世界中で熱を帯びる人工知能の研究開発。日進月歩で進化しており、ビジネス、交通、医療などさまざまな分野での活用に期待が寄せられている。
一方、ファッション分野でも人工知能の画期的な活用方法が編み出されており、テクノロジーとの融合がもたらす未来のファッションに多くの関心が集まっている。
ファッション分野での人工知能の活用方法は、Eコマースのレコメンド機能やファッションアドバイスを行うチャットボットなどが広く知られているのではないだろうか。
一方、最新研究の結果、ファッションデザインを考えるだけでなく、ファッショントレンドを生み出せる可能性を持つ人工知能が登場したことはあまり知られていないかもしれない。
ファッションという文脈で、人工知能がどのような進化を遂げようとしているのか。ファッションデザイン人工知能の最新研究を紹介しつつ、ファッション産業における人工知能活用の最新動向をお伝えしたい。
ファッションデザインを生み出す人工知能
人工知能がファッションデザインを生み出し、しかもそのファッションがトレンドになる可能性がある。
米カリフォルニア大学とアドビの研究者らが2017年11月に公開した論文の内容がファッション業界で話題を集めた。
どのようなメカニズムで人工知能がファッションを考えだすのだろうか。
まず研究者らは、個人の属性とファッションの好みの関係を把握するために、アマゾンとTRADESYから取得したデータを人工知能に学習させた。アマゾンなどのEコマースサイトでよく目にするレコメンド機能の要領だ。
学習させたデータセットは「Amazon Fashion」「Amazon Women」「Amazon Men」「Tradesy.com」の4つ。それぞれにユーザー、アイテム、インタラクション(レビュー)に関するデータが含まれている。ちなみに「Amazon Fashion」データセットのユーザー数は約6万5,000人、アイテム数は23万5,000個、インタラクション数は51万回に上る。
次に研究者らは、敵対的生成ネットワーク(Generative adversarial networks = GANs)と呼ばれる人工知能アルゴリズムを使い、ユーザーの好みのファッションを参考にリアリスティックなオリジナルデザインの生成を行った。
ファッションデザイン人工知能のイメージ図(論文「Visually-Aware Fashion Recommendation and Design with Generative Image Models」より)
敵対的生成ネットワークとは、生成ネットワークと識別ネットワークの2つのニューラルネットワークを使って、リアリスティックな画像生成などに活用されるアルゴリズムだ。
生成ネットワークはフェイクを含んだ画像を生成し、識別ネットワークを欺こうと学習する。一方で、識別ネットワークはフェイクか本物か正確に識別しようと学習を重ねる。
生成ネットワークの目的は、識別ネットワークの不正解率を高めることにあり、フィードバックを与え学習を続けていくことで、生成ネットワークは本物と区別がつかないフェイク画像を生成できるようになるのだ。
膨大なデータから多くの人々が好みそうなデザインを生成することが可能となる。つまり多くの人々に受け入れられ、ファッショントレンドになる可能性が高いデザインを生み出せるということになる。
人工知能を活用したファッショントレンド予測はすでに存在しているようだが、トレンドそのものをつくってしまう可能性のある人工知能はこれまで存在しておらず、今後の実用化に期待が集まっている。
また服の形、色、模様、すべてを個人の好みに合わせてオリジナルデザインを作成できるため、ファッションのパーソナル化でも欠かせない存在になると考えられている。
アリババのFashionAI、人工モデルなど、ファッション産業の人工知能最先端
ファッションデザイン人工知能のほかにも、ファッション業界ではすでに人工知能を活用したさまざまな取り組みが実施されている。
2018年7月4日、中国のIT大手アリババはファッションと人工知能を融合させた「FashionAI」というコンセプト・ストアを公開。香港理工大学で数日間のみの試験的オープンであったが、商品情報を映し出す「スマートミラー」や店舗で試着した服を見ることができるタオバオアプリの新機能「バーチャル・ワードローブ」などが公開され、多くの関心を集めた。
FashionAIコンセプト・ストア(Alizilaウェブサイトより)
FashionAIは、機械学習やコンピュータービジョンを活用し、顧客やデザイナーからインサイトを得て、未来の買い物体験を実現しようという試みだ。タオバオや天猫などアリババ傘下のECサイトで蓄積されたデータを人工知能で解析し、そのインサイトをファッション小売に活用する考えのようだ。
上記のファッションデザイン人工知能でも使われているGANsを活用し、人工モデルを生成することに成功したファッションテック・スタートアップのVue.aiにも注目が集まっている。
同社は、ファッション企業のオムニチャネルパーソナライゼーションやソーシャルメディアマーケティングの自動化を主力事業としており、その一環として人工モデル生成サービスを提供している。
人工モデル(Vue.aiウェブサイトより)
服の写真からGANsを使い人工モデルを生成。身長や体型を好みに合わせて変更することが可能だ。
ファッション小売店では、ウェブサイトやカタログに掲載するための写真を撮影するが、通常であればプロ写真家とモデルに依頼し、撮影用のスタジオを借りる必要がある。人工モデルは、写真撮影にかかる一連のコストを削減でき、さらにいつでも画像を修正・変更できるという利点がある。
ファッション業界に普及し始めた人工知能。カリフォルニア大学の研究やVue.aiの人工モデルのようにGANsを活用したソリューションが今後も増えて行くことが見込まれる。また、ビジュアル・サーチやVR・ARなどのテクノロジーも導入され始めており、相乗効果でファッション産業のハイテク化が加速していくことになるだろう。
文:細谷元(Livit)