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気候変動による異常気象は近年、「人類が直面する脅威」といわれるまで切羽詰まった状況だ。大人の取り組みが不十分であることを指摘し、小・中・高校生たちが、世界の各都市で行うストライキは頻度を増している。
今、私たち大人にできることは何か。自然エネルギーへの転換など、気候変動を直接的に抑制・緩和させるための努力以外にも何かできることがあるはずだ。
その1つが「教育」だろう。子どもたちに「気候変動教育(CCE)」を通した知識やスキルで、未来に備えてさせてやらねばならない時が来ている。
「環境教育」から「気候変動教育」へ
CCEは、「環境教育(EE)」や「持続可能な開発のための教育(ESD)」より認知度が低い。しかしCCEはEEやESDと切り離すことはできない、延長線上にあるものといえる。国連はESDの一部と見なしている。
そもそもEEが初めて登場したのは、1948年、国際自然保護連合の設立総会でのことだったという。当時問題となっていた公害や自然環境破壊について教えるのが目的だった。後に人間活動が自然環境に及ぼす影響がさらに悪化。ESDが誕生した。
ユネスコはESDを、「すべての人々が持続可能な未来の実現に必要な知識、技能、生活態度、価値観を身につけることができる教育・学習」と定義。机上の学習に終わらせず、実践を通して学ぶことを重要視している。
ESDは2014年までの10年間、「『持続可能な開発のための教育』の10年」とし、国連が各国に特に奨励した期間を経ている。
将来もこうして自然を身をもって学ぶことができるよう、今CCEが必要だ
© bobistraveling (CC BY 2.0)
知識だけでなく、実行可能な対策の立案までカバー
CCEの特徴はESDでありながら、気候変動に特化している点にある。人間活動がもとで温室効果ガスが排出され、気候変動を引き起こしていることを事実として踏まえ、展開される。CCEが気候変動に関する国際連合枠組条約第6条にも記載されていることからも、その重要性がわかる。
気候変動の原因と影響を理解するのはもちろん、学習者は、現在明らかになっている科学的証拠などの情報をもとに、反対意見にも耳を傾けながら、自分で検討・判断し、結論そして何ができるかを導き出す。
レベルは問わない。小学生から高校生まで教えることが可能だ。自然と自分との関わりから始め、気候変動の事実、貧困など社会への影響、食糧危機、気候変動に対して現在行われている政策や対策、気候変動がもとで脅かされている子どもの権利、CCEの意義などをカバーする。
生徒たちは学校生活をサステナブルなものとするための企画・運営を行ったり、署名運動や啓蒙キャンペーンを実行したり、地域の災害リスク軽減に取り組んだりと、実践的にも学ぶ。
CCEは予測がつかない将来、手元にある情報から、どう緩和・適応できるかを考えられる人材を育成するのが目的だ。同時に、社会のさまざまな面に影響を及ぼす気候変動を学ぶことで、学習者に分野・科目の枠組みを超えた視点を与える。
子どもに教える際にはポジティブに
CCEを教えることは重要だが、それには難しさも伴う。まず大人が感じでいる脅威をそのまま子どもたちに伝えないようにすべきだ。大人にとり、地球規模であり、多くの要素が絡み合う気候変動は脅威にほかならない。知識や経験を伝えても、「恐れ」まで伝わらないように注意を払う。
子どもたちに与える情報は、教師が用心深く選択し、正しいもののみに絞る。不確かだったり、間違った情報のおかげで、子どもたちが誤解したり、不安に陥ったりしないように気をつける。
また気候変動問題について触れる際には、必ず抑制方法や解決方法も提示し、悲観視しないようにする。将来、子どもたちは気候変動に対処していかなくてはならないことは事実だが、もし迅速に対応すれば、決して結果は危機的なものになるとは限らないことを言い添える。
英国で繰り返し行われている、生徒によるストライキ
YouthStrike4Climate
CCEをカリキュラムの再優先事項にするよう求める、英国の生徒・教師
近年小・中・高校生による、気候変動に対するストライキが目立つようになってきた。2018年末行われた第24回気候変動枠組条約締結国会議(COP24)で当時若干15歳のグレタ・トゥーンベリさんがスピーチを行って以来、さらに活発化している。
英国も生徒によるストライキが盛んな国だ。2月中旬には、国内60以上の都市や町の生徒約1万人が参加した。学生たちは、CCEを最優先事項にするよう国の教育カリキュラムの改正を求めている。ストライキには生徒だけでなく、教師も合流している。
「教育」は気候変動抑制を達成するにはなくてはならない重要なものだ。
気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)第6条、別名「アクション・フォー・クライメート」として、さらに同条約を達成するためのパリ協定第12条でも奨励されている。にも関わらず、国の教育はこれを全うするには程遠いというのが、参加者らの考えだ。
不満はほかにもある。気候変動は人間活動の結果であることは政府や科学者の大多数、国連も認めるところ。
しかし現行のカリキュラムは、依然としてその説が正しくない可能性があるという扱いをし、人間に起因するのか、そうでないのか検討するよう生徒に促している。ストライキ参加者はこれは大きな間違いだと憤る。
英国の義務教育11年間の間に1万はあるはずの授業数なのに、気候変動を教えるのはそのうちたった10回程度なのは、政府の怠慢だとする教師もいる。
2月上旬、教師たちは教育省向けに嘆願書を提出している。カリキュラムを改正し、予想される、気候変動がもたらす危機的な状況に子どもたちが備えられるような内容に変更するよう求めている。
さらに同月中旬には、200人を超える専門家たちが、ストライキを行う生徒たちへの支援を表明する公開書簡を『ガーディアン』紙に寄せている。
米国ではここ数年、山火事をはじめ、気候変動によるさまざまな自然災害が起こっている ©DoD photo by Master Sgt. Christopher DeWitt, U.S. Air Force
米国では、保護者の約80%が学校でのCCEを希望
米国では大統領自身が気候変動の事実を否定する中、多くの国民たちは冷静な考えを持っている。
イエール大学林学及び環境学スクールに属するリサーチセンター、イエール・プログラム・オン・クライメート・チェンジ・コミュニケーションによる、2018年発表の報告書で、全州平均で保護者の約80%が、学校でのCCEを希望していることが明らかになった。
支持政党とは関係なく、多くの保護者がCCEの必要性を感じていることは明白だ。
保守系のシンクタンク、ハートランド・インスティチュートは2017年、全国の科学教師2万5,000人に対し気候変動を否定する書籍を送った。今年は関連参考図書も発行するという。上級研究員の中には、気候変動は人間活動が原因だという説はプロパガンダだとまで言う者もいる。
同様の別の組織、ディスカバリー・インスティチュートは、気候変動は自然の成り行きという説と、人間活動の結果という説の2つがあり、生徒にはその両方を教えるべきだとしている。
しかし、ほとんどの科学者が指摘するように、気候変動は実在し、人間が引き起こした問題であることは疑う余地がない。
米国内では現在26州の学校で、「次世代科学スタンダード(NGSS)」が取り入れられている。
2013年に発表され、物理、生物学、地球・宇宙科学、工学の4分野を、相互の関連性も含め、実践も取り入れて行われる学習だ。CCEもNGSSの中学校レベルで教えられているという。
しかしNGSSでは不十分だと、今年に入り、コネチカット州では子どもたちへのCCEをさらに強化する法案が下院で討議されている。
読み書き、算術同様、CCEを学ぶことを義務化しようという動きだ。NGSS内でおさえられているとはいえ、気候変動が選択科目に終わっている学校もあるからだ。法案は多くの保護者に支持されているそうだ。
米国政府による気候変動に関する報告書「全米気候評価」では、温暖化の影響がすでに発現していることを踏まえ、将来私たちの子どもや孫が受けるインパクトは現在より深刻なものになるだろうと予測している。
そして、子どもたちが対処策を講じられるだけの知識とスキルを身につける必要があることを強調する。
さらに気候変動問題を考える時、自分が属する社会や国という枠組みや、「今」という時間に捉われてはいけないこと、地球規模で「未来」も見すえていかなくてはならないことも、子どもたちに伝えなくてはなるまい。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)
eye catch img : © UNESCO/WESSA Eco-Schools