナップパック」や、新たなコーティングを施して再利用可能回数を向上させたボトル、酸素を除去することによりビールの賞味期間を延ばす王冠などは、日本でも話題になった。
ちなみに「スナップパック」とは、缶ビールのいわゆる「シックスパックリング」(特に海洋汚染でよく話題になるプラスチックの6連リング)を廃止するため缶同士を接着する新技術。年間で1,200トン以上のプラスチックごみ削減が実現されるという。
運搬プロセスでは外れず、手では外しやすいという(カールスバーグ公式HPより)
公的な団体に贈られる「サーキュラーエコノミー・パブリックセクター」に上述のEU。3年間のサーキュラーエコノミー・パッケージによる具体的な取り組みの数々が評価された形で、現在EU内の中小企業の24%が資源循環を活かした製品やサービスを提供している。
業界が大変革するような大きなインパクトを与えるイノベーションをもたらした団体に贈られる「サーキュラー・エコノミー・破壊的イノベーション部門」に英ウィノウ社。
食品産業の廃棄物削減を支援する同社のスマートメーターは、ゴミ箱に捨てられたものを分析し、その情報を製造プロセスと共有する。このシステムにより世界中の多くの厨房の廃棄物が半減し、消費者の出費を年間2,500万ドル(約27億円)節約したとされる。1年あたり1,800万食分(7秒に1食)が廃棄されていると言われる食品の現状に大きな変化をもたらしている。
他に、使用済みタイヤから抽出した資源を新しいタイヤやその他の素材に活用している米リーハイ・テクノロジーズ(現在までに同技術で5億本以上のタイヤを製造)、南アメリカ最大のリサイクルセンター・ネットワークを構築・運営するチリ・トリシクロス(3万3,000トンのリサイクル材料を仕分けし、14万トン以上の二酸化炭素排出を防止)、市場の主力を担う投資家たちによるサーキュラー・エコノミーへの投資を促進する英インパックス・アセット・マネジメントなどが各賞を授与された。
その他、すでにサーキュラーエコノミーを担うファイナリストたち
同賞の最終選考に残ったファイナリストたちの中には、受賞は逃したものの既に大きなビジネスとなり循環経済を担っている会社も多数ある。
そのうちのひとつ、オランダ発のDyeCooは、水や化学物質をまったく使わずに繊維を染める技術を開発。従来の布の染色は水を大量に使い有害な化学物質を放出する問題があり、特に世界のアパレル工場ともいえる中国、インド、バングラデシュなどで深刻視されていた。
一方同社の新技術では水の代わりにCO2を触媒として利用する。強い圧力をかけて超臨界状態となったCO2が染料を分解し、生地の深部まで浸透させるという。時間・コスト・資源・エネルギー・環境汚染など全てを削減する画期的なテクノロジーとして注目を集め、すでにNike、Adidas、IKEAといった多数の世界的ブランドと手を組んでいる。
プリンターの使用済みカートリッジとソフトプラスチックをアスファルトに混ぜ、高品質な道路表面を実現する技術で最終選考まで残ったのはオーストラリア発のClose the Loop。それらのリサイクル素材はアスファルトやリサイクルガラスと混ぜられ、従来よりも65%寿命の長い道路の舗装材に生まれ変わる。道路1kmあたりレジ袋530,000枚、ガラス瓶168,000本、12,500個のプリンタートナーカートリッジが利用でき、その分の廃棄物が削減されるとともに日々利用される道路の質も向上するという地球も人もうれしいソリューションだ。
世界中で声を上げ始める若者たち。循環経済は「火事」を鎮火できるか
言及するのが最後になってしまったが、本年のサーキュラーズ賞授賞式が行われたダボス会議においては、別プログラムですでに伝説となりつつあるスピーチも行われた。スウェーデン人で16歳の気候変動活動家、グレタ・トゥーンベリ氏が世界のリーダーたちに即時の行動を訴えたものである。
「私はあなたたちに希望を持ってなんかほしくない。私が日々感じている恐怖を感じてほしい。パニックになってほしい。自分の家が火事であるかのように行動してほしい。だって実際、地球は火事なのですから」
「将来自分の子どもに、あなたたちがなぜ時間があるうちに行動をしなかったのか、尋ねられてしまうかもしれない」と、気候変動への対応に手をこまねく現在の権力者たちを痛烈に批判する彼女のメッセージは、SNSの力を借りて猛烈な勢いで世界に拡散。
触発された若者たち数万人が「将来のための金曜日(Fridays For Future―金曜日に学校を休んで気候変動対策を求めてデモなどを行う)」などのアクションを起こし、そのムーブメントは現在も広がり続けている。今年3月15日には120か国で世界一斉デモが行われ、日本でも京都や東京などで大学生など数百人の若者が参加した。
ドイツで行われた若者のデモ(トゥーンベリ氏公式Twitterより)
サーキュラーエコノミーの加速は「地球の火事」を鎮火できるだろうか。それは優秀な会社や団体の企業努力だけではなく、私たち大人ひとりひとりの行動にかかっているのだろう。
文:ウルセム幸子
編集:岡徳之(Livit)