世界各地では都市部に移住する人と自動車所有の増加にともない、交通渋滞が深刻化している。交通渋滞がもたらす経済損失は無視できないものになっている。
交通コンサルティング会社INRIXの調査(2017年版)では、交通渋滞と経済損失に関わる驚がくの数字が明らかになった。この調査は38カ国1360都市の交通データを基に実施されたもの。
この調査によると、2017年米国だけで交通渋滞によって3,050億ドル(約34兆円)の経済損失が発生したという。経済損失は、交通渋滞に巻き込まれた労働者の生産性低下、燃料の非効率利用、モノの配送効率低下などから算出されている。
調査対象となった1,360都市中、交通渋滞がもっともひどいと評価された都市は米ロサンゼルスだ。ピークの時間帯、人々は年間平均102時間も交通渋滞に巻き込まれている。ロサンゼルスの交通渋滞による経済損失は190億ドル(約2兆1,000億円)。1人あたり1回の運転で2,828ドル(約31万円)のコストがかかる計算になるという。
ロサンゼルスに次いで交通渋滞がひどい都市は、ロシア・モスクワとニューヨークだ。ともに交通渋滞に巻き込まれる時間は年間平均91時間。
このほかブラジル・サンパウロ、サンフランシスコ、コロンビア・ボゴタ、ロンドン、アトランタ、パリ、マイアミ、タイ・バンコク、インドネシア・ジャカルタなどがランクインしている。
このランキングにはインドや中国、さらには交通渋滞が悪化しているといわれるいくつかの新興諸国が含まれていない。これらの国々の交通渋滞事情を考慮した場合、経済損失や環境へのインパクトは計り知れない規模になる。
最適化アルゴリズムで交通渋滞を緩和、イスラエルのスタートアップOptibus
世界各都市が頭を悩ます交通渋滞問題。
いまこの交通渋滞問題に人工知能を活用したソリューションで挑もうとするスタートアップが増えている。その代表的な企業の1つがイスラエルのOptibusだ。
テルアビブを本拠地とする2014年設立の新しいスタートアップだが、すでに米サンフランシスコ、英ロンドン、ドイツ・デュッセルドルフにオフィスを構え、北米と欧州を中心に300都市以上で交通最適化ソリューションを導入している。
顧客には、フランス国鉄傘下のKeolis、フランス公共交通企業のTransdev、英国の公共交通運営会社First Groupなど大手公共交通関連企業が名を連ねている。
Optibusは、都市交通のリアルタイム分析を行い、公共交通機関が時間通りにバスやトラムを運行し、交通状況を最適化できるアルゴリズムを開発している。交通状況の最適化によるコスト削減も可能で、顧客のなかには15%のコスト削減を実現した企業もあるという。
2017年11月にシリーズAで1,200万ドル(約13億円)、2018年12月にシリーズBで4,000万ドル(約44億円)を調達。さらに中国Eコマース最大手アリババの戦略投資を受けたと報じられている。
Optibusの共同創業者でCEOのアモス・ハギアグ氏によると、世界各都市では数百万ドル〜数十億ドル規模の公共交通サービスが提供されているが、その多くが時代遅れのソフトウェアで運営されており、多くの無駄を発生させる原因になっているという。
Optibusに戦略投資を実施したアリババも「City Brain」と呼ばれる都市インフラ最適化の人工知能プラットホームを開発・運営している。
アリババの本拠地杭州市ではCity Brainによって、交通状況に応じたリアルタイムの信号最適化が行われている。新華社通信によると、杭州市128カ所の交差点で信号の最適化が実施され、自動車の速度は平均15%上昇したという。
人工知能による交通最適化でどこまで経済損失を緩和することができるのか。Optibusを筆頭とした交通ソリューション企業の活躍に期待したい。
文:細谷元(Livit)