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昨今、プラスチック汚染の話題がニュースが頻繁に取り上げられ、特に環境問題に興味がなくても、誰もが日常生活に関わる身近で差し迫った事態と感じられるはずだ。
今年に入ってからは、世界規模で使い捨てレジ袋の使用の禁止が進み、スターバックス、ウォルト・ディズニー・カンパニー、アメリカン航空といった大手企業がプラスチックストローの廃止を決めるなど、世界をあげて「脱プラスチック」への道を歩み始めている。
使用済みコンタクトレンズはどこに捨てる?
「プラスチックごみ」と一言でいっても、種類は多い。私たちの目に見えなかったり、使っていても環境に悪影響を及ぼしているという自覚がないものもあって、特にたちが悪い。すでに各国で生産・使用禁止が進む、洗顔剤などに含まれるマイクロビーズがこれにあたる。
マイクロビーズの研究調査を行っていた、米国アリゾナ州立大学の科学者チームが新たな問題を発見。使用済みコンタクトレンズの海洋への影響を示唆する発表を今年8月に行っている。
米国を例に挙げると、コンタクトレンズ使用者は4,500万人に上るそうだ。チームが行ったアンケートの結果、調査対象者の15~20%が、使用済みコンタクトレンズを洗面所やトイレに流し、廃棄していることがわかった。
つまり、下水を通して海に流れ出すコンタクトレンズは、年に18億~34億枚にも及ぶわけだ。チームによれば、下水処理場などを通過する際にレンズは粉砕され、マイクロビーズや他の粉々になったプラスチック同様、海洋生態系を汚染。さらに人間が属する食物連鎖に入り込んでいると予想している。
アリゾナ州立大学の、コンタクトレンズの海洋への影響を調査・研究するチームの1人、チャールズ・ロルスキーさん © Arizona State University
私たちの手間を取る割に低いリサイクル率
プラスチック汚染問題の解決策の1つとして、リサイクルが勧められているが、実際のところ、どの国でもプラスチックをリサイクルする率は低迷している。例えば米国環境保護庁の調べで、国内で発生する全プラスチックごみのリサイクル率はたった7%だそうだ。
なぜこんなにリサイクル率が低いのか。それはプラスチックをリサイクルする難しさにあるのだ。
プラスチック製品は細かく分類すると、50種類以上にも及ぶため、リサイクルの前段階であるプラスチックを仕分けすること自体が難しいという。私たちに身近なPETボトルやポリプロピレン製のものは特にリサイクルが難しいとされる。
また、ごみ収集やリサイクルは地方自治体に任されていることが多く、適したリサイクル施設が用意できなければ、仕方がないので、ごみ処理場に持ち込む以外方法がない。市民は、プラスチックが一般ごみと同じ運命なら、わざわざリサイクルのために洗浄し、手間をかけて分別しても無駄と考え、一般ごみとして捨ててしまう。悪循環だ。
プラスチックが燃料、道路、タイルに変身
リサイクルに期待できないのであれば、プラスチックをまったく使用するのをやめ、プラスチックの代替として別の素材でできた製品を考案・導入するという手がある。その一方で、テクノロジーを駆使し、プラスチックごみに手を加え、新たな製品を生み出すことも積極的に取り組まれている。
プラスチックは汚れている方がいい?~水素燃料
英国のスウォンジー大学が9月、プラスチックを水素燃料にする方法を発見したことを発表した。将来的には、水素燃料で車を走らせることが可能だという。光を吸収する物質をプラスチックに加え、溶液に浸し、太陽光線のもとにさらして処理を行う。
通常のリサイクルは、プラスチックを洗浄しなくてはならないことや、種類の違うプラスチックを交ぜることができないことがネックとなり、手間とコストがかかる。
しかし、この水素燃料への変換は違う。手がかからず、経済的にも優れているというのだ。マーガリンのプラスチック容器に、まだマーガリンが付着していても、水素を発生させる化学反応は支障なく起こるという。むしろ汚れがあった方が反応を活性化する特徴があるそうだ。
また水素燃料を作り出すのに必要なのは、1つのプラスチックごみを構成する一部の物質だ。残りのほかの化学物質を使えば、新たなプラスチックを作ることもできるという。
ただし、スウォンジー大学が開発した水素燃料を市場に流通するレベルに引き上げるのには、まだ年月を要するという。プラスチックからディーゼル燃料を創り出す研究も、ほかの複数の研究機関で進められており、プラスチックを原料とした燃料への期待が高まっている。
水素燃料の研究・開発チームを率いるモリッツ・クーネル博士 © Swansea University
耐久性抜群の上、「スマート」ロードの可能性も~道路
オランダ東部にあるズヴォレの町で、9月にお目見えしたのが、プラスチックごみを利用した自転車専用道だ。3年前に同国の大手建設会社、フォルカ・ヴェッセルス傘下のKWS社と、ほか2社が、「プラスチックロード」を開発した。自転車専用道路以外にも、歩道や駐車場、鉄道駅のプラットホームに利用する計画もある。
道路は、70%がプラスチックごみのリサイクル、30%がポリプロピレンから成る。約30mの長さを作るのに、プラスチックカップ21万個以上、ボトルのキャップ約50万個分を要した。耐久性は、通常のアスファルトの2~3倍。
アスファルトは製造過程で多くの二酸化炭素を排出し、敷設に時間もかかるが、プラスチックロードを使えば、それらを減らせる。補修できないほど損傷した場合は、単にはがし、リサイクルするだけだ。
道路に他機能を加えることもできる。表面に滑り止め加工を施すれば安全性が上がる。将来的には、交通管理モニター用のセンサーを埋め込んだり、上を走るだけで電気自動車にワイヤレスで電気をチャージできるようにしたりして、「スマート」ロードに変身させることも考慮されている。
11月には、ズヴォレの北にあるヒートホールンの村にも同様の道路が造られ、プラスチックロードが持つさまざま可能性についてのリサーチが続けられる。
工場で部分的に造り、現地ではそれをはめ込むだけなので、プラスチックロードの敷設に時間はかからない
世界一小さい、移動式エコ工場で製造~タイル
台湾に本拠地を置き、さまざまな廃棄物からアップサイクルした製品を開発・生産する、ミニウィズ社は、プラスチックごみと布ごみからタイルを生産している。
英国の雑誌、『エコノミスト』誌で取り上げられ、また英国のロンドン・デザイン・ミュージアムによる、毎年恒例の国際的なデザイン・アワーズ、「ビーズリー・デザインズ・オブ・ザ・イヤー」に10月ノミネートが決まるなど、注目が集まっている。
同社の六角形のタイルは1枚につき、プラスチックボトル5本、もしくはキャップ50個を使う。製造のためのミニ工場はとてもユニーク。約12mのコンテナに収まるサイズで、「トラッシュプレッソ」と名づけられ、世界初の「モバイル」リサイクリング工場だそうだ。
プラスチックごみを集め、洗浄・粉砕・溶解を行い、型にはめてタイルに仕上げるまでの全工程を処理。約50キロ分のプラスチックごみをタイルにするまで1時間ほどしかかからないという。
トラッシュプレッソが革新的なのは、太陽光エネルギーで稼働する点にもある。送電線がない場所に持って行っても操業できるというわけだ。さらにプラスチックの洗浄に利用した水は、リサイクルしてまた使用するといった具合に、環境への配慮を最大限行っている。
プラスチックと布のリサイクルながら、タイルの見た目はなかなか(ミニウィズ社のフェイスブックより)
プラスチックごみの問題解決には、それをさまざまな製品に変える方法のほかに、プラスチックを「食べる」酵素が発見され、研究まで行われるようになった。人間の手で創り出されたプラスチック。人間の英知を結集して、処理法を編み出さなくてはならない。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)