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5年前、アパレル販売員をしていた。接客において最も大切にしていたことは「お客さんとの対話」である。
着こなしやお手入れ方法など、細かな疑問を解消しながら提案を重ねていくと、高価な洋服でも満足して購入していただけるからだ。
丁寧な対話を重ねたお客さんの多くはリピーターとなり、またお店を訪れてくれることが印象的だった。
一方で、ZOZOTOWNをはじめとするEコマースの隆盛とともに、試着を目的にショップを訪れて商品説明を聞いてから「ネットで買いますね」と去っていくお客さんも増えていった。
ネットショッピングが主流になった今、残業で遅くなった帰り道でも旅行先でも、スマホひとつあれば、“いつでもどこでも”洋服が買えるようになった。しかし、Eコマースで洋服を購入した人の多くは「サイズが合わない」「イメージと違った」などの失敗を経験したことがあるのではないだろうか。
「商品の魅力をより忠実に伝え、満足度の高い購買体験をもたらす」ということはEコマースが長年抱えていた課題である。そんな中、店頭でのショッピング同様の購買体験ができると注目されているのが「ライブコマース」だ。
年間50億を売り上げるセレブも誕生。中国で社会現象となった「ライブコマース」
ライブコマースは、中国で2016年に誕生した。大手ECプラットフォームであるアリババグループの「淘宝(タオバオ、Taobao)」がオプション機能としてローンチしたものだ。
ユーザーはインフルエンサーに自分を「投影」し、バーチャル試着を体験することができる。ライブコマースは、売り手の顔や商品の見えないネットショッピングの透明性を高め、中国国内で爆発的に普及した。
2016年に中国のライブ配信利用者は3.25億人を超え、インターネット人口の45.8%が利用していたことになる。中国のアリババグループのECサイト淘宝の中には、1人で年間50億円を売り上げるセレブも誕生し、その人気は社会現象となった。
・中国で「ライブコマース」はなぜ流行った?新たな購買体験は日本でも受け入れられるか
その勢いは中国だけに留まらず、世界中に拡大中。日本でも様々な企業が相次いでライブコマース事業に参入している。株式会社Candeeの「Live Shop!」を皮切りに、株式会社メルカリの「メルカリチャンネル」やBASE株式会社の「BASEライブ」、そして、最近では俳優の山田孝之氏が取締役を務めるミーアンドスターズ株式会社のライブコマースアプリ「me&stars」などがある。
今アメリカでは、ユニークな手法で存在感を発揮している新たなライブコマースアプリが注目を集めている。
「出張型」のコンテンツ配信「ShopShops」の快進撃
アメリカのライブコマースアプリ「ShopShops(ショップショップス)」は、その配信場所に特徴がある。多くのライブコマースアプリは、インフルエンサーがスタジオや自宅からライブ配信を行なっている。しかし、ShopShopsのインフルエンサーは、ブランドの店頭に“出張”し、ショップの中からライブ配信を行うのだ。
インフルエンサーはショップに出向き、試着をして正直な感想を述べたり、視聴者の疑問や不安に答えたりしながら商品を紹介する。ユーザーはインフルエンサーに自分を投影し、まるでそのショップで実際に買い物をしているかのような感覚でショッピングを楽しむことができる。
ライブ配信には、ブランドのデザイナーやマネージャーが登場することもある。インフルエンサーがレポーターの役割を担い、ショップからブランドの魅力をまるごと生中継する。
ShopShopsは「OPENING CEREMONY(オープニングセレモニー)」「3.1 Phillip Lim.(3.1フィリップ リム)」「EVERLANE(エバーレーン)」などデザイナーズブランドやスタートアップ系のブランドとパートナーシップを結び、これまでにロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨーク、マイアミで200を超える店舗イベントを開催してきた。
2016年9月から2017年6月にかけて、これらのイベントを通じた同社の総売上は、100万ドル(約1億900万円)を突破した。彼らの活躍は注目を集め、今年4月にシードラウンドで610万ドル(約6億4,600万円)の資金調達を行った。
ブランド、インフルエンサー双方のファンをターゲットにする配信
中国・北京出身のLiyia Wu(リイア・ウー)氏が2015年に立ち上げたShopShopsは、当初アメリカに来た中国人旅行者向けにショップを紹介するものだった。だが、スマホ1つあれば、どこにいてもショップに足を運べるかのような体験ができる点が支持され、越境ECとして注目を集めている。
ShopShopsは従来のライブコマースで獲得できていなかった「ブランドのファン」にリーチし、成功をおさめている。影響力のあるインフルエンサーが商品を販売する従来のライブコマースは、主に彼女・彼らのファンから支持を集めていた。
一方で、インフルエンサーがショップへ出張し、商品のみならずブランドの魅力を配信するShopShopsは、そのブランドのファン向けの「コンテンツ」となっている。インフルエンサーとブランド、その両方のファンに支持されたことで、多くのファッション好きを熱狂させるサービスとなったのだ。
今回の資金調達により、ShopShopsはサンフランシスコ、ボストン、ソウルとさらに今後の活動の場を広げる。今秋にはパリやロンドン、ミラノのファッションウィークでの生配信を、2019年までには24時間いつでも閲覧可能な番組配信を行う予定だ。
ネットショッピングの未来を担うライブコマース。次の一手は「体験型」か?
ライブコマースが普及する中、美容のプロとコミュニケーションしながらサロン商品を購入できる“サロン領域特化ライブコマース”「salomee LIVE」や、ライブ配信を行うKOL(キー・オピニオン・リーダー)がプロデュースした“ライブコマース発のプライベートブランド”を制作し、販売する「PinQul」などユニークなサービスも登場している。
・“サロン領域特化ライブコマース”が登場。スマホを通した美容のプロとコミュニケーションしながらの購買体験
2019年には3.5兆ドルにまで拡大すると予想されている世界のEコマース市場において、ライブコマースはネットショッピングの新時代を切り拓く施策として注目を集めている。
次々にライブコマースサービスが登場する中で、ShopShopsの「出張型」ライブコマースは、まるでショップに足を運んでいるかのような新たな購買体験を実現した。“サービスの体験”に価値を見出す「コト消費」の需要が高まる中で、ライブコマースの未来を握るのはよりリアルに近い「体験」をもたらすサービスなのではないか。
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