年末にはクリスマスや忘年会、年初には新年会とこの時期はアルコール飲料を飲む機会が多くなる。
東京消防庁のデータによると、同消防庁管内で発生した急性アルコール中毒による救急搬送者数は2012年1万1,976人、2014年1万4,303人、2016年1万6,138人とこの数年右肩上がりで伸びている。年代別では20代が圧倒的に多い(2016年は6,988人)。若い世代が無理をして飲酒している現状を浮き彫りにする数字といえるだろう。
一方、英国、欧州、ロシアなどこれまで飲酒量が多かった国々では、若い世代の飲酒量が大幅に減少、アルコールと距離を置いた新たなライフスタイルが広がりつつある。ノンアルコール飲料のみを提供するバーの登場やノンアルコールワインなどノンアル飲料の多様化が、そのライフスタイルを象徴している。今回はノンアル・ライフスタイルの最新動向をお伝えしたい。
英国やロシアなど酒飲み大国で異変、アルコール消費は大幅減少
世界保健機関(WHO)の調査によると、世界では2000年以降アルコール飲酒人口は減少傾向にあり、現在その割合は47.6%から43%と4ポイント以上下がったという。特に減少が顕著なのは欧州で、2000年比で10ポイントも減少している。英国、アイスランド、ロシアも世界全体のアルコール消費の減少を加速させる要因になっている。
英国では成人のアルコール摂取割合が2005年以来で最低水準に達したほか、若年層のアルコール消費も大幅に減少していることがいくつかの調査で判明している。ガーディアン紙が伝えた英国の統計によると、最低週1回はお酒を飲むという英国成人の割合は、2005年は64.2%だったが、2016年には56.9%に低下。
また英シェフィールド大学などが2001年と2016年のデータを比較したところ、16〜17歳のアルコール消費割合は88%から65%に、16〜24歳では90〜78%に低下していることが明らかになった。
ロンドンの様子
またイベント会社Eventbriteが英国のミレニアル世代を対象にした調査では、酔っ払うことを「クール」と考える人の割合が10%以下であることが判明。さらに同調査では71%がフェスティバルのようなイベントであっても、お酒ではなくスムージーなどのノンアルコール飲料を飲みたいと回答しており、お酒に対して距離を置く若者が増えていることを示す結果となった。
ウォッカの国ロシアでも大きな変化が起きている。
米ボストンを拠点にする国際メディア、クリスチャン・サイエンス・モニター(CSM)が伝えたWHOのデータによると、ロシアにおける年間平均アルコール消費量は2005年18.7リットルだったが、2016年には11.7リットルに減少。プーチン政権下、アルコール飲料の製造・販売に厳しい規制が設けられたこと、また若い世代の意識が変化したことがその背景にあるという。
ロシアで唯一の独立系世論調査会社Levada Centerのタチアナ・リソヴァ氏がCSMに語ったところによると、ロシアのアルコール消費減少は2つのグループの消費変化によって引き起こされているという。1つは実質賃金の低下に直面している労働者グループだ。国内のアルコール飲料の値段が高くなっているため、アルコール飲料の消費を抑えている。もう1つは、高学歴・高収入グループだ。このグループでは健康意識が顕著に高まっており、アルコールを完全に断つという人も珍しくないという。
ビールだけじゃない、多様化するノンアル飲料とノンアルバーの登場
アルコールは摂取したくないが、バーの雰囲気やワインやビールの風味を楽しみたいという人、また肉料理には赤ワイン、魚料理には白ワインというように適切な飲み物で料理を楽しみたい人は依然多い。このようなニーズに応えるサービスやプロダクトが続々登場し、新たな「ノンアル市場」を構築しつつある。
米シカゴを拠点とするNapa Hillsが提供する「ワインウォーター」はそんなノンアル飲料の1つだ。2017年8月にローンチ、ワイン製造の手法を応用しワインと同様の抗酸化作用を含む飲料プロダクトだ。同社創業者でCEOを務めるイローナ・ジャービス氏は、2000年以上のワイン生産の歴史を持つといわれるクリミア半島出身。米国に渡り、バイオサイエンスやワイン製造に携わった経験を持っている。
チェリー・ロゼ、ピーチ・グリージョ、レモン・シャルドネを揃え、現在ピノ・ベリーを開発中という。アマゾンで12パック35ドルほどで購入できる。
イスラエルのスタートアップWine Waterが提供するO.Vineもノンアルワインの1つだ。2018年6月末にニューヨークで開催されたFancy Food Showに登場、フード&ビバレッジ関連メディアの注目の的になっている。
同社創業者のアナト・レヴィ氏によると、アルコールと保存料を使わず酸化を防ぐ技術を開発、それがO.Vineの製造を可能にしたという。赤と白それぞれスティルとスパーリングを選べるようだ。健康意識の高い層や妊娠でアルコール飲料が飲めない女性などがターゲットという。
O.Vine(Wine Waterウェブサイトより)
ステーキやローストビーフにはフルボディの赤ワインを楽しみたいという人も多いはず。英国のBelvoir Fruit Farmの「shiraz」は、フルボディのテイストを持つノンアルコールワインだ。毎年英国で開催されているGreat Taste Awardでshirazは2017年に1つ星を獲得している。
ノンアル飲料はビールやワインだけではない。
南アフリカ発CederのClassic Non-Alcoholicはノンアルコールのジンだ。このほかカンパリのような風味を持つMonte Rossoなどが登場しており、ノンアル飲料市場は多様化の様相を呈している。
またノンアルドリンクをメインとするバーも増えており、アルコールフリーの文化が醸成されつつある。パブやバーが立ち並ぶロンドンでは、アルコールフリーのRedemption Barが登場。クラウドファンディングで30万ポンド(約4,200万円)を調達し、ロンドン市内に計3カ所を開設。ノンアルコールだけでなく、小麦粉・砂糖を使用しないビーガン食を提供しており、健康意識の高い層の人気を獲得しているようだ。
Redemption Barのメニュー(Redemption Barウェブサイトより)
またロンドンやニューヨークではノンアルコールのポップアップバーが登場、ノンアル需要に応える取り組みが増えている。
2018年11月ニューヨーク・ブルックリンに登場したポップアップバーListen Bar(Listen Barウェブサイトより)
アルコールを摂取しないというライフスタイルは今後どのような広がりを見せるのか。ノンアル需要の高まりで進化を迫られるアルコール飲料やバーの動向からも目が離せない。
文:細谷元(Livit)