青山フラワーマーケットティーハウス、ニコライバーグマンノム、ボタニストトーキョー、東京・表参道エリアに次々とオープンする、緑と花で店内が埋めつくされたカフェには一日を通して客足が絶えない。

インスタグラムで「#Indoorplans」のハッシュタグを検索すると、100万を超える投稿がヒットする。世界各地の大都市に暮らす、コンクリートの建物に周囲を囲まれた小さな部屋に住まうミレニアル世代には、潜在的に緑を身近に感じられる空間への憧れがあるのかもしれない。

そんなニーズを背景に、都会に住みながらも自分の住まいを緑で満たし、植物と共に暮らすライフスタイルを発信する「プラントフルエンサー」が注目を集めている。

インドアプランツに囲まれた生活を送る「プラントフルエンサー」のSNSアカウントは数万ものフォロワーを持ち、日々投稿される美しい写真はインドアプランツ製品を扱う企業のマーケティングに多大なる影響力を持つ。これまでファッションや旅などさまざまなジャンルで大きな影響力を持ってきたインフルエンサーに、「インドアガーデニング」という新しいジャンルが確立しつつあるといえるだろう。

著名な企業とのコラボレーションにとどまらず、自らのビジネスを起ち上げ、本を出版し、発信力を増すばかりのミレニアル世代のプラントフルエンサーは、世界中にネットワークを構築し、新しい都会のライフスタイルを提案している。

植物と暮らすライフスタイルを発信するプラントフルエンサー


トレンドの発信地ブルックリン

昨年ロンリープラネットによって世界で一番クールな街の一つに選ばれたブルックリン。文化の発信地ともいえるこの街には、コンクリートジャングルに囲まれながらも自宅に生き生きとした緑あふれる空間を創り出すプラントフルエンサーたちが暮らす。

ブルックリンのアパートメントで700あまりの植物と暮らすブロガー兼モデルのサマー・レイン・オークス(Summer Rayne Oakes)のインスタグラムアカウント「homestead brooklyn」には6万をこえるフォロワーがいるが、サマーは単にスタイリッシュな観葉植物やインテリアの写真をシェアするおしゃれなモデルというわけではない。環境科学の学位を持つ彼女は、健康的なライフスタイルやレシピ、サステナブルなファッションに関する本を執筆する作家でもあり環境活動家でもある。

トヨタ・プリウスを含む多くの企業とのコラボレーションプロジェクトを抱える彼女は、プラントフルエンサーの草分け的な存在であり、トヨタのキャンペーンでミューズを務めた際には、彼女にちなんでハイブリッドカーのカラーのひとつに「サマー・レイン」という名がつけられたほどだ。

グローバルに広がる「アーバングリーンリビングコミュニティ」


プラントフルエンサーコミュニティが生まれつつある

このトレンドはもはやニューヨークだけにとどまらない。「botanicalwomen」は、植物で満たされた空間での暮らしを実践する世界中の女性ブロガーをフィーチャーしたインスタグラムアカウントで、これまでカナダから、ロシア、ヨーロッパまで多様な「ボタニカルウーマン」が登場した。

トロントに暮らすジェニー・ファン(Jeannie Phan)はイラストレーターであると同時に、緑あふれる自身のアトリエについて発信するブログ「Fieldnotes by Studioplants」の運営者でもある。ロシア、サンクトペテルブルグ在住のアンナ・グルベヴァ(Anna Golubeva)は、ユニークな植物やガーデニング用品のショップ、写真スタジオやワークショップビジネスを運営する起業家。

ミー・シュミッド(Mee Schmid)はスイスのルツェルンで家族、そして200をこえる植物と暮らす人気インスタグラマーで、彼女のフィードは創造的なDIYインドアガーデニングアイデアで満ちている。

2015年にアムステルダムでBlogger Innovation Awardを獲得した、ミュンヘンとパリを拠点とするブロガー、イゴール(Igor)とパリ在住のジュディス(Judith)が主宰する「Urban jungle bloggers」は、このようなプラントフルエンサーのネットワーキングプロジェクト。そのコンセプトは、都市での暮らしと緑の融合を提案し、インテリアとしてだけではないインドアプランツの役割を強調することだ。

2016年には、18人のヨーロッパのプラントブロガーのDIYアイデアとインドアプランツに関するアドバイス、人気の植物についてまとめた本「Urban Jungle book」を英語とドイツ語で出版し、現在もイケア、エビアン、ピンタレストをはじめとする多くの企業とコラボレーションをしながら、プラントフルエンサーコミュニティの構築に貢献している。

インドアガーデニングトレンドを支えるテクノロジー


Click & Grow インドアガーデニングキット(公式Webサイトより)

一方、一年の大半が凍てついた暗い冬に閉ざされる北ヨーロッパでは、インドアガーデニングを最先端のテクノロジーで支える企業が生まれている。エストニア発でカリフォルニアに進出した、自宅で花や野菜を簡単に育てられるキットを開発するスタートアップ「Click & Grow」は、Urban jungle bloggersのスポンサー企業のひとつでもあり、インフルエンサーとのコラボレーションを積極的に行い、グローバルにビジネスを拡大している。

小さなプランタータイプから、壁をハーブガーデンへと変えてしまう大型のものまで、多様な品ぞろえのスマートガーデニングキットは、給水を一カ月に一度すれば、オートでLEDライトによって植物が育っていく。組み立てさえ済ませれば自動的に植物が育つのに必要な環境が整えられ、肥料や水やりなどに悩む必要はないのだ。

フィンランド発のPlantuiも、同様にテクノロジーの力を借りて、誰でも簡単に屋内でガーデニングができるキットを開発している。同社の提供する植物のラインナップに並ぶカラフルな花はエディブルフラワー。見て楽しむだけでなく、彩り豊かなサラダやスイーツをフレッシュな生花を使って作ることもできる。

緑に囲まれたライフスタイルへの憧れは多くの人が持っているが、生き物である植物と暮らすには細やかなケアと知識が必要だ。家をあけることが多いなど、仕事や生活のスタイルによっては植物との暮らしが困難な人もいるだろう。栄養や水やりの知識が不十分で観葉植物を枯らしてしまった経験のある人も少なくないはずだ。しかし、最先端のテクノロジーによる「スマートガーデン」の開発によって、どんなに忙しい人にとっても、植物を共にある暮らしが楽しめるようになりつつある。


植物のある暮らしがより身近なものに

SNSを通じてシェアされるプラントフルエンサーのクリエイティブな緑との生活は、癒しをもたらし、空気を清浄にするインドアプランツをますます魅力的な存在へと押し上げている。

屋内で人間と植物双方に快適な空間をつくるインドアガーデニングはハードルが高く感じがちだが、植物の選択から育て方、インテリアとの調和など、つきない疑問には世界中に拡大するプラントフルエンサーコミュニティが解決を助けてくれるだろう。テクノロジーを活用することで環境やライフスタイルを問わず、家の中で小さな自分だけの庭や畑を楽しむことも可能になっている。

私たちの世代にとって、ガーデニングはもはや広い庭とたくさんの時間を持つ人だけの特権ではなくなっているのだ。

文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit