2001年、中国国内に300カ所しかなかったトレーニングジム。この数年で急速に増加し、現在その数は3万7,000カ所を超えたといわれている。また、2008〜2016年でジムの会員数は2倍以上増加し、660万人に達した(ストレーツ・タイムズ)。
北京のビジネススクール長江商学院によると、2016年には中国国内で328ものマラソン大会が実施され、280万人が参加した。マラソン大会の数は5年前に比べて14倍も増加したという。
中間層の台頭、健康意識の高まりなどによって中国ではいま爆発的なフィットネスブームが起こっているのだ。
また中国政府は「ヘルシー中国2030」というイニシアチブのもと、日常的に運動する人の数を2014年の3億6,000万人から2030年に5億3,000万人に増やすことを目標としている。その一環で政府主導のフィットネスファンドを設立し、フィットネス施設の増設やスポーツ都市の開発を進めている。
さまざまな要因が中国のフィットネス産業の拡大を加速させているが、そのフィットネス産業拡大の中核になるとみられているのがミレニアル世代だ。
フィットネスをファッションやラグジュアリーと捉え、ソーシャルメディアを通じて自身のフィットネスライフを公開、コミュニティでお互いを刺激し合い、独自のフィットネスカルチャーを構築している。
このフィットネスカルチャーの構築で重要な役割を担っているのがフィットネスアプリだ。日本や欧米では、Runtastic、Runkeeper、Sworkitなどが有名だが、中国では国内発のアプリが普及し、独自のカルチャーを醸成している。
日本ではほとんど知られていないアプリだが、現在グローバル機関投資家による資本注入がなされており、WeChatのようにグローバル展開するものも近く登場する可能性がある。今回は中国フィットネスアプリの最新動向をお伝えしたい。
ユーザー急拡大の中国フィットネスアプリ・トップ3
近年のフィットネスブームに乗って中国ではこれまでに1,000を超えるフィットネスアプリが乱立したといわれている。しかし淘汰が進み、現在人気アプリは数個に絞られている。
中国のコンサルティング会社SooToo Researchの2016年フィットネスアプリ・ダウンロードランキングによると、1位は9,232万回ダウンロードされたKeepだ。2位は8,972万回のYodo Run、3位は7,437万回のCodoonとなる。ちなみに、2016年1〜6月のフィットネスアプリユーザーの80%が19〜35歳のミレニアル世代であることが明らかになっている。
これらが中国における3大人気フィットネスアプリとなるわけだが、それぞれいったいどのようなアプリなのか、その詳細を見ていきたい。
Keepは数分でできるエクササイズコンテンツを中心に発信するフィットネスアプリ(2014年ローンチ)。忙しいオフィスワーカーを主なターゲットにしたことが奏功し、登録ユーザー数は現在1億4,000万人に上るという。ユーザーによる投稿機能もあり、ソーシャルメディアとしてフィットネスコミュニティを醸成する役割も担っている。
またKeepはそのユーザー基盤を生かしたEコマースも実施しており、ヨガマットやスポーツウェアなどを販売している。さらに2018年3月には北京にトレーニングジム「Keepland」を開設したほか、スマートランニングマシンをローンチするなど、積極的に事業を拡大している。
Keepのスマートランニングマシン(Keepウェブサイトより)
Keepの拡大スピードとユーザー基盤、将来の成長可能性に注目する投資家は多く、このほど実施されたシリーズDラウンドの資金調達では、ゴールドマン・サックスがリードインベスターとなり、1億2,700万ドル(約140億円)が投じられた。この資金調達には、テンセント、GGVなどの既存の投資家も引き続き参加。今回を除いた資金調達ラウンドでは、6,000万ドルを調達している。
テンセントが運営するミニブログサイトWeiboのKeep公式アカウントのフォロワー数は376万人。一方、グローバル展開も視野に入れており、インスタグラムでは英語でコンテンツを発信している。フォロワー数は48万人を超えている。
SooToo Researchのダウンロードランキングで2位となったYodo Runは2014年に登場した、ランニングに特化したフィットネスアプリだ。登録ユーザー数は1億人以上で、1日あたりのアクティブユーザー数は600万人を超えるという。
現金をインセンティブとする仕組みやコミュニティベースのオフラインイベントなどが人気を集める理由のようだ。
2017年4月には、ベンチャーキャピタルのノキア・グロース・パートナーズ(NGP)などから1億元(約16億円)を調達。NGPは10億ドル(約1,100億円)を運用するVCで、現在米国、欧州、インド、中国のスタートアップ80社に投資。これまでにシャオミーやデリバールーなど世界的に有名になったスタートアップにも投資を行ってきた。Yodo Runにも同様のポテンシャルが秘められていることを示唆している。
Codoonは、アプリだけでなく、アプリと連動するスマートシューズやスマートランニングマシンなどを開発する2010年設立のスタートアップだ。同社ウェブサイトでは、2018年7月時点でユーザー数が1億5,000万人を超えたと主張している。
Codoonアプリでは、近くのランニングコースを検索する機能のほか、Keepのようなエクササイズコンテンツを配信。またスポーツイベントなども開催してコミュニティ構築にも力を入れている。2015〜2017年の間に400レースを開催したという。
最近ではシャオミーと提携し、フィトネス向けのイヤフォンをローンチ。また、アプリのランニングコースを3次元ARで示す機能を導入するなど、ユーザー獲得に向けさまざまな取組みに力を入れている。
中国ではこれらのほかに、オンラインマラソンの実施で注目されるJoyrunやヨガに特化したDaily Yogaなど数千万人規模のユーザーを抱えるフィトネスアプリが存在する。
中国のフィトネス市場は伸びしろが大きいと見られており、今後も多くの投資資金の流入が見込まれている。中国発でグローバル展開するフィットネスアプリが登場する日はそう遠くない未来にやってくるのかもしれない。
文:細谷元(Livit)