評価額100億ドル以上のデカコーンやユニコーンを次々輩出、中国のシリコンバレー「中関村」

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最近日本でも注目度が高まっている中国のユニコーン企業。

未上場で、評価額が10億ドル(約1,100億円)以上のスタートアップをその希少性から「ユニコーン」と呼んでいるが、中国ではこの数年評価額10億ドル以上のスタートアップが急増しており、「希少」という表現が当てはまらなくなってきている。

2018年9月末時点のCBインサイト・ユニコーン企業リストによると、世界に275社のユニコーン企業が存在し、そのうち最多は米国で130社となっている。中国は2位で78社だ。

2018年4月のデータによると、世界全体で233社、そのうち米国が114社、中国が64社だった。この数カ月で、米中ともに10社以上増えていることになるが、伸び率では中国が若干上回っている。

ユニコーン企業輩出で米国に迫る中国。この数年、中国スタートアップの躍進は、中国版シリコンバレーと呼ばれる北京の「中関村(ちゅうかんそん=Zhongguancun)」を抜きにしては語れないだろう。

中国ユニコーン企業の半分近くが中関村に拠点を構えているといわれており、世界中の起業家や投資家の注目を集める場所となっている。

日本で語られることが少ない中関村、いったいどのような場所なのだろうか。

中国全土のユニコーン企業の半数近くが拠点を置く中関村

北京市の北西部に位置する中関村。同地区の総面積は488平方キロメートル。大阪市の面積(約220平方キロ)の2倍以上の広さを誇る。ちなみ東京23区の総面積は約620平方キロ。

中関村

現在、中関村と呼ばれる地区は1980年頃秋葉原のような電気街として発展したといわれてる。1988年「北京市新技術産業開発試験区暫定条例」が公布され、同地区は中国初の国家級ハイテク技術産業開発区として認定された。

2001年には「サイエンスパーク条例」が施行され、同地区で優遇税制や戸籍緩和策などが導入された。これをきっかけにテクノロジー分野の起業・投資が加速。北京大学や清華大学など中国トップクラスの大学が近いということもあり、国内外のテクノロジー企業による産学プロジェクトや研究開発拠点開設が増えていった。

中関村発の主要国内企業にはバイドゥ、レノボ、Youku、JDなど、また拠点を開設した海外企業にはグーグル、エリクソン、マイクロソフト、IBMなどが含まれる。

中関村にあるマイクロソフトの研究開発拠点

中関村のウェブサイトによると、現在同エリアに拠点を構えるハイテク企業の数は1万6,000社、従業員数は280万人、総売上高74兆円、ベンチャーキャピタル投資総額1兆6,000億円以上と目を見張る数字が並んでいる。

2018年3月、中国・科学技術部(省)、グレートウォール・ストラテジー・コンサルタンツ、中関村管理委員会が共同で発表したレポートによって中関村への関心が一層強まった。

このレポートによると、中国全土のユニコーン企業のうち42%以上が中関村に拠点を構えていることが明らかになったからだ。

同レポートは、2017年中関村を拠点とするユニコーン企業は70社に上り、合計した評価額は2,764億ドル(約30兆円)に達したと報告している。70社のうち2017年に登場した企業は22社。分野はEコマース、金融、ロジスティクス、オンライン教育など多岐にわたる。

また2017年は中関村で評価額100億ドル(約1兆1億2,000万円)以上の「デカコーン(decacorn)」企業が5社誕生したと伝えている。

その5社とは中国配車サービス最大手Didi(当時の評価額560億ドル)、スマホメーカーXiaomi(460億ドル)、生活関連オンラインサービスのMeituan(300億ドル)、ニュースアプリToutiao(200億ドル)、金融サービスのJiedaibao(108億ドル)だ。

この5社の評価額は中関村に拠点を置くすべてのユニコーン企業の評価額の59%を占めていたという。このうちXiaomiは2018年7月に、Meituanは2018年9月に香港で新規株式公開を実施、どちらも今年注目の大型案件として多くのメディアに取り上げられた。

デカコーン以外では、評価額20〜50億ドルのユニコーン企業が19社、10〜20億ドルが44社となっている。中関村のユニコーン企業のうち60%がEコマース、エンタメ、交通、オンライン金融、オンライン教育の5つの分野に集中している。

中関村でユニコーン企業が続々と誕生する背景には、人材と投資を惹きつける魅力とスタートアップを支援する強力なエコシステムの存在があるといえるだろう。

中関村ライフサイエンスパーク

エキスパート・マーケットがこのほど発表した「世界テクノロジー・ハブ・ランキング」では、中関村がシリコンバレーやテルアビブなど世界の名だたるテクノロジーハブをおさえて1位となった。

このランキングは、初期投資、ソフトウェアエンジニアの給与、起業環境、生活費・家賃、スタートアップ企業のアウトプットなど10の指標で各都市をランク付けしている。

中関村は、起業初期の資金調達のしやすさや生活費の安さなどが評価され総合で1位となった。2位はドイツ・ベルリン、3位米シリコンバレー、4位米オースティン、5位イスラエル・テルアビブ、6位上海、7位インド・バンガロール、8位米ボストン、9位英ロンドン、10位カナダ・バンクーバー。

シリコンバレーは、エンジニアの給与と起業初期の資金調達に関する評価が高いものの、高騰する家賃によって総合指数が大幅に下がり3位に甘んじる結果となった。

中関村の進化は今後も加速していく見込みだ。新華社通信が2018年1月に伝えたところでは、中関村で138億元(約2,270億円)が投じられ「中関村・人工知能パーク」が建設される計画が明らかになった。

この人工知能パークには400社の企業を誘致、また海外の大学との提携も進めるという。また同年2月には国内人材だけでなく国際人材の誘致強化策を導入。この施策には海外ハイレベル人材のビザ審査期間の短縮や永住権取得条件の緩和などが含まれている。

世界のスタートアップ市場で存在感を高める中関村、シリコンバレーに取って代わる存在になるのか。今後の展開から目が離せない。

文:細谷元(Livit)

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