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農林水産省が2013年から検証を開始した「スマート農業」。ロボット技術やICTを活用して超省力化・高品質生産を実現する新たな農業として注目されている。
背景にあるのは、担い手の減少・高齢化の進行による労働力不足。業界内だけでは解決できない深刻な課題に、テクノロジーに強みを持つ企業も参入し、現場での成果も出始めてきた。
農業IoTで収益改善は実現できるか
スマート農業の実現は、地方から進みつつある。兵庫県伊丹市内の若手農家で構成される伊丹市農業青年研究会は、西菱電機株式会社と協働し、LoRaWAN™を活用した農業IoTの実証実験を行った。
LoRaWANとはLPWA(Low Power Wide Area)通信方式のひとつで、省電力で広域をカバーできるIoT向けの無線ネットワーク規格だ。このLoRaWAN™に対応した環境センサーをビニールハウス内に設置し、完熟トマトの栽培環境における「見える化」を目指した。
検証期間は2018年4月から2018年8月。ビニールハウスの栽培環境の数値化によって、これまで経験に依存していた水やり回数を1週間に8時間削減し、空き時間をミニトマトの出荷販売に充てることができたという。
また、ビニールハウス内の温度や土壌温度の数値化によって、温度抑制用のカバーや消毒の有効性が確認でき、投資すべき資材が明確になった。
働き方や収益の改善につながる結果が得られたほか、「市民農園のお客様から今年は味が良いという声もあった」という報告もあり、品質向上にも期待が寄せられる。
いずれの実験も、西菱電機が提供する「Seiryo Business Platform(SBP)」という、IoTやコミュニケーションツールのサービスを活用したものだ。ICTソリューション企業である西菱電機では、「今後もIoTを通じて農業栽培における地域貢献を行う」と宣言している。
テクノロジーの力で農業を数値化
西菱電機のように、自社が培ってきたテクノロジー領域のノウハウを農業に活かす「AgriTech」の実践事例は国内外でみられるようになってきた。
2017年には、ドイツの自動車部品や電動工具メーカーRobert Boschの日本法人ボッシュ株式会社が、AIによる農作物の病害予測サービス「Plantect」のサービス提供を開始した。やはりIoTを軸にビニールハウスの栽培環境に注目した事例だ。
ボッシュが開発した「Plantect」は、ハウス環境のモニタリングによって農作物の育成に影響を与える湿度、温度、日射量、葉濡れなどのデータを収集し、そのデータをスマホやPCでリアルタイムで閲覧できる。
さらに得られたデータが気象予報などと連動して解析され、植物病の感染リスクの通知をアプリ上に表示する機能を持つ。
異業種からの農業IoTへの参入は他にもみられる。トヨタ自動車は、自動車製造で培った「カイゼン」ノウハウを農業に適用した農業管理ITツールの「豊作計画」を開発した。
NTTドコモは、自社の通信事業領域のノウハウを活用し、畜産向けアプリケーション「モバイル牛温恵」や、マップ・航空写真を利用したクラウド型農業支援システム「アグリノート」などを提供するなど、テクノロジーを使った農業改革は進んできた。
地方農業の救いの一手となるか
農業のように、従事者の減少によって勘や経験による継承が難しくなってきた分野は、特に地方に多い。今回のケースで企業と組んだのが若手農家の集まりだったように、地方において次世代産業を担う若手の思いは切実だろう。
一方で、AgriTechに取り組む企業側の技術開発も進んできている。そこには西菱電機が宣言したように、企業による地域貢献という動きもみられる。
技術の開発と現場での適用、それぞれのプレイヤーの思いがつながり始めた。今後もさまざまな実践報告が地方から発信されていくことだろう。