2018年3月末、中国・上海で「上海ファッションウィーク」が開かれた。国内外のアパレルブランドやバイヤーが集う、一大ファッションイベントだ。中でも今年最も注目を集めたのは、若手デザイナーによるファッションショー「LABELHOOD(レーベルフッド)」だ。

LABELHOODは中国最大のECサイトTmallとコラボレーションし、ショーをライブストリーム配信。結果、9,000万ビューを叩き出した。視聴者の多くはトレンドにアンテナの高いZ世代の女性だという。

中国では今、ライブストリームが新たなショッピングメディアとして台頭している。中国にある100以上の美容ブランドのうち、70%近くがマーケティングや広告ツールとしてライブストリームを利用しており、多くの消費者ブランドが人気を集めているという。

SNSを利用した販促活動は今や世界の常識だが、中国におけるライブストリームの影響力は「爆発的」であるとみられる。その理由は何か。そこには、中国ならではの独特な背景も絡んでいる。

Tmallで配信されたスーツケースブランドRimowaのショー。中央はブランドアンバサダーを務めた女優のFan Bingbing

中国ミレニアル・Z世代の消費傾向――SNSは参考にしない?

中国の人口は約13億7,000万人。うち、80~90年代に生まれたミレニアル世代は約4億1,500万人で、1995年以降に生まれたZ世代は約2億5,000万人いると言われる。つまり、この2つの世代で人口の約半分を占める、マス・ジェネレーションなのだ。

ボストン・コンサルティング・グループによると、彼らはすでに国内における約65%もの消費量を担っており、今後もその枠は広がり続けるという。購買力において、中国マーケットを注視する企業にとって見逃せない立ち位置にいるのは明白だ。

しかし、彼らは何かを購入する際にSNSを参考にする傾向は小さいという。デロイトの調査発表によると、中国のミレニアル・コンシューマーは、トレンドアイテムを探す時にはファッション雑誌やブランドの公式サイト、ファッションサイトをチェックし、SNSやそのインフルエンサーの影響は限定的だという結果が出た。同アンケート項目では、アメリカの場合SNSがトップにきており、3位にインフルエンサーがつけている。

ECメディアとして急拡大するライブストリーム

中国にライブストリームプラットフォームが登場したのは約6年前。利用者はここ2~3年で急増している。中国インターネット情報センター(China Internet Information Center)の統計によると、2016年6月末までのライブストリーミング視聴者数は3億2,500万人に達しており、その大部分はミレニアル世代、Z世代の若者だという。

商用目的のライブストリームプログラムでは、有名人を起用し、彼らが販売商品のデモンストレーションを行うというスタイルが一般的だ。配信はリアルタイムで行われ、視聴者はチャット機能ですぐに質問でき、そしてリアルタイムに回答が返ってくる。

商品紹介とともに、リアルタイムでのチャットが可能だ(South China Morning Post より)

ブランドのデジタルパフォーマンス測定を専門とするアメリカの調査会社L2によると、1億人以上の視聴者が毎月ライブオンラインイベントを視聴し、使用デバイスはスマートフォンが約95%を占めるという。またデロイトは、2018年の中国のライブストリーミング収入は、2017年から32%増加して44億ドルになると見積もっている。

ライブストリームのプレーヤーでは、淘宝網、Tmall、Sina Weiboなどの大手から、Inke、Douyu、Vip.com、Bilibili、Panda TVといった小規模なものまで多数存在し、その数は100以上という。

中国におけるライブストリームプラットフォームのシェアを表すグラフ

Tmallのライブストリームサービスは2016年5月に開始。まだスタートから2年という若さにも関わらず、ライブストリームにおける市場シェアのトップを誇る。

昨年はバーバリー、ラ・ペルラ、ポール・スミスなど有名ブランドの8時間ファッションショーが配信され、相当の売上をはじき出したという。

求められる「情報の透明性」と「インタラクティブ」

中国当局によるメディア検閲は周知の事実だ。テレビはもちろん、FacebookやTwitterといったグローバルSNSもその監視下にあり、それゆえ中国独自のプラットフォームが誕生してきた世界的に稀有な歴史を持つ。当局による突然閉鎖も珍しくはなく、出ては消えということも繰り返されている。

そのような環境のため、中国人は新しいプラットフォームを試すことにためらいがなく、情報の「透明性」を嗅ぎ分ける感覚は非常に鋭い。生配信されるライブストリームは、当局の検閲に通った「偽造された情報」ではない「リアルタイムアクション」がみられることが拡大の背景にある。

また、中国で多くの若者のユーザーを抱えるプリペイド版Visaカード「バンドルカード」の調査によると、ミレニアル世代、Z世代はコミュニケーション重視の消費傾向があるという。リアルタイムでやり取りができ、よりインタラクティブ感の強いライブストリーミングは、彼らのムードとマッチしたのかもしれない。

売り上げの鍵を握る、中国のインフルエンサー「KOL」

ライブストリーミングにおけるキーマンは「KOL」である。KOLはKey Opinion Leader(キー・オピニオン・リーダー)の略であり、いわばインフルエンサー的な存在である。彼らは番組のホストを務め、商品の紹介をしたり視聴者からの質問に答えたりする。

彼らはまた、YouTuberのように、俳優や歌手と同等の有名人であることもあり、視聴者に近い存在として人気を獲得している。人気・信用のある彼らが薦める商品は視聴者に安心感を与え、購入の手助けをしているのだ。

テレビショッピングとの違い

さて、有名な司会者(ホスト)が商品のデモンストレーションを行い、それをみて良いと思ったら、すぐさまの購入手続きをする。このスタイル、何かに似ていると思わないか?そう、テレビショッピングだ。では、従来のテレビショッピングとライブストリーミングの違いは何だろう。

まず、中国ではテレビは国の検閲対象であることを忘れてはならない。さらに、ライブ感、インタラクティブ感はテレビショッピングを遥かに上回る。

ライブストリーミングではより視聴者と「触れ合える」要素を沢山盛り込んでいる。ホストとのリアルタイムチャットをはじめ、抽選会や賞金がその場で当たるといったエンターテインメント的要素もあり、視聴者はまるでライブ会場にいるかのような臨場感を味わえる。もちろん、ショーの時間枠はそれほど長くはない。そのため、プログラムはコンパクトに楽しめて、さらに購買意欲を誘うような設計がなされているのだ。

有名モデルによる美容ブランドも参入

ライブストリーミングを使った販売PR活動は、特に美容業界の参入が顕著である。L2の調査によると、中国の美容ブランドの3分の2がTmallでライブストリーミングイベントを開催し、同時に複数のプラットフォームを使用しているという。

スキンケアブランドKORA OrganicをPRする モデルのミランダ・カー

オーストラリア出身の人気モデル、ミランダ・カーも自身の美容ブランドの中国市場展開にライブストリームを使った一人だ。ミランダ・カーは、自らが立ち上げたスキンケアブランドKORA OrganicsをTmall Globalで独占販売している。

彼女はカリフォルニアの自宅から自らがホストとなり中国向けにライブストリームを配信。ビュー数は20万以上を記録した。彼女自身がアイコンとなり直接売り込むことで、よりハイエンドなスキンケア商品を求める中国人女性をロックオンした形だ。

現在、Tmall Globalでは63の国・地域の、14,500以上のグローバルブランドが販売されている。中国マーケットを目指す海外の企業にとって、中国の消費者に直接リーチでき、同時に彼らのニーズを探ることのできる非常に高いポテンシャルを持つツールであることは言うまでもない。消費者にとっても企業側にとっても、Win-Winであるライブストリームは、今後益々広がりをみせていくことだろう。

文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit

<参考>
South China Morning Post
FASTGROW
Forbes
ALILA
azoya
NANJINGMARKETINGGROUP