女の子には気持ちのいい日も、そうでない日もある。ただ、どんな一日であっても、素晴らしい日であってほしい──。

台湾のとある老舗薬局の店内に、思わず心が踊る、キュートな「漢方のお店」がある。今年の4月29日にオープンした漢方ライフスタイルブランド「DAYLILY(デイリリー)」だ。

同ブランドを立ち上げたのは、ミレニアル世代の女性2人組。クラウドファンディングによる資金調達を受けて設立した。CEOは、電通出身の小林百絵氏。創業のきっかけは、漢方を手に取ったときに感じた“官能的感覚”だという。

オールドな漢方をリデザインし、世界を目指す。漢方に魅せられた、とある日本人女性の挑戦が始まった。

異国の文化を、日本人の感性に刺す。台湾に根付く「お母さんの教え」を伝えたい

創業のきっかけは、小林氏が大学院在籍時に出会ったひとりの女性の“習慣”に遡る。

のちにDAYLILYの共同創業者となる台湾出身の王怡婷(オウイテイ)氏は、日常的に漢方を使用していた。台湾では、女性特有の体調の変化に際して、薬を服用するのではなく漢方を用いていたそうだ。

そうした期間には漢方に限らず、冷たい飲料を飲まないことや、アルコールを避けることなど、習慣によって体調管理を行うことが「当たり前」なのだという。

小林 「台湾の女の子が日常的に身体に気を遣うのは、お母さんの教えなんだそうです。純粋に『良い文化だな』と感じました。また、台湾のコンビニには漢方ドリンクが販売されていて、生活のそばに、いつも漢方があります。特別なことがなくても、体を思いやる習慣を羨ましく感じました」

小林氏は、漢方を使用したことで体調が良くなったことを感じたのもあり、日本にも漢方を使う風習を伝えようと決めた。

小林 「わたし、初めて漢方に興味を持ったときに“官能的”だと思ったんです。物質感や、見た目、香りなど、すごく“確からしい”。この感覚は人の心に刺さるものだと感じました。

わたし自身、今までは、体調が悪くなったら薬を服用していたんです。でも、漢方を取り入れたことで、健康に対する考え方や、毎日の体調に変化が起きました。この漢方医学を形に落とし込み、ライフスタイルブランドとして確立することで、広めていきたいと考えました」

「一日一日を精一杯に輝いてほしい」ーーDAYLILYに込められた、アジア人女性を応援したい想い

DAYLILYを創業するにあたり、もっともこだわったのが「デザイン」である。小林氏が初めて漢方を手に取った際に感じたのは、使用までのハードルの高さ。漢方薬局に出向き、処方を受け、さらに使用するには「煮だす」ことが必要になるからだ。また、従来の漢方ブランドには、若い女性が日常的に使いたくなるデザインがなかったという。

たとえば、台湾で非常にポピュラーな女の子のためのドリンク「生化飲」をリデザインした「Reborn Shenghua Drink」。漢方独自のクセをなくし、初めて漢方を利用する人も手にしやすいよう、甘酸っぱいマルベリーで煎じている。

また、「手に取ったときの高揚感」を届けるために、パッケージにはビビッドなオレンジカラーを選んだそうだ。ブランド名にも、創業者ふたりの思いが投影されている。

小林「中国の古い漢詩に、『萱草生堂階,遊子行天涯;慈母倚堂門,不見萱草花』とあります。『自分の娘が遠くへ旅に出るとき、家の庭に“萱草(英名:Daylily)”を植えて、母親はその花を見て自分の娘を思い、寂しさを沈める』という意味です。Daylilyは、『女性を象徴する花だ』と思いました。

昔は、花が一日かぎりで命を終えると考えていたそうです。その日の間、美しく咲くという意味もあり、Daylilyと名前がついたともいわれています。わたしは、アジアの女の子たちが、毎日を精一杯に輝けるように応援したいと思っていました。わたしのビジョンと重なるものがあり、ブランド名を『DAYLILY』にしたんです」

もちろんビジネスとしての勝算もある。東洋医学特有の考え方“未病”への注目度の高まりが、市場の成長を後押ししているからだ。しかし小林氏は、ビジネスとしての魅力よりも、西洋へ憧れを持つアジア人女性が、自身の国に誇りとアイデンティティを持つことへの確信に想いを寄せている。

小林 「わたしがそうだったのですが、日本人は西洋の文化に憧れているところが少なからずあると思います。ただわたしには、これから『アジアの時代がくる』という確信があるんです。美容や健康において、古代中国にルーツを持つ漢方は、もう1000年以上アジア人に寄り添ってきました。アジア人の幸せを育むエレメントは、西洋だけでなく、すでにアジアにもあるはずです」

台湾発、世界行き。内側から輝く“アジアの美しさ”を、美のスタンダードに

小林氏は、アジア発の世界的ブランドを目指すにあたり、DAYLILYのコンセプトを「美のスタンダード」まで押し上げることを目指す。

小林 「イスラエル発のボディケアブランドに『SABON』があります。SABONは肌に塩を塗り、綺麗になる文化を世界中に生み出しました。そして単純に肌が美しくなるだけでなく、使うだけで幸せな気分になれますよね。

漢方にも、そうしたポテンシャルがあると信じています。なので、台湾発のブランドとして、まずは日本市場に進出することを目指しているんです。今まで生活にはなかったけれど、あることで女の子の気分が上がる。そうした文化が浸透するまでには店舗を増やしたいですし、複数チャネルからアプローチしたいと考えています」

小林氏が現在ベンチマークに掲げているのは、韓国発のコスメブランド「STYLENANDA」だ。CEOのKim So Hee氏は、20代で会社を創業。現在は世界中にブランドを展開している。まずは日本に進出し、近い将来は世界でアジア発の“美”と“健康”を届けていきたいそうだ。

インタビューの最後に、小林氏は「信じられる価値があれば、女性は強くなれる。わたしは、そんなブランドがつくりたい」と教えてくれた。

小林 「男女の違いを話したいわけではありませんが、わたしが思うに、女性は体調や精神が不安定になりがち。そんなときに、頼りになる“お守り”があれば、強く生きていけると思うんです。

日本社会には、『誰かに頼るのは、よくないこと』といった風潮が、少なからずあるのではないでしょうか。でも、そんなことはありません。DAYLILYは、日本人はもちろん、アジア人女性が強く生きるための道標になれる。誰かの拠り所になるような、ブランドをつくれたらいいな、と思っています」