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オーストラリア、フィリピン、中国……スーパーに並べられた食材の原産地には、様々な国名が書かれている。食材だけでなく、ドラッグストアに売られている日用品や、街を歩くと目にする店にも、輸入品が数多く存在する。
訪日外客の数も2017年は過去最高に達した。短期・長期関わらず日本で生活する人も増え、外国人が外を歩いていることは珍しくない。
モノや人の流れはボーダレス化が進み、私たちは意識することなく各国のものを享受している。しかし、テロや核ミサイル問題など、国家間には深い溝が未だに残っているのも事実だ。
グローバル化と社会の溝が混在する中、これからの社会を生きていくには、どのような思考が必要となってくるのだろうか。そのキーのひとつが「共感」だ。
これからのグローバル市民には“共感”が必要
アメリカのビジネス誌『Fast Company』の賞「Fast Company‘s 2018 World Changing Ideas Awards.」にランクインし、注目を集めているサービスがある。オンラインプラットフォーム「Empatico」だ。
Empaticoは、これからのグローバル社会を生きる子どもたちが異文化交流するためのプログラムで、ネットワークに接続できるコンピューターとカメラがあれば、気軽に始められる。プログラムの参加者は7〜11歳の小学生。2017年10月にローンチし、アゼルバイジャンやニュージーランドなど、50以上の国で650人以上の先生が学校教育のひとつとしてこのサービスを使い授業をしている。
「7〜11歳の子どもたちは、他者との関係の中で自分のアイデンティティを理解し始める時期だ。そして、それは子どもたちの根底に深く影響し、ルーツとなる考え方を作る。この時期の彼らに自分とは異なる文化をもつ他者との交流の機会を持たせれば、私たちは今後の社会にポジティブな変化を創り出せるだろう」と、Empaticoを提供しているThe KIND FoundationのCEO兼創設者Daniel Lubetzkyは言う。
子ども同士で伝え合う、知識のシェアと相互理解
授業を始めるにあたり、まずは行いたい「アクティビティ」を選択する。アクティビティは主に8種類。地域のランドマークにまつわる歴史や文化を調べ、パートナーとなったクラスに紹介するもの、世界のお祭りや行事、天候について共に調べ、内容をシェアするものなど、地域の文化や身の回りの環境を紹介するものがほとんどだ。
アクティビティを選んだら、授業が可能な時間帯を選択する。同じアクティビティ、時間帯を希望する世界各国のクラスからマッチングを行い、選択した時間にプログラムが開始される。
アクティビティは国や文化間での違い、または類似性が表れるよう組まれている。決まったアクティビティに対して、知識のシェアができるよう、まずはクラスメイトとグループワークを行う。
その後、マッチングしたクラスとの交流が始まる。小学生たちはアクティビティを通して、身の回りにある環境とは異なる場所があること、違った視点をもつことについて学んでいく。その結果、異文化に対する理解が深まり、共感性が育まれていく。
TwitterやInstagramでは、Empaticoを使った先生が授業の様子をシェアしていた。ワークショップを通して「トルネードという気候を知った」「ラマダンについて理解を深めた」など、パートナー先の文化を一つひとつ丁寧に理解する様子が伺える。
身の回りの環境は、その人となりの形成に大きく関与する。机上で教わるのではなく、その土地に生きる子どもたちから直接教えてもらうことで、より実際的な理解を深めているようだ。
これからの社会は「相手への共感」が重要なキーワードになる
実際にEmpaticoを使ったときの子どもの様子について、アメリカ合衆国カンザス州の先生のコメントが掲載されていた。
授業はメキシコの教室とつなぎ、およそ20~45分行われた。キックベースボールからゲームの『マインクラフト』など自分たちの好きなものをシェアするだけでなく、カンザス州とメキシコの天候の違いまで、幅広い会話がされたそうだ。「彼らはとても熱心にお互いの話を聞いていました。そして、自分たちは結局同じである、ということに気づいたようでした」とJesse Ediger先生は語る。
小さい頃から「知っている」ことと、大人になって初めて「聞いた」ことでは、情報の受け取り方も、理解の仕方も大きく変わる。
国籍関わらずモノや情報が行き交う世界だからこそ、幼いころから他者との違いを知り、共感を育む教育が今後必要になってくるのだろう。