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AI(人工知能)は、特にビジネス分野において昨今のニュースを賑わせる最もホットな話題といえる。
2013年には既に、英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授による論文「雇用の未来」で、10~20年程度で人が担っている現在の職種は約半数がAIによって代替されると予言され大きな話題となっていた。
けれど2013年から5年経過した現代でも、「AIによって仕事が大きく変わった」と感じている人はそれほど多くないのではないだろうか。AIによって職を奪われた、というニュースも聞かない。
実際、労働者たちはAI技術について現時点・将来的にどんな認識をもっているのだろうか。
勤め先のAI導入率はわずか6.4%、導入も検討していない割合も約5割にのぼる
立教大学経営学部の春学期科目「eビジネス&マーケティング」を受講した学生及び、総合マーケティング支援を行なう株式会社ネオマーケティングでは、2018年7月に、全国の20~69歳以下のパート・アルバイト・派遣を除く正社員男女1,000人を対象として、AI技術に関するインターネットリサーチを共同で実施した。
その結果、現在の就業先でAI技術を導入していると回答したのはわずか6.4%にとどまり、導入も検討もしていないという人も49.3%にのぼった。ニュースで騒がれている割には、多くの企業がAIを導入していない、もしくは高い関心を示していない状況がこの調査結果からわかる。
なお「導入も検討もしているかわからない」と答えた人も全体の31.0%にのぼり、社員レベルでも自社のAI導入状況について高い関心を持っていない割合が多い結果も印象的だ。AIによる仕事の大きな変化があらわれるのはまだ先ということか。
ちなみに、職種をAIに代替されるといわれる「財務・会計・経理」とそれ以外に分けた場合、「財務・会計・経理」では「導入も検討もしていない」との回答が57.5%に上り、それ以外(47.3%)と10%以上もの差がついた。職種によっても、AIの導入状況や関心の強さに大きな差があるようだ。
AI導入(検討)による変化として最も多い回答は「作業の簡略化(50.8%)」
次にAI技術を導入したことで仕事にどのような変化が起きたか、また検討中の方はどんな変化があると想定しているか聞いた。
結果は以下になる。
- 「作業の簡略化」(50.8%)
- 「作業時間の短縮化」(49.7%)
- 「人員削減に貢献」(43.1%)
AIによって作業の効率化が図られ、作業時間が短縮したり人員を削減できたりするという実感がある人、またそのような変化を想定している人は多いようだ。
職種別でみると、「財務・会計・経理」とそれ以外で、「作業の簡略化」「作業時間の短縮化」「人員削減に貢献」と回答した割合が多いのはほぼ同じだった。
一方で、「作業フローの見直し」と回答した割合は、「財務・会計・経理」では26.3%、それ以外は36.5%と10%以上の差が開いた。また「新サービスの発足」と答えた人に関しても、「財務・会計・経理」では15.8%にとどまったのに対し、それ以外では29.6%と約2倍近くの割合となった。
この点でも、AI技術の影響に関する認識について、職種によって大きな差があることが分かった。
AIを必要だと考える人は全体の4割にのぼる
担当している業務においてAI技術が「絶対必要」と答えた人は7.8%、「必要だと思う」と答えた人とあわせると約4割にのぼった。低い導入率や「現在は」導入も検討もしていないという割合が高いのに対し、将来的にAIを必要と考える人が多いことがわかる。
ちなみに職種でみても、「財務・会計・経理」分野でも「絶対必要」「必要だと思う」と答えた割合は全体の平均値に近い約4割となっていた。この点では、「財務・会計・経理」とそれ以外の職種で認識の差は少ないようだ。
AI導入を必要だと思う理由は「作業効率の向上」が54.6%でトップ
AI技術の導入が必要と答えた人に、その理由も聞いた。結果、「作業効率があがるから」(54.6%)との回答が最も多く、「人為的なミスが避けられるから」(49.9%)、「作業時間が短縮できるから」(47.1%)が続いた。AIによる作業効率・精度の向上は、多くの人が期待しているようだ。
なお職種別でみると、「財務・会計・経理」では「人為的なミスが避けられるから」と答えたのが56.3%だったのに対し、それ以外は48.3%で8%の差がついているのが印象的だ。特に作業の正確性が求められる財務・会計・経理の分野では、作業精度の面でAIへの期待が特に高いということだろう。
AI技術が10年後の就業先に影響を与えると思う人の割合は45.9%
同調査では、将来的にみた場合、10年後の就業先にAI技術がどの程度影響を与えるかも聞いた。結果、「とても影響があると思う」(14.3%)と「影響があると思う」(31.6%)あわせて約半数(45.9%)に及んだ。
現時点では就業先の導入が進んでないかったり検討していなかったりしても、将来的には影響があると考えている人が多いようだ。
一方で、「影響はないと思う」(10.7%)、「影響は全くないと思う」(6.1%)との回答は両方あわせても約17%にとどまっていた。
ちなみに職種別でみても、「財務・会計・経理」で「影響はないと思う」「影響は全くないと思う」と答えた人の合計は19%、それ以外では16.3%とそれほど大きな差はない。若干「財務・会計・経理」の方が割合は多いとはいえ、AIが与える印象の大きさについては、職種によってイメージの差はあまりないようだ。
AI技術が就業先に影響を与える理由として「労働時間の短縮」をあげる人が44.9%でトップ
前問で「AI技術は10年後、自身の就業先に影響を与えると思う」と答えた人に対して、その理由を聞いた。結果、「労働時間が減ると思う」との回答が全体の約半数(44.9%)で最も多かった。AI技術の導入によって、自分の職種の仕事が楽になるという認識を持つ人が多いのだろう。
職種別でみると、「自分の仕事が変わると思う」と答えた人の割合が「財務・会計・経理」ではちょうど半数(50.0%)に達したのに対し、それ以外では39.2%と10%以上の差がついた。また、「事業規模が拡大すると思う」と前向きなイメージをもつ人は、「財務・会計・経理」で8.5%だったのに対し、それ以外では18.6%とこちらも10%以上の差がついた。
AIによる代替が懸念される分野とそれ以外で、このあたりの意識は大きな差があるといえるだろう。
AI技術が進歩してく将来「コミュニケーションスキル」を身に着けるべきと回答する人が32.1%でトップ
次に、AI技術が進化していくなか、将来的に必要なスキル・技術について聞いた。結果、最も多かったのは「コミュニケーションスキル」(32.1%)で、「大局的な視点」(28.0%)、「独自性」(24.2%)が続いた。
AIに代替えされないであろうコミュニケーションのようなスキルに対して、多くの人がより必要になると感じているようだ。
ちなみに年代的にみると「大局的な視点」と答えた割合は、20~30代では約2割だったのに対し、50代~60代では3.5割以上と2倍に迫る差がついたのが印象的だ。
経験を重ねることで培われる物事を俯瞰でみる能力は、AI技術が仕事に大きく影響すると思われる未来においても、それをすでに身に着けた高い年代ほど重要であると考えているようだ。
現時点でのAI導入率は低いものの、将来的には必要、影響があると考える人が多い
今回の調査では、「現時点での」就業先でのAI技術の導入率や関心は低い一方で、将来的には「必要」「影響がある」と考えている人が多いことがわかった。
AI技術は日々進歩し、それを使った新しいサービスやロボットなどが続々と登場している。今現在は就業先に大きな影響を及ぼしていなくても、時代の変化の足音を感じ取り、AI技術導入に大きな期待と不安を抱いている人が多いということだろう。
img:PR TIMES