Luckin Coffee(TECHINASIAより転載)
中国は今、空前のコーヒーブームを迎えている。Statistaの調査によると、2014年から2019年までの一人当たりのコーヒー消費量の伸びは、アメリカが0.9%、日本が3.5%に留まるなか、中国は18%の伸長を見込んでいる。
そんな中国のコーヒーブームを牽引し、長きにわたり市場を席捲してきたのは、日本でもおなじみのスターバックス コーヒー。しかし今、とある「スタートアップ」がその牙城を切り崩そうとしている。
単なるスタバの模倣ではなく、テクノロジーを駆使して急成長する同社の戦略、そしてその戦略から浮き彫りになる、中国のミレニアル世代が今小売に求めるものとはーー。
アプリで注文から決済まで、店舗はピックアップのみ
コーヒー文化の浸透により市場規模が拡大する中、スタバは中国で3,124店舗を展開、その市場シェアは51%。そんな業界のジャイアントに挑もうとしているのは、2017年11月に北京市に一号店をオープンした「Luckin Coffee」(以下Luckin)だ。
一号店のオープンから9カ月後の2018年8月時点ですでに809店舗にまで拡大し、Luckinの創業者であるQian Zhiya氏は今年2018年の年末までに2,000店舗にまで拡大すると公言した。さらに同年7月にはシリーズAで2億USドル(約220億円)を調達し、同社の時価総額は10億USドル(約1,110億円)にのぼるなど投資家からの期待も大きい。
Luckinのアプリ(AppStoreより)
Luckinの急成長を支える要因の一つはテクノロジー。「時は金なり」の言葉が表すように、中国人にとって待ち時間は何よりのタイムロス。それを極力発生させぬよう、顧客は来店前にアプリでオーダーと決済を行い、店舗では商品の受け取りのみ。レジ前の行列に並ぶ必要はない。
オンラインオーダー自体は目新しいものではない。先を行くスタバは2014年、すでにアメリカで事前にオンラインでオーダーし、店頭で受け取れるサービスを提供開始。Technodeによると顧客の10人に一人が利用しているという。
しかしLuckinがスタバと異なるのは、店舗をあくまで「ピックアップステーション」と捉えている点。2018年6月時点で同店の44%は「テイクアウト専門店」だ。ゴールドマン・サックスによると、Luckinの顧客の70%は30歳以下のホワイトカラー。これに対し、スタバは50%。独自のサービス、店舗づくりで差別化に成功していると言えそうだ。
デジタル駆使でコスト削減、スタバで500円のラテがLuckinなら380円
Luckinのデリバリーサービス(TECHINASIAより転載)
Luckinは自社でデリバリーサービスも提供している。Uber Eatsなどサードパーティーには頼らず、中国の物流会社 SF Expressと公式にパートナーシップを結んで実現した、30分以内に配達する「エクスプレス・デリバリー」も同社の売りの一つだ。
ちなみに、中国ではフードデリバリー市場が急速に拡大しているが、その理由の一つは配送料の安さ。アメリカの平均配達料が4.1USドル(約450円)であるのに対し、中国は0.8USドル(約90円)。気軽に活用できるため、特にミレニアル世代にとっては購入した商品が玄関口まで届くことは当たり前になっている。Luckinももれなくそのニーズに応えている。
中国では急速に電子決済が浸透し、導入する際は「WeChat」の電子決済サービス「WeChatPay」を採用する企業が多いが、同社は自社アプリにこだわる。
その理由について、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)のYang Fei氏は「自社アプリを通して集めた顧客データは、今後のマーケティングに活きる。データを制するものが勝つ」とTech in Asiaに語った。
そのアプリを活用し、ユーザーが職場の同僚の分もまとめて購入することを想定した「5つ買うとさらに5つ無料」や「友達紹介ディスカウント」などのプロモーションも実施。そうしたデジタルマーケティング施策が奏功し、2018年4月のユーザー定着率は80%にも上ったという。
Luckinのこうした取り組みは、コスト削減にもつながっている。店舗をピックアップステーションと位置づけることで、一店舗あたりの面積やレジ打ちを担当する店員の人件費などを削減。カットした分のコストはコーヒーの値段に反映され、トールサイズのカフェラテはスタバでは31元(約500円)なのに対し、Luckinでは24元(約380円)だ。コーヒーを一日に複数回飲むこともあるオフィスワーカーにとって、この価格の差は大きいだろう。
スタバももちろん、Luckinの快進撃をただ静観しているわけではない。
昨年2017年、上海に「Starbucks Reserve Roastery」をオープン。Roasteryは一般的なスタバの店舗とは異なり、小ロットで焙煎され丁寧に淹れられたコーヒーが楽しめ、同社の歴史や文化なども同時に体験できる場所という位置づけ。上海店は全世界のRoasteryの中で2番目の規模。オフラインの豊かな体験を提供する戦略に舵を切っている。
Starbucks Reserve Roastery(同社公式ウェブサイトより)
またデリバリーも、これまで地方自治体の規制当局が食品安全上の懸念を理由に禁止するまでは無認可のサードパーティーを使って行うケースもあったが、この8月2日にようやく、アリババが買収したEle.meと手を組み、デリバリーサービスを開始と発表。だが、どうしても後手に回っている印象は拭えない。
電子決済、浸透後の国内の文化やメインユーザーが何を快適に感じるかをくみ取り、急成長するLuckin。人は一度でも快適なサービスを体験すると、従来の不便な生活には戻れないものだが、Luckinはこれからますますスタバを脅かすことになるだろうか。今後に目が離せない。
文:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit)