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立ち並ぶビルからコンクリートジャングルとも描写される世界各国の大都市。住宅からオフィス・ショッピングビル、橋やトンネルといったインフラまで、近代的な暮らしと街づくりに欠かせない存在なのがコンクリートだ。
製造コストが低く、強固で、使い勝手が良く、長持ちするコンクリートは街のあらゆる場所で使われている。しかし、コンクリートの環境負荷について考えてみたことはあるだろうか。
コンクリートの主な材料はセメントだが、セメントはその製造過程で大量のCO2が発生する。温室効果を持つCO2の規制は世界的に喫緊の課題であり、各国は都市の発展に欠かせないコンクリートの活用と温暖化対策の両立に苦慮している。
そんななか、サステナブルな建築素材として注目を集めているのが、物流で使用される「コンテナ」だ。コンテナを様々な建築に使うことで、コンクリートの使用量を減らし、結果温室効果ガスを大幅に抑えられるほか、コンテナ建築ならではのメリットも数多くあることから「未来型建築」とまで呼ばれている。
コンクリートの製造に伴う温暖化問題、そして新しい建築トレンドになりつつあるコンテナの活用の現状はいったい、どのようになっているのだろうか。
温暖化問題に重大なインパクトを持つコンクリート産業
コンクリートの製造はCO2を大量に発生させる
CO2などの温室効果ガスは、地表から出ていく赤外線を吸収し、地表に向けて戻すことで大気を温め、気温の上昇を引き起こす。
コンクリートの素となるセメントは、製造過程でエネルギー由来のCO2を熱源として使用することに加え、原材料の石灰石に含まれる炭酸カルシウムの脱炭酸によってもCO2を発生させる。
このようにセメント産業では、化学反応自体が問題となるため、運輸産業などと比較して温室効果ガス対策が困難であり、産業分野のCO2排出において、セメント産業は鉄鋼業についで2番目に大きな割合を占めている。
国際エネルギー機関(IEA)の発表では、セメント産業からのCO2排出を2050年までに24%削減する道筋が示されているが、世界全体で人口が増加し、都市化が進んでいる今、ありとあらゆる生活インフラにコンクリートは必要とされており、単純にセメント生産を規制するというのは難しい。
代替的な製造過程の研究も進められているが、長期的な耐久度の検査にはまだまだ時間がかかる。
そんな中、中古コンテナの建築への再利用が、こうした課題に対するユニークな回答として登場した。
エコだけではない、コンテナ建築の数多くのメリット
丈夫で長く利用でき、使い勝手も良いことから、毎年17億トンを超える荷物を輸送するコンテナ。その再利用によるコンテナ建築は、エコだけでなく驚くほど工期の短縮とコスト削減が可能となることで、新世代の建築として注目されている。
中古コンテナ自体は20~30万円と安く、建設の過程もシンプルであるため、たとえば倉庫のようなシンプルな建築物であれば鉄筋コンクリートと比較し、工期もコストも半分程度に抑えられる。
またフレキシブルなことも大きな魅力だ。用途の変更にあわせて、建築物の場所を移動させる、新しい施設や部屋を増設する、また解体して完全に他の建物に再利用することができる。横にコンテナを組み合わせて壁を取り払えば、広い空間も確保できるし、積み重ねることで二階建て、三階建ての建物にもなる。
日本でも、震災復興事業者向けの宿泊施設として建設したコンテナ建築を、解体後、他の県に運び、ホテルとして再利用してケースがある。
このようなメリットを備え、強度も鉄筋コンクリートの建物と変わらないとなれば、世界中で人気が出るのもうなずける。
スタジアムからモールまで コンテナ建築の最新動向
コンテナ建築はすでに個人宅として世界中でブームとなっている。アメリカの企業Tiny house listingsは、世界中の500スクエアフィート以下(約46平方メートル)の住宅のマーケットプレイスを運営する。
これは日本だと2LDKの間取りが多いサイズだが、扱われている住宅の中にはコンテナ建築が含まれており、どこにでもあるコンテナがあざやかにテラス付きの居心地の良さそうな家に変わっていく動画は、コンテナ建築の魅力を雄弁に伝える。
コンテナ利用の住居(Tiny house listings公式Youtubeチャンネルより)
コンテナ建築の活用はさらに広がり、タイでは大学のキャンパスすらコンテナで建設されている。
タイ人とアメリカ人の学生が共にサステナビリティについて学ぶ、タイの国際持続可能開発研究所の新キャンパスは同校の理念を体現するものだ。
17の中古コンテナを組み合わせたこの新キャンパスは、コンクリートの使用を最小限にすることで、温暖化に配慮しているだけでなく、ドアや壁などもコンテナから切り出した部分を活用し、自然光を最大限取り入れることで日中の照明として活用するなど、随所にサステナビリティの実践を感じさせる。
また、コンテナを柔軟に組み合わせることで、木を伐採することなく、同じ空間に共存するような、木と木の間にキャンパスを押し込むようなユニークなつくりとなっている。
タイの国際持続可能開発研究所のキャンパス(公式ウェブサイトより)
そして、組み合わせて空間を自由に拡大できるコンテナ建築のメリットが最大限に生かせるのが、ショッピングモールなどの複合商業施設だ。
すでに、ロンドンの多くのショッピングセンターにコンテナが活用されており、テキサスでもショップ、ジム、飲食店が入るコンテナショッピングセンターEl Pasoが建設中だ。
アジアでも、韓国に登場したコンテナショッピングモール、コモングラウンドが、ソウル屈指のデートスポットとして日本のメディアでも取り上げられている。200個ものコンテナを活用したこの施設は3階建てで、約70の店舗が入り、テラスやイベントスペースも兼ね備える。
また、2022年ワールドカップ開始予定地カタールでは、試合会場の1つ、4万人の収容が可能となるRas Abu Aboudスタジアムにコンテナが活用されるという。
このような大規模イベントでは、閉会後の施設活用が問題になることが多い。たとえばリオ五輪では施設のほとんどが有効活用されずに廃墟と化し、いわゆる「負の遺産」となっているという報道がある。しかし、分解可能なコンテナスタジアムはこの課題に挑んでいる。
Ras Abu Aboud Stadium استاد راس أبو عبود from DeliverAmazing on Vimeo.
Ras Abu Aboudスタジアム
コンテナ建築のこれからと課題
小さな個人用スペースから数万人の利用が可能なスタジアム、大規模ショッピングモール、そしてスタイリッシュな飲食店まで、コンテナ建築のブームは盛り上がるばかりだ。
もちろんコンテナは夢の万能素材というわけでない。新しい取り組みのため、国や地域によっては建築基準法の対応や、自治体への周知などが追い付いておらず、簡便さが魅力のはずが、行政への届け出などで結局手間がかかってしまうという話も聞く。
環境という観点からも、コンテナ建築は外気温の影響を受けやすいため断熱処理が必須だが、その処理過程の環境影響の分析は十分とは言えない。
また、日本では建築規制のため中古コンテナの建築利用は現在困難であり、新しいコンテナを使う必要があるという。
物流用コンテナの再利用でなく新しく製造したものを使うのであれば、コンテナの素材である鉄もセメント同様、その製造過程で大量のCO2を排出するため、温暖化対策というメリットがなくなってしまう。まだまだ課題は山積しているといえよう。
ともあれ、そんな日本の現状を差し引いても、増改築や移転の柔軟さや工期の短さなど、多くのメリットをもつコンテナ建築。ただのブームに終わらず、環境問題、ホームレスや難民への住宅供給、災害対策など、社会課題の解決に寄与する可能性を秘めており、これからも目が離せない存在だ。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)
img: Pixabay