「眼鏡」を購入するとき、個性的で洒落たデザインを選んで楽しむ人は多いだろう。筆者も眼鏡歴15年を超え、もはや身体の一部のようだ。視力を矯正する医療器具というより、むしろアクセサリーのような感覚で眼鏡を捉えている。では、車椅子や義肢はどうだろうか?

近年欧米では、お洒落でカラフルな車椅子カバーや義足カバーをデザインする会社が現れている。障害を表す器具を、「自己表現」という新しい視点で捉える人々が世界で増加しているようだ。2017年のロンドンファッションウィークでは初めて義肢のモデルが起用され、障害とファッションの垣根がますます低くなっている。

「立つことができないなら、目立とう」


イジーウィールズのオンラインストア。カラフルなカバーが並ぶ。

まるで車輪がキャンバスになったかのような、カラフルで個性的な車椅子カバー。アイルランド発の「イジーウィールズ」のオンラインストアには虹色のクマや色とりどりの幾何学模様、賑やかなジャングルなど、可愛らしいファッションアイテムのような車椅子カバー約40種類が並ぶ。1セットの価格は約139ユーロだ。

同社の理念は、“If you can’t stand up, stand out.(立つことができないなら、目立とう)”。アメリカを中心として30カ国以上から注文が入り、17年にはファッションデザイナーのオーラ・カイリーとのコラボレーションも実現した。今までシンプルなデザインが多かった車椅子に新しい風を吹かせている。

「妹の車椅子は人々が妹の第一印象に大きく影響するのに、彼女の明るく陽気な個性を映し出していなかった」とヴォーグ誌のインタビューで語ったファウンダーのアルビヤ・キーンさん。妹のイジー・キーンさんは脊椎披裂により生まれつき下半身麻痺を持つ。妹がパーソナライズできる車椅子がなく不満を持っていたことにヒントを得て、16年に利用者の個性が出せる車輪カバーをデザインした。

インスタグラムでデザインを公開すると瞬く間にフォロワーが増え、世界中から「欲しい」という声が殺到。そこでオンラインストアを開設したのがイジーウィールズの始まりだ。今やインスタグラムのフォロワーは4万人を超え、二人はフォーブス誌が選ぶ30歳以下の若手「30 under 30」に選ばれている。

イジーウィールズのアルビヤさん(左)とイジーさん(同社インスタグラムより)

障害を持つ人々が使用する器具は、機能性に優れていてもデザイン面が乏しい場合が多い。車椅子に至っては約100年も同じ形だ。

ファッション好きなイジーさんが服装をおしゃれにしていても、最初に人々の目につくのは車椅子。彼女にとって車椅子はポジティブなものであっても、人々にとってはそうではなかった。イジーウィールズはそんな状況を変え、車椅子をファッションアイテムのように捉えることで自己表現に生かせればと考える。

イジーさんがお気に入りのカバーで街に出たとき、道行く人はそのデザインに感動し、褒め言葉が彼女の自信につながっている。車椅子を自身の「障害」の象徴ではなく、「才能」の象徴として捉えているという。二人の夢はニューヨークやパリのファッションウィークで車椅子を披露することだ。

義肢をアクセサリーとして捉える

カナダの義肢カバーメーカー「アリルズデザインスタジオ」はアクセサリー感覚で楽しめる義肢カバーを生み出している。「私たちは義肢装具師ではなく、アーティストだ」とする同社の考えどおり、多様な色や模様の義肢カバーはまさに芸術作品のようだ。


アリルズデザインスタジオのオンラインショップ。

カバーはプラスチック素材で出来ており、付属のレザーストラップで調節が可能だ。価格帯はおよそ300ドルから500ドルで、追加料金でさらに自分好みのカスタマイズができる。

同社はマッコーリー・ワーナーさんとライアン・パリブローダさんが2013年に設立。美しさよりも機能性が重視された義肢ばかりだった当時、プロダクトデザインを学んでいたワーナーさんが、おしゃれ好きな人が義肢をパーソナライズする選択肢が乏しいことに疑問を感じたのがきっかけだ。

「そのころの義肢は手足がないことを隠して、何かが欠けていることをカモフラージュしようとするものばかり。不名誉な刻印を器具に押しているようだった」と語るワーナーさん。そうした考えから、義肢を隠したり実際の肌そっくりに見せたりするカバーではなく、使用者を素敵に見せるデザインを生み出すことがミッションだ。ファッションやインテリアの流行を取り入れながらデザインしているという。

スタイリッシュで芸術作品のような義足カバー (同社インスタグラムより)

興味深いのはワーナーさんが義肢使用者の手足を失った話や義肢についての話に焦点を置いていないことだ。手足の切断で人を定義することはないし、ただその人らしいコーディネートのために商品を提供しているだけだという。

「義肢がワードローブの一部になることで、『その足、どうしたの?』という会話よりも、その人自身のスタイルやイノベーション、テクノロジーの話に展開できるようになってきている」とワーナーさんは語る。

同社の義足は多くの人々を救っている。ビアンカ・アイリスさんは足の切断手術を終えた療養中にインスタグラムで同社の義足を知り、「もう一度おしゃれを楽しめるかしら!」と心が躍った。初めて装着した日には、単なるカバー以上の大きなパワーを感じたという。

自分に起こったことを受け入れ、新たな自信を持って人前を歩けるようになった。ビアンカさんは自身のインスタグラムで「足を失ったことが悲しいのではなくて、本当の自分になるのが怖かったのだ。でもアレルズは私の自信を取り戻してくれた」と報告している。

ロンドンファッションウィーク初の義肢モデル

ファッションブランドが多様性について考え、障害との関わりを深めている流れもある。2017年のロンドンファッションウィークでは初めて身体障害を持つモデルが起用された。


テータムジョーンズのコレクションに起用されたケリー・ノックスさん(テータムジョーンズのフェイスブックより)

若手のロンドンブランド、テータムジョーンズは身体との関わり方をテーマにした「The Body | Part 2」コレクションを発表。その中で義肢のモデルや体が大きいモデル、様々な民族のモデルが颯爽とランウェイを歩いた。

デザイナーのキャサリン・テータムさんとロブ・ジョーンズさんは自身のインスタグラムで、「このコレクションのゴールは、私たちが『すべて』や『完全』と考えるものが様々な解釈が可能で、脱構築的、再構成できるという考えを示すことだ」と述べている。

「私の身体は少し『欠けている』のかもしれない。でも私の魂は完全だしリミットがないわ」とランウェイを歩いたファッションモデルのケリー・ノックスさんはBBCのインタビューで語っている。

彼女は生まれつき左腕を持たないが、モデルを始めるまで自分が「障害を持っている」と考えたことがなかったという。ファッション業界ではサイズや色、年齢といった多様性は見られるようになったが、障害は最後のタブーとされていると感じており、障害と美についての社会の捉え方を変えようと活動している。

当日は障害を持つ子が「私もモデルになれるんだ!」と希望が持てるような力強いショーにしようとケリーさんとキャサリンさんは話していた。そのとおり、「すばらしいコレクションを身にまとい、力強く堂々と歩けた。私のキャリアのハイライトの一つよ」とケリーさんは話す。


ケリーさんのインスタグラム

おしゃれな車椅子や義肢、義肢モデルの活躍。共通するのはファッションで障害を隠したり障害の解決を目指したりするのではなく、ファッションで自己表現の幅を広げていることだ。

障害の有無に関わらず、ファッションで個性やライフスタイルを表現することは生活を豊かにする。そうした一端を担う器具の登場、ファッション業界の多様性に関する捉え方の変容は、「障害×ファッション」の新しい見方をもたらしてくれている。

文:新多可奈子
編集:岡徳之(Livit

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