近年、認証・認可の重要性が増している。このようななか、生体情報による認証技術が注目されている。

これは、認証技術にさらなる安全性と簡便性が必要になってきたためで、これまでのようにIDカードの提示やパスワード入力なしに、生体情報のみで本人を特定する手ぶらでの認証技術が期待されている。

この手ぶらでの認証の代表格が手のひら静脈認証だ。これは、世界中で銀行ATMや入退室管理、PCなどの個人利用端末へのアクセス管理などで主に活用されている。

銀行ATMなど、数万人規模の利用者の手のひら静脈が登録されている場合、比較照合を効率化するべく、カードなどのほかの情報を入力することでデータの絞り込みを行ってきた。

しかし、今後、100万人規模の利用が想定される実店舗での決済へと利用範囲を拡大するには、非接触によるクリーンな環境で、かつ利用の負担を感じさせないより簡便な環境での認証が求められている。

富士通研究所は、富士通研究開発中心有限公司と共同で、手のひら静脈と顔情報のみで本人を特定し、非接触で認証できる生体認証融合技術を開発したと発表した。

手のひら静脈と顔情報を融合。手ぶらでの認証を実現

今回開発した技術は、一般的なカメラで取得できる顔情報を活用して、利便性の高い手ぶらでの認証を実現した。

開発した技術の特長は以下のとおり。

  • 高速に演算できる顔特徴抽出技術

    画像から精緻に本人を特定するためには、顔の向きや表情の変化などにも対応する高精度な特徴抽出を実現するための複雑な仕組みを構築する必要があった。しかしこれには、処理時間が増大するという課題があった。

    今回、精度を落とさずに複雑な仕組みを簡易的に模擬するアルゴリズムを開発し、処理サイズを約10分の1へ軽量化することに成功した。これにより、高度な顔認証を瞬時に処理することが可能になるとしている。
  • 手のひら静脈と顔情報を融合した生体認証融合技術

    決済端末利用中の自然な動作のなかでカメラから取得できる顔情報を利用して、登録されている100万人規模のデータベースのなかから類似するグループに絞り込みを行う。決済時など実際に認証が必要な時に、利用者が手のひらをかざすことで、絞り込んだグループから1人を迅速に特定する。

    また、手のひらをかざす操作で静脈のデータが一部取得できなかった場合、顔情報で認証に必要な情報が補てんできるため、2つの生体情報を利用することによる認証の安定性を向上できるという。

    さらに、手のひら静脈と顔情報の処理を分離することで認証サーバへの負荷を軽減でき、顔情報の比較演算の高速性と相まって、計算リソースの増大を抑制できる。

この新技術は、利用者にカードなどのほかの情報の入力を意識させることなく、かつ、認証サーバの計算リソースの増大を抑制しながら、100万人規模の手ぶらでの認証をリアルタイムに実現する。

富士通研究所では、同技術の2020年度中の実用化を目指す方針だ。

「最もセキュアな生体認証」である「虹彩認証」も実用化へ

AMPでも取り上げたが、先日、スワローインキュベートが生体認証の一つとしてパナソニックの特許を活用した「虹彩認証SDK」を自社開発し提供を開始したと発表した。

同社によると、「生体認証」のなかでも、「虹彩認証」は理論上「最もセキュアな生体認証技術」であるとされているという。また、他の生体認証と比べて経年変化がなく、タッチレスな認証を実現できることも大きな魅力だという。

具体的には、

  1. 日本初の「国産 虹彩認証SDK」
  2. 世界初の「瞳孔径マルチテンプレート方式」を実装(パナソニック特許活用)
  3. 1秒未満の「高速な認証速度」
  4. さまざまな導入シーンで虹彩認証の利点を活かせる

といった特徴を持つ。

オフィス・工場・マンションなどの入退室管理セキュリティやコネクテッドカー・ATM空港・スマートフォンなどの各種IoT端末での本人認証。またPOSレジ・レジャー施設などの決済デバイスにも活用できる。

また、手袋やマスクを着用するような、従来の指紋認証や顔認証では難しい利用シーンにおいても「虹彩認証」なら導入可能だという。

現在、複数社にて導入実証を進めており、近日「導入事例」として公開予定だ。

認証の精度を高めかつ認証時の負担を減らす新技術

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2013年に発表した「生体認証導入・運用の手引き」によると、生体認証には「指紋認証」をはじめ、「静脈認証」、「虹彩認証」、「顔認証」、「音声認証」、「サイン認証」などがあるという。

これら方式には、それぞれメリット、デメリットがあるが、個人情報利用におけるセキュリティの重要性が増大している今、生体認証技術自体が必須の技術であろう。

今回の新技術は、手のひら静脈と顔情報を融合させ、認証の精度を高め、かつ認証時の負担を減らそうというもの。2020年度中には実用化するということで、その成果に期待したい。

img:Fujitsu  , PR TIMES