スタートアップ大国となったスウェーデン、「起業のための6カ月休暇」とは?

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Forbes が2016年に発表した Best Countries for Business で1位を獲得し、その後も2位の座を2年連続で守っている「スウェーデン」。

近年シリコンバレーにつぐ世界2位のスタートアップ企業の聖地として、Skypeやマイクロソフトの子会社となったマインクラフトを作ったゲーム会社Mojangなど、その活躍が目立つ。

外資からの投資も盛んになり、国全体として経済発展を遂げている。

スタートアップ大国、スウェーデンのあゆみ

日本人がスウェーデンと聞いて頭に浮かぶのは「福祉国家」「IKEA」というイメージだろうか。

もともとスウェーデンは冬が長く、20世紀初めまで農作物に恵まれない欧州でも貧しい国だった。1860~1930年の70年間に当時の人口の4分の1にあたる約120万人が米国に移住している。

しかしその後の中立政策で戦火を交えるところから距離をおき、通商ルートを維持した。豊富な天然資源(森林資源や鉄鉱石)を使い、人口が少なく国内市場が小さいため、これらを輸出および海外での生産・販売に力を入れた結果、国の経済力が伸びた。

また、スウェーデンは優れた科学技術でも知られている国である。

国を挙げて教育や科学技術の育成を早い段階から重視し、電話機、ファスナー、マッチ、3点式シートベルト、ペースメーカー、冷蔵庫、牛乳パックやパソコンのマウス、GPS、ノーベル賞として名を遺すことになったノーベルが発明したダイナマイトなどもスウェーデン人の発明というから驚きだ。

近年では、シリコンバレーにつぐ世界2位のスタートアップ企業の聖地としてSkypeやマイクロソフトの子会社となったマインクラフトを作ったゲーム会社Mojang、音楽ストリーミングサービスのSpotifyなど、近年のスウェーデン企業の活躍が目立っている。

スウェーデンの福祉制度と人口増加が産業を支える

スウェーデンの福祉制度は、高福祉高負担の「スウェーデン・モデル」と呼ばれる。欧州諸国では消費税に相当する付加価値税(VAT)は25%。これはEUの中でも高い方だ。

スウェーデン・モデルは、戦後の高度成長期に確立され、90年代に入ってから人口増加率がピークに達し、また不動産バブルもはじけた。90年代半ばには国の借金がGDPの約9割にも達し、当時日本と並ぶ「借金大国」として見なされていたことがある。

しかしスウェーデンは年金制度の改革や医療制度改革を行い、高福祉高負担モデルを今も継続している。

改革の結果、人口も増え、スウェーデンの国としての借金はGDPの5割ほどにまで減少した。スウェーデンの国としてのGDPは日本の12分の1ほどであるが、一人当たりのGDPでは日本をずっと上回っている。

1990年代には国全体に光ファイバーケーブルを設置し、国民は早い段階でよいインターネット環境を得ていた。また教育の実際の現場では創造力を伸ばしたり実験することに力を入れ、芸術と科学をミックスする教育にも力を入れたこともITに強い国として台頭する理由となった。

スウェーデンは1990年から毎年人口が増加しているという事実も見逃すことはできない。

2018年末のSBC(スウェーデン統計局)の統計では約1,023万人。前年に比べると約11万人増えており、これは単純に出生率が死亡率を上回っているからという理由が22%、国を移住して出ていくよりも移住してくる移民が増えたからという理由によるものが78%と発表されている。

スウェーデンは他の国に移住する人は全体の1%にしか満たないというから驚きだ。

スウェーデン統計庁は、将来の人口はこれからも増え続け、2040年には1,159万人、これは2018年の人口の1割増しほどの数字になると予測している。また、難民の受け入れにも積極的な国の1つである。

起業が簡単な国

Forbes が2016年に発表した Best Countries for Business でスウェーデンは1位を初めて獲得、その後2017年、2018年もUKに続いて2位を保っている。

これは失業率を下げ、前述のように福祉に力を入れた結果、雇用につながったためとも言われている。また、さまざまな規制緩和をいろんなセクターの産業で行い、国外からの投資が増えたことも影響しているのだろう。

驚くべきことにスウェーデンでは、起業はオンライン登録でたった7日で行える。Bolagsverket(企業登録庁)のサイトから指定のフォームに入力し、1,900~2,200SEK(スウェーデンクローネ、日本円で22,000円ほど)を振り込むだけで7日で会社を設立することが可能だ。

また、スウェーデン政府は政府内にスタートアップデベロッパーを立ち上げ、起業をサポートしている。その1つに「STING(スティング)」がある。

STINGは Stockholm Innovation & Growth(ストックホルムの技術革新と成長、の意味)の略でアクセラレーター・インキュベーター支援のプログラムである。

アクセラレーターの目的は、すでにある企業の事業を爆発的に成長・加速させるために必要な資金投資やサポートをすること。インキュベーター支援とは起業家を支援し、新しいビジネスの立ち上げや成長をサポートすることをいう。

2002年にエリクソンKTH(スウェーデン王立工科大学)、ストックホルム市を含む、国を代表する複数の組織が集まってでき、今までに240社をサポートし、そのうちの70社が今も企業として機能している。

STINGは事業開発、30〜50万SEK(約3,500~5,900万円)の資金援助、リクルートメント、ビジネスネットワーク、マーケティングの強化に向けて、さまざまなプログラムやイベントを開催し、サポートする。

6カ月の起業休暇

スウェーデン政府は「The Right to Leave to Conduct a Business Operation Act(起業するための休暇をとる権利)」という権利を従業員に1997年から認めている。

これは自分の会社を設立するために最長6カ月の休暇を取る権利があることを保証するもので、条件の1つは起業する会社が現在働いている会社の雇用主の直接の競争相手になることができないという点である。従業員は同じ企業でこの起業休暇を1度だけ申請できる。

この6カ月の休暇は、家族の介護や入院の手伝いなどや留学にも有効である。そもそも1974年に世界で初めて両親に育児休暇をとるように法制化した国であり、労働組合の力も昔から強く、労働者の権利がすでにしっかりと確立している国である。

個人を尊重するベースがあり、社会保障で最低限の暮らしが保障されているからこそ、新しいビジネスにチャレンジできる土壌ができているのであろう。

企業の中には国が法で定めた6カ月でなくさらに長く12カ月の起業休暇を認めている企業も出てきているという。ただ、6カ月も、無給とはいえ社内でその休んだ人の穴をふさぐ必要はあるわけで、そこにまったく負担がないわけではない。

ちなみに、スウェーデンの若者は近年、定職に就く人の割合が減っている。2017年の調査では16歳から24歳までの50%、25歳から34歳までの人口の18%が契約社員であるというデータがあり、これは2009年の調査と比べるとそれぞれ44%と14%アップしている。

ただ、この6カ月の起業休暇というものを申請できる背景には、スウェーデンの育児休暇などほかの休暇の取りやすさがあることも忘れてはならないだろう。

合計16カ月の育児休暇を父親も母親もとるように法で定められているため(「男性or女性」に偏らない子どもを育てるには? ジェンダー・ニュートラル教育先進国、スウェーデンに学ぶ 参照)、同僚が短期的にそのポジションを抜けるということに慣れている、柔軟になっているのであろう。

夏のバカンスなど、有給休暇も5週間とることが国の法律で決まっていて、みなきちんと消化する。風邪を引いて休んだとしてもこの有給休暇から差し引かれることはなく、別に休みをもらえる。

2015年には多くのスウェーデン企業が1日6時間の勤務体制を実験的に導入した。しかし、労働時間短縮のために追加で職員を雇用しないとならなくなり、コストがかさんだなどの理由から2年後の2017年には終了となった。

失敗だったとする報道もあった一方で、労働者の心の疲労は普段よりもやわらぎ、個人の幸福度は上がったとする声もある。ワーク・ライフ・バランスの実現を重視するスウェーデンならでの取り組みだったと言えるだろう。

冬が1年の半分を占めるほど長いスウェーデン。厳しい気候条件の中で家族と過ごし、家の中にいる時間は長くなる。その時間をどうやってビジネスに使っていくのか、国として発展していくのか、今後も注目していきたい。

文:中森有紀
編集:岡徳之(Livit

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