入力したテキストや音声に対して、自動で回答をしてくれるチャットボット。メリットは大きいが、システム不具合や応対の正確さなどの懸念材料があるため、導入する際には慎重に検討しなければならない。その中で日本有数のIT企業が東京都のある試みに参画した。

日本オラクル株式会社は、東京都主税局が5月1日から開始している、より質の高い納税者サービスの提供に向けて、AIを活用したチャットボットの実証実験に参画していると発表した。

具体的には、6月1日から7月2日まで実施する「納税や納税証明に関する問い合わせ」に自動で応答するAIチャットボットの仕組みをオラクルのクラウドサービスで構築し、実証結果を提供する。

300項目のシステム構築を日本オラクルが支援

「チャットボット(chatbot)」は、ネット上で短いテキストによって会話する「チャット」と、人間に代わってさまざまなタスクを実行する「ロボット」を組み合わせてできた言葉だ。

通常のチャットが人間と人間とで行われるのに対し、「チャットボット」では人間とAIがチャット上で会話することになる。

IBM社の「Watson(ワトソン)」などのAIや、自然言語処理技術などが進化することにより、「LINE」、「Facebook」といったSNSや、ショッピングサイト、チケット予約サイトなどに導入されるようになった。

そうすることで、AI搭載の「チャットボット」とチャット上でコミュニケーションし、サービスを利用するというスタイルが生まれてきており、今、この「チャットボット」が広い範囲で活用され始めている。

これを受け、主税局では、税についての定型的な問い合わせに自動対応できるチャットボットの活用を検討しており、税務分野におけるチャットボットの有効性や可能性などを検証するため、5月1日から実証実験を行っている。

第一弾として、「自動車税に関する問い合わせ」に対応するチャットボットを主税局のホームページ上で公開した。そして、第二弾として、「納税や納税証明に関する問い合わせ」に関するチャットボットを公開し、300項目にわたる同システムの構築を日本オラクルが支援している。実証の結果として、利用に関するアンケート結果の集計、チャットボットの応答時間、FAQのヒット率および傾向などを提供する。

今回の選定にあたって、チャットボットの応対の正確さ、個人情報の入力防止、画面デザイン、システム稼働の安定性、アクセス負荷への対応力、セキュリティ対策などを総合的に評価し、日本オラクルを含む4社が実証実験に参画することになったという。

日本オラクルが構築した「納税や納税証明に関する問い合わせ」に対応するAIチャットボットの仕組みには、カスタマーサービスを支援する「Oracle Service Cloud」、データベース基盤をクラウドで提供する「Oracle Database Cloud」、クラウドで開発する多言語アプリケーション実行基盤「Oracle Application Container Cloud」などを使用している。

具体的な利用方法は、主税局ホームページに設置したリンクからチャットボットを起動する。入力欄に質問を入力すると、AIがその内容を分析して適切な回答を表示する。ここで、回答内容が的確かどうか、評価を選択したりコメントを入力することができるのだ。

顧客とのエンゲージメントを築くため活用進むチャットボット

ここで、現在行われている「チャットボット」の活用例をみてみよう。株式会社ZEALS(ジールス)の、Messengerメディア会員システム「fanp (ファンプ)」は、メディアがファンに記事を届けたり、コミュニケーションを行うチャネルとして「Facebook Messenger」を活用することが可能だ。

企業は、Messenger上で企業アカウントを立ち上げ、チャットボット用のCRM(顧客関係管理)機能を通じて、チャットボットを会員登録の窓口にする。このMessengerを通じて記事を届けるチャットメディアは、メルマガに比べ開封率15倍・クリック率 13倍・離脱率8%以下という成果を出しているようだ。

今、メディアの指標は、「PV(ページビュー)」から「エンゲージメント(愛着心)」へと変化している。メルマガ、スマホアプリ、SNSの次となる、「エンゲージメントを築くための最適なチャネル」として、チャットボットが注目されているのだ。

また、LINEでは、企業の顧客や商品データベースなどとメッセージ内容を紐づける「LINE ビジネスコネクト」を展開し、メッセンジャー上でさまざまな企業がサービスを提供している。対話形式でプランが作れるライフネット生命の「ほけん診断」や楽しく会話できるフロム・エー ナビの「パン田一郎」、商品情報が届くZOZOTOWNのLINEアカウント、スタンプを押すだけで残高照会できるみずほ銀行のLINEアカウントなどがある。

その他にもエクスウェア株式会社は、AIチャットボット「TalkQA」と、スマートスピーカー「Google Home」を連携し、さまざまな質問に回答する企業向けソリューションを発表している。

納税のハードルを一気に解消

納税というものは、とかく面倒なものだ。また、一般人には不明なことがらも多く、調べるのも大変だった。

しかし今回のようなシステムが構築され、進化していけば、そのハードルは一気に下がるだろう。東京で成功すれば、その後はおそらく全国に広がるであろうと思われるため、その成果に期待したい。

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