「メイド・イン・チャイナ」と聞くと安価な服や靴などをイメージするかもしれない。

「世界の工場」と呼ばれる中国、1996年同国の輸出で最大を占めていたのは繊維製品(23%)だった。当時、中国製の安い繊維製品が世界中に出回ったことでメイド・イン・チャイナのイメージが定着したといえるだろう。

しかし、この20年で中国の輸出状況は大きく変化している。2016年時点の輸出で最大を占めていたのは、コンピューター、スマホ、自動車、電子機器、半導体などの機械類(48%)だった。

依然「世界の工場」と呼べるであろうが、今では高付加価値製品の製造に大きくシフトしており、その中身は以前のものと全く異質なものとなっている。

2015年に中国政府が公表した国家戦略「メイド・イン・チャイナ2025(MIC2025)」は、この動きを一層加速させる可能性を秘めている。

MIC2025では、2025年までに国内製造業の基盤を強化し、2050年頃までにロボット、電気自動車、航空機、鉄道などこれまで欧米や日本がリードしていた分野で優位なポジションを確立しようというものだ。

10年、20年、30年先の中国経済を形作るカギとなる戦略といえるだろう。

政府主導の「メイド・イン・チャイナ2025」の全貌

MIC2025とはいったいどのような国家戦略なのか。

MIC2025では、2015〜2025年を第1フェーズ、2026〜2035年までを第2フェーズ、2035年〜2049年までを第3フェーズとし、高付加価値製造分野で世界をリードできる技術・産業基盤を構築することを目指す。

現在、中国では高付加価値製品の輸出が増えているが、中核となる部品の多くは海外から輸入している状況だ。目標達成に向けて、高付加価値製品に使われる国内産部品の割合を70%に高める計画だ。

MIC2025戦略の遂行では、5つの理念と5つのタスクが重要視される。

5つの理念とは「イノベーション・ドリブン」「品質重視」「環境配慮」「構造最適化」「人材開発」。タスクは「国家イノベーションセンターの開設」「産業基盤の強化」「スマート製造の促進」「グリーン製造の促進」「ハイテク設備の導入」の5つだ。

これらの理念・タスクに沿った取り組みはこの数年急増しており、中国政府・各省のMIC2025への意気込みが見て取れる。

たとえば、天津で2015年2月に発足した天津・国家イノベーション・モデル区では、2017年9月時点で登録企業数が10万社を超え、同年1〜6月期の総売上高は1兆3,400億元(約22兆円)を超えている。10万社のうち3万社近くが電気自動車や次世代情報通信などのハイテク企業だ。

このほか2018年4月には広東省広州市で「航空産業イノベーション区」が発足、2018年6月には中国科学院・瀋陽オートメーション研究所とハルビン工業大学が「国家ロボット・イノベーションセンター」を開設するなどしている。

重点となるのは、ロボット、情報通信、航空宇宙、海運・造船、鉄道、次世代エネルギー自動車、発電設備、農業機械、次世代マテリアル、バイオ医薬品の10分野。MIC2025では、4カテゴリ12指標で評価が実施される。

たとえば、イノベーションカテゴリでは売上に占める研究開発費割合、グリーン製造カテゴリでは二酸化炭素の排出削減量がMIC2025の成功度合いを評価する指標となる。

10分野すべてが重要となるが、そのなかでも航空機製造は米ボーイング、欧州エアバスのグローバル2強市場に風穴を開ける象徴的な取り組みといえるだろう。

民間航空分野では、中国は2025年までに国内における国産ジェットのシェアを10%に、アジア域内でのシェアを10〜20%に、グローバル市場では40%のシェアを目指す目標を掲げている。

中国は2008年から国産商用ジェット機「COMAC・C919」の開発プロジェクトを開始。2017年に上海での試験飛行が成功したとして話題となった。

現時点でC919には、米ゼネラルエレクトリックとフランス・スネクマ(Snecma)の合弁会社であるCFMインターナショナルが開発したエンジンが搭載されている。

中国政府はエンジンの国産化も目指しており、MIC2025の下2016年に1,000億元(約1兆6,500億円)を投じ、中国航空エンジン集団を設立。これまでのところ人材不足などから国産エンジンの開発進捗は遅れていると報じられている。

今後人材開発を含めどのような舵取りがなされるのか、注目が集まっている。


C919の縮小モデル

中国政府主導でMIC2025が進められている一方で、ビジネス界隈では「クリエイテッド・イン・チャイナ(Created in China)」という意識も生まれている。

サウス・チャイナ・モーニング・ポスト紙よると、同紙が2018年1月に開催した「2018 China Conferece」で、シャオミやWeChatに投資を行っていたチミン・ベンチャー・パートナーズのデュアン・クアン氏は、シャオミのモバイル・テクノロジーやビジネスモデルのイノベーションに言及し、そのような中国企業が増えており「メイド・イン・チャイナ」から「クリエイテッド・イン・チャイナ」にシフトしていると指摘。

また中国深センの自動車メーカーBYDの広報責任者リチャード・リー氏も、かつてBYDも「メイド・イン・チャイナ」に焦点を当てていたが、今では「クリエイテッド・イン・チャイナ」という意識が急速に高まっていると述べている。

シェア自転車や顔認識技術、ドローンなどもクリエイテッド・イン・チャイナの象徴といえるだろう。


CES2018、中国企業ハイアールのブース

米ラスベガスで毎年1月に開催される世界最大級の家電見本市CES。2018年の総出展数は約4,500社だったが、このうち1,550社が中国の企業だった。

2011年のCESにおける中国企業の出展数は400社。7年で4倍近く増加している。この数字もクリエイテッド・イン・チャイナの拡大を示唆するものだ。

こうした流れの影響を受けつつ、中国の製造業はどこに向かうのか、今後の動向からも目が離せない。

文:細谷元(Livit