「上品で清楚な印象」そんなうたい文句とともにふんわりしたワンピースに身を包んだ清廉な女性の写真が添えられたそれを、ネット通販で買ってみた。

数日後、家に届けられたワンピース(フリーサイズ)を着て、意気揚々と鏡に向かった。そうして鏡に映ったのは、ひざ上20センチから腰回りまでぴっちり張り付いた布に身を包んだ“上品で清楚”とはかけ離れた自分の姿だった。

生来大きすぎる身長とお尻を持つ私は、こうした経験を繰り返す中で自分の体型が心底嫌になってしまったときもあった。でも、日本で女性として生きるにはいささか大きい身長や、着るものをはねのける強靭なお尻は本当に憎むべきものなのだろうか?

自分のありのままの姿形を愛す「ボディポジティブ」

この数年、欧米の女性たちの間で広がりつつあるムーブメントがある。自分のありのままの姿形を愛そうという「ボディポジティブ」だ。

たとえば、アメリカの人気女優で歌手のセレーナ・ゴメス氏は自身のInstagram投稿に対する「太った」という心ないコメントに対し、こんな投稿をした。

「社会が押し付ける“完璧な美”にまつわるさまざまな神話は女性たちを終わりのない絶望やコンプレックス、自己嫌悪のループに追い込んでしまうわ。“完璧な美”なんて定義することは不可能なのに。だから私は自分のことを大切にしているの。だって他人に認められたいなんて思ってないから」

自分の体を愛するべきなのは、心ない他人ではなく、自分自身だ。なりたい自分になるために、第一歩として自分の体にぴったりフィットするお気に入りの一着を探してみるのはどうだろう?

今回取り上げるのは、プラスサイズの女性向けにファッションアイテムのサブスクリブションサービスを提供する「Gwynnie Bee(ウィニー・ビー)」だ。

ECショッピングで失敗しがちなプラスサイズ女性がターゲット

Gwynnie Beeは、大柄な女性向けのサイズを展開する150以上のブランドから洋服を選び、月額一定でレンタルできるというサービスだ。

Gwynnie Beeでは、利用者が洋服のサイズを入力する際に、普段よく着用するブランドからサイズが選べるようになっている。同じLサイズでも、ブランドによって大きさは異なるからだ。

サイズを一度入力すれば、そのあとに提案される洋服は全て、サイズに合うものになっている。全てのデザイナーズブランドにサイズチャートが付いているため、不安があれば自分でチェックすることもできる。

サイトでは体型やシーンに合わせた着こなしが紹介されるため、洋服選びや組み合わせに迷ったときに利用者はGwnnie Beeのサイトを開き、その悩みを解消できる。着こなしの紹介から今まで試したことのない洋服を着るきっかけも生まれるだろう。

着用して気に入った洋服は、小売価格よりも安い値段で購入できるのも魅力のひとつだ。トライアンドエラーを繰り返す中で、なりたい自分になれる洋服が見つかれば言うことはない。気に入ったもののみ購入すれば、タンスの肥やしとなる洋服だって減るはずだ。

創業者自身が経験した大きな体重変動から生まれたサービス

Gwynnie Beeの創業者Christine Hunsicker(クリスチャン・フンジッケル)氏は、自分自身が経験した大きな体重変動の中で、プラスサイズの女性が着られる洋服がいかに少ないかを実感したという

選択肢の狭さは、プラスサイズ女性たちを小売店から遠ざける。アメリカの人気セレクトショップ、MODCLOTH(モドクロス)の調査によると、アメリカのプラスサイズ女性がオンラインで洋服を購入する割合は標準サイズの女性に比べ、2倍以上になるという。

その原因として、プラスサイズの洋服を置く店舗が少ないことがある。さらに、試着への羞恥心が強いことも大きな要因だ。体型に合う洋服がない、そんな自分を恥じてしまうのだ。オンラインであれば、試着をすることなく服を買える。

しかし、オンラインでの買い物において失敗はつきものだ。サイズが合わなかったり、思っていた色味と違ったりといったことが起こり、タンスの肥やしが増えていく。そんな経験をした人が新たに洋服を購入するとなると過去の失敗を思い返し、どうしても慎重になる。

フンジッケル氏は、自らの実体験から、オンラインでの月額制レンタルサービスを立ち上げることを決意した。月額一定で何度でも洋服を交換できれば、試着できなくて洋服選びに失敗しても悔しくはないだろうから。

ユーザーデータの蓄積が、さらなる服との出会いを生む蓄

サブスクリプションサービスの強みは、ユーザーデータが蓄積されていくことだ。

ユーザーのサイズデータや、長期にわたる洋服の選別データから、サイズ分布や人気のデザインを知ることができれば、提携ブランドが新たなデザインを考える際のヒントになったり、入荷する際の量をより高精度に管理できるようになるだろう。そう考えると、Gwynnie Beeに対して洋服を提供するブランドにとっても多くのメリットが存在することがわかる。

データの蓄積は個人の趣向やサイズに合った洋服のレコメンデーションも可能にする。データが蓄積されるほど、レコメンドの精度も向上していく。ユーザーにとって最適なレコメンデーションが行われれば、新しいジャンルの洋服に挑戦するきっかけとなるかもしれない。

現時点では、データの利活用を通じたサービス提供は行われていない。だが、今後はデータを活用することで、Gwynnie Beeはそのビジネスを飛躍させられるに違いない。

小さなニーズをくみ取ることが、新たなビジネスチャンスになる

体型を気にしながらも、なかなか声があげられない。女性たちの心と体に寄り添ったGwynnie Beeのサービスは、今アパレル業界に新しい風を吹かせている。

日本でも、体型によって着る服の選択肢が少なくなってしまう女性向けに、体の特徴に合わせた新しい洋服選びを提案するアパレルブランドが登場している。たとえば、胸のサイズで洋服が選べる「HEART CLOSET」や、小柄女性向けのベーシックアイテムを提案する「cohina」などのブランドだ。

多くのアパレルブランドが展開する“フリーサイズ”は、女性にとってありのままの自分を自由に表現できるものだろうか。少なくとも、体型にフィットした自分らしい一着を手軽に探すことが
できるGwynnie Beeは、より多くの女性が「ファッションは楽しい」と思えることに貢献しているはずだ。

女性がありのままの姿で、自由にファッションを楽しめる社会を目指して。これらのサービスがと「ボディポジティブ」のムーブメントが、その後押しをしてくれるだろう。

img: Gwynnie Bee