SNSはもはや我々の生活に欠かせないほどに浸透した。人とのコミュニケーション、モノやサービスなどの購買の決定、相談など、若年層を中心にSNSなしでは我々の生活はひどく不自由なものになる。
一方、人とのコミュケーションといえば、「いじめ」の問題が我々の生活には大きくのしかかっている。
文部科学省によると、平成28年度の全国小中学校、高校、特別支援学校におけるいじめの認知(発生)件数は、323,143 件(前年度の225,132件から約10万件の増)と、昭和60年度の調査開始以来、過去最多を記録した。
特に全体の約95%を占める小・中学校の児童・生徒を取り巻く大きな課題となっているという。
今回、奈良市がSNSを使った「いじめ」問題対策に立ち上がった。奈良市は、平成28年度から市立小・中学校において電話やメールを活用して取り組んできたいじめ問題の相談体制をさらに強化するため、対応時間の延長や、市立の小学校への導入としては全国初となるSNS相談アプリ「STOPit(ストップイット)」を導入する。
SNSアプリ「STOPit」で小・中高生のいじめ問題を相談
STOPit Supporter Messages with Japanese Captions (STOPit サポーターからのメッセージ)
平成29年度に実施した「奈良市の問題行動調査」では、いじめられたときに誰にも相談していない児童生徒が昨年に比べ増加、また全国平均よりも多い結果となった。
具体的な対応としては、いじめられたときに誰にも相談していないが以下のように全国平均よりも多かったという。
- 小学生 28年度5.5%、29年度7.2%(全国6.2%)
- 中学生 28年度5.8%、29年度8.4%(全国6.8%)
また、平成28年、29年度の電話およびメールでの本人からの相談の利用が少なく、中学生のコミュニケーションツールが電話やメールからSNSに変化しているという。
いじめ相談・通報SNSアプリ「STOPit」の概要は以下の通り。
- 対象
市立中学校21校(1~3年生) 約8,000人
市立小学校43校(5、6年生) 約5,500人 - スケジュール
- 事業者が作成した啓発ポスターやチラシを配付するとともに、市立中学校の生徒が、昨年度の「ストップいじめ なら子どもサミット」や「奈良市子ども会議」において、いじめで困っている友達を助けたいという強い思いから、現在、中学生がポスターやカードの図案を考案している。
9月中に図案を決定し、市教委が作成配付して、子どもだけでなく保護者へも啓発する。 - STOPit事業者から各学校へ研修講師を派遣し、9月7日から全児童生徒を対象に学年ごとに「いじめの脱傍観者授業」を実施
- 授業の受講後、児童生徒にアクセスコードを配付し、児童生徒が各自で「STOPit」アプリをダウンロード
- SNSアプリは、24時間相談電話と連携し、緊急の事案や時間外には、ワンタッチで電話相談に繋げることが可能
※通信機器を持っていない児童生徒に対しては、24時間対応の「ストップいじめ ならダイヤル」を利用するよう推奨する。 - いじめの脱傍観者授業を市立全小中学校で実施。
9月7日から順次実施、受講終了の学校から開始し、「STOPit」に接続。「アクセスコード」を児童生徒に配付する。そして、個人のスマートフォンやゲーム機に「STOPit」ダウンロードし、「アクセスコード」を入力すると、使用が可能となる。
これらにより、奈良市では以下の効果を期待している。
- いじめの早期発見につなげることができる
- 子どもからの様々な相談(学習・進路、友人関係、家庭の問題、ネットトラブル、性の悩み、LGBT、自殺願望等)に対応できる
- 子どものコミュニケーションツールの変化に対応しているため、今後相談件数の増加が期待できる
- 学校と教育委員会が協力して、いじめの解決に向けて取り組むことができる
- 子どもたちの中での認知が高まることで、いじめの抑止効果が望める
- 自殺をほのめかすような投稿に対して、学校と学年が紐づけられているため、対応しやすい
いじめ減少へのきっかけとなることへの期待
いじめの問題は、被害者本人がつらいのはもちろんだが、その家族や関係者まで巻き込んだ非常に大きな問題となる。
これまで、その根絶に国や自治体はさまざまな努力をしてきたが、その努力はむなしく、いじめは増加する一方だ。
今回の奈良市の試みがいじめ減少のきっかけとなり、全国へと広がることでよりよい子どもたちの社会が生まれることを期待したい。
img:PR TIMES