4億人近いといわれる中国のミレニアル世代。他国の同世代に比べ消費意欲が旺盛で、中国国内だけでなく世界経済にも大きな影響を与える層として国内外の企業の注目を集めている。
以前お伝えしたように中国ミレニアル世代の関心はいま健康に向けられており、中国国内ではフィットネスブームが起こっている。
もう1つ中国ミレニアル世代の強い関心を引いているのが旅行だ。
ブルームバーグの推計によると、2016年の中国ミレニアル世代による海外旅行は8,200万回に上り、1,500億ドル(約16兆6,500億円)以上を支出したという。これは中国全体の海外旅行支出の60%を占める額。ミレニアル世代が中国全人口に占める割合は27.5%といわれており、この数字から他世代に比べミレニアル世代の旅行支出が高いことがうかがえる。ちなみに、米国全人口の海外旅行回数は7,500万回だった。中国では今後も若い世代の海外旅行は増加すると見られており、2021年まで年率8.5%で成長する見込みだ。
これまで中国人の海外旅行といえば、団体旅行やクルーズ旅行で、香港やマカオ、フランス・パリなどの人気スポットに行くことが定番だったという。
しかしミレニアル世代の間では、こうした伝統的な旅行ではなく、個人でめずらしい場所や秘境に行くことがトレンドとなっている。
中国ミレニアル世代は、どのような場所に、何を求め旅行するのだろか。今回は、中国ミレニアル世代が生み出す新しい旅行トレンドについてお伝えしたい。
ロシア観光をする中国人団体旅行客
より遠く、より長く、増加する中国ミレニアル世代の旅行支出
2018年8月にHotels.comが発表した最新レポートは、中国人の海外旅行に関する2017年のデータを包括的にまとめ、ミレニアル世代の海外旅行最新トレンドを抽出している。年齢18~57歳の3,047人が調査対象となっている。
冒頭で紹介したブルームバーグの推計通り、中国ミレニアル世代の旅行支出は2017年も増加傾向だ。旅行先がより遠く、旅行期間がより長くなったことが支出増の理由となっている。
全体では前年比40%の支出増。一方、90年代に生まれた「90後(ジョウリンホウ)」といわれる層の支出は80%も増加。また、90後は所得における旅行支出の割合が36%と全体平均の28%を上回った。
中国のミレニアル世代は、80年代生まれの「80後(バーリンホウ)」と「90後」で特徴が異なることが多く、一般的にミレニアル世代のなかでも個別に分析される場合が多い。このレポートでは、80後と90後の特徴を個別に抽出している。
よりに遠くに旅行するという傾向は、今後計画している旅行先のデータでも顕著に示されている。
近場で人気があったアジア地域への旅行を計画している割合は49%にとどまった一方、60%がこれまで行ったことがない場所への旅行を計画しているのだ。また同じ国であっても、異なる場所への旅行を計画しているという。将来の旅行先としてもっとも人気があるのは欧州で46%、次いで北米36%、オセアニア35%、オーストラリア19%、アフリカ11%、南米13%、中東10%となっている。
2017年の平均旅行回数は3.9回と前年と同じであるが、平均旅行期間8〜9日と前年比で1〜2日増加している。旅行回数では、90後が4回、80後が4.2回と全体を上回っている。
ミレニアル世代の間では、出張先でプライベート旅行も楽しむ「Bleisure(ビジネスとレジャーの合わせた造語)」の人気が高まっており、このこともより遠く・より長くの旅行トレンドを強める要因になっているようだ。
未知なる体験への渇望、中国ミレニアル世代が旅行先を選ぶ基準
一度行ったことがある場所ではなく、まだ行ったことがない場所へ。この旅行トレンドは、国ごとのデータからも明らかだ。
旅行メディアTTGによると、イスラエルでは近年中国人旅行客が急増し、この2年で100%増加したという。イスラエル観光省の担当者は、特に中国ミレニアル世代の間で「ミステリアス」な場所への関心が高まっており、これまで中国人旅行客がほとんどいなかったイスラエルなどへの旅行が人気を集めていると指摘している。
イスラエル
またWyseTravelが2018年4月に公開した記事では、2018年2月までの1年間でオーストラリアの中国人インバウンド旅行客の数が前年比13%増の139万人となり、初めてニュージーランド人旅行客の数を超え、最大のインバウンド旅行客になったと伝えている。最近の傾向として、これまで旅行客が少なかった地方に足を延ばす中国人観光客が増えているという。
このように旅行先の分散が起こっているようだが、旅行時期の分散傾向も強くなっている。
Hotels.comのレポートによると、80後と90後を含めたミレニアル世代全体では、オフピークの旅行が増えているというのだ。その理由の1つが、宿泊先が特別価格になったときに旅行する人が増えているからだ。通常、宿泊先が特別価格を提示するのは繁忙期ではなく閑散期。このような特別価格が提示されたときに旅行を計画するミレニアル世代が多いという。
以前世界各国でオーバーツーリズム問題が深刻化していることをお伝えしたが、中国ミレニアル世代における旅行先と旅行時期の分散は、この問題を緩和すると同時にこれまで恩恵を受けることがなかった地方の経済を活性化する可能性がある。今後どのような効果を生み出すのか、その動向が気になるところである。
さらに旅行先のアクティビティにおいても、エクストリームスポーツや変わったアクティビティへの人気が高まり、新しいトレンドとなっている。アクティビティの選択肢のなかで、ミレニアル世代の56%がラフティング、45%が脱出ゲーム、39%がペイントボール、30%が火山トレックキングを行うだろうと回答している。
ラフティング
こうした旅行の状況は、ソーシャルメディアに投稿され、さらに別のミレニアル世代の旅行インスピレーションになっているようだ。90後の56%、80後の50%がソーシャルメディアが旅行計画の際に影響を及ぼすと回答。また興味深いことに、ミレニアル世代の親は、ミレニアル世代を通じてソーシャルメディアから間接的に影響を受けており、旅行先やアクティビティを決める基準が変わってきているという。
もし親世代がミレニアル世代の旅行トレンドに加わるとすると、このトレンドが世界の旅行トレンドに与える影響は一層増すことになるはずだ。より遠く、より長く、これまで行ったことがなく、ミステリアスで冒険的な場所へ。中国ミレニアル世代が世界の旅行トレンドをどう形作っていくのか、今後の展開から目が離せない。
文:細谷元(Livit)