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インドア家庭菜園の中には、未来を感じさせるものも
© Wicker Paradise (CC BY-2.0)
家庭菜園は世界中で長期にわたるトレンドとなっている。前世紀、2つの世界大戦を人々が生き抜くためのすべとして誕生し、コミュニティガーデンやルーフガーデンといったバリエーションを経て、最近では、室内でスペースもとらず、手間いらずでありながら、失敗なく収穫できるインドア菜園が人気だ。
米国のガーデニング産業のマーケティングを行う、ガーデン・メディア・グループの「2017・ガーデン・トレンズ・レポート」もそれを裏付ける。インドア菜園関連の販売額は2012年からの5年間に8.2%の伸びをみせているのだ。
インドア菜園は、各種テクノロジーを取り入れたおかげで、さらに進化を遂げ、私たちの食生活を充実させてくれている。
インドア菜園ブームの背景に、気候変動や食品安全性の問題
棚状の垂直なスペースを利用したり、土なしの水耕栽培を取り入れたり、日光の代わりにLEDライトを使ったりと、インドア菜園には、実にさまざまな工夫が凝らされている。人々はなぜここまでして、インドア菜園に執着するのだろうか。
おそらく消費者として肌身に直接感じる理由が、野菜の値段の高騰だろう。近年、天候不順や自然災害で、野菜や果物が不作になるケースが増えている。その元凶が、気候変動。一筋縄では解決できない問題であり、凶作が続く可能性は高い。
今後も続くであろう、野菜の価格高騰への解決策として、また食料不安を払拭する手立てとして、手っ取り早く自分で始められるのが、インドア菜園なのだ。
と同時に、自らの手で育てることで、産地を気にする必要もなく、無農薬であることもはっきりとした食品を手に入れることができる。自宅で収穫できるため、鮮度の高さも魅力。人々のヘルシー志向に、インドア菜園はマッチしている。
さらに教育の観点からインドア菜園を高く評価する人も多い。「2017・ガーデン・トレンズ・レポート」では、66%の保護者が、子どもにヘルシーな食習慣を身につけさせるためにインドア菜園を取り入れているという。子どもが簡単に育成を手伝い、成長過程を毎日目にし、収穫できるとあって、優秀な教材でもあるのだ。
環境・倫理問題に敏感なミレニアル世代の影響
一方、インドア菜園人気を支える立役者として、環境・倫理問題に敏感なミレニアル世代を見逃すことはできない。
米国のガーデニング産業が、国内ガーデニング事情を調査した報告書、「ナショナル・ガーデニング・サーベイ」によれば、2016年に植物を購入した人の約30%がミレニアル世代であり、「2017・ガーデン・トレンズ・レポート」では、ミレニアル世代の約38%が室内でハーブを育てているという。
ミレニアル世代は別の面も持っている。世代別でみると、最も高い購買力を持つのがこの世代。インドア菜園市場に与える影響は大きく、キットやデバイスにも彼ら彼女らの好みが反映されている。
ミレニアル世代は、企業のビジネス活動自体も左右する。単に利益追求に専念するのでなく、消費者と共に、食料不安に備え、将来の食料確保の道を切り開くことを目指すなど、社会へ寄与する姿勢が見受けられるのだ。これは消費者の求めにこたえての行動ともいえるが、経営者自身がミレニアル世代であるケースもあり、自発的な行動でもあるようだ。
インドア菜園を単なるブームでなく、「ムーブメント」に
アグレッシブリー・オーガニック社の野菜栽培法は、現在特許出願中だ
© Aggressively Organic
「新鮮で栄養豊富な野菜作りを極力簡単に行い、人々の食生活を改善したい」と始められたスタートアップが、アグレッシブリー・オーガニック社だ。同社のキット、「AOビクトリー・ガーデンズ」は、水、栄養素、LEDの3つさえあれば、水耕栽培で野菜を収穫できる。
水耕栽培につきものの、ポンプとフィルターは必要ない。ほかの育成方法と比較しても、水は少量で済み、収穫に適した部分のみを切って食べることで、長期間にわたって、同じ株からの収穫を可能にする。レタスで3~4カ月、ケールで6カ月以上、トマトで3カ月といった具合だ。
スペース面も熟慮され、プランターは六角形。約50×20センチのエリアに1キット分9つすべてが収まる。スタンダード・キットには、それぞれ27個の培地のリフィルと種子も含め、栽培に必要なものがすべて入っている。正価は250USドル(約2万8,000円)だ。
アグレッシブリー・オーガニック社は、自社の使命を明確に打ち出している。それは、私たちが生きている間に、食料不安を根絶すること。同社のサステナブルで、値段も安く、使い方も簡単なキットを使えば、誰もが自分で野菜を栽培できる。
アグレッシブリー・オーガニック社のキットは、人々が自給自足を始めるきっかけを与えてくれる。1人1人が食料供給を自らのコントロール下におき、その輪を広げ、ムーブメントになることを同社は願っている。
子どもたちに、野菜などがどこから来るか知ってもらうために
野菜などの作物がどこでどのようにでき、食卓に上るのかを、インドア菜園を通して、子どもたちに楽しく学んでほしいと考えるのが、バック・トゥ・ザ・ルーツ社だ。作物が育つ確率は100%。キットは数種類あり、それぞれユニークな特徴を持つ。
「キッチン・ハーブ・ガーデン」には2種類あり、缶入りのものは収穫まで、缶の中で育成できるようになっている。3缶で19.99USドル(約2,200円)だ。メイソンジャー入りのものは、ゆっくり水を放出する特質のある、多孔質の泥製小型ポットに水を入れ、土に埋めることで、水やりの必要をなくした。3つのジャーで27.99USドル(約3,100円)。
「キッチン・ハーブ・ガーデン」の秘密は、バイオ炭。農業からの廃棄物、食品廃棄物などを原料としたバイオマスを炭素化させたもので、よりよい収穫を助け、土や水の汚染を抑制するという。
特に子どもの興味をそそりそうなのが、アクアポニックスの「ウォーター・ガーデン」。アクアポニックスとは、魚の飼育と、野菜の栽培とで共生環境を築き、双方を育てるシステムのこと。
「ウォーター・ガーデン」は、魚が泳ぐ水槽の上で、マイクログリーンやウィートグラス(小麦若葉)などを栽培することができる。魚のふんは植物の栄養となり、植物の根は水槽の水を浄化する。
ほかには、箱でヒラタケを育てることができる、「マッシュルーム・グローイング・キット」もあり、子どもたちに人気がある。このキットは19.99USドル(約2,200円)だ。
バック・トゥ・ザ・ルーツ社は、インドア菜園を家庭のみでなく、学校にも広めようと、学校への寄付プログラムを行っている。顧客がキットを購入し、育て、写真を撮って同社に送ると、プログラムの参加校に同じキットが1つプレゼントされる。学校を通せば、より多くの子どもにインドア菜園を経験してもらえる。
子どもたちにヘルシーな食事をとる習慣を教えることは大切だ
© U.S. Department of Agriture (CC BY-2.0)
テクノロジーを駆使したインドア菜園は、ミレニアル世代好み
サムスン電子社内で行われている、スタートアップ・インキュベーション・プログラム、「Cラボ」から誕生したのが、アグワート社のインドア・スマート菜園、「プラントボックス」だ。小型冷蔵庫と見間違いそうなのは、実は温室。この中に、種子のカプセルを入れるだけで育てることできる。
温室内では、まず種子の種類を検出。光、温度、湿度、空気、栄養素と、種子が成長するのに理想的な環境に自動的に整える。ユーザーは、アプリを通して、スマートフォンで温室内をモニター、コントロールすることができる。
テクノロジーを駆使した、究極の手間いらずの「プラントボックス」の開発者はミレニアル世代。テクノロジーに精通するミレニアル世代による、ミレニアル世代のためのインドア菜園といえそうだ。
アグワート社の「プラントボックス」は、テクノロジーを駆使し、消費者に「これなら私にもできそう」と思わせる
© Samsung
インドア菜園は、各種のテクノロジーを取り入れ、育てやすく、人々の生活にマッチするよう、進化を遂げている。気候変動など、今まで私たちが経験したことがない環境変化が起こる中、テクノロジーだけでなく、開発者の情熱、さらには消費者の支持も、インドア菜園を支えているといってよさそうだ。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)