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街にポイ捨てされたチューインガムから作るスニーカーがオランダ・アムステルダムで開発された。その名も「Gumshoe(ガムシュー) 」。
不快なごみとして街路にへばりついたチューインガムを集め、靴底のプラスチックにリサイクルしている。クリーンな街づくりを目指すアムステルダム市が地元の靴メーカーと協力して作ったイノベーションに世界が注目している。
ガムシューで市民の関心を喚起
アムステルダムの街路に点々と斑点のように広がるのは、人々が吐き捨てたチューインガム。オランダ全体でその量は年間150キログラムに上り、毎年多額の税金がこの清掃に費やされている。また、チューインガムが生分解されるには20~25年の年月がかかり、環境への負荷も大きいという。
このごみ対策に頭を悩ませたアムステルダム市は、これまでにないイノベーティブな方法を求めた。「チューインガムのポイ捨て問題を解決するのに、特別なルールや制限を設けることは我々のミッションではなかった」と、同市マーケティング&インベストメントのムスタファ・タンリヴェルディ氏は説明している。
そこで考案されたのが、ポイ捨てチューインガムからリサイクルされたプラスチックを靴底に使用したスニーカー。アムステルダムを拠点とする靴メーカー「explicit(エクスプリシット) 」、チューインガムのリサイクル技術を提供する「Gum-tec®(ガムテック) 」との共同開発で生まれた。
「Gumshoe」の靴底にはアムステルダムの地図と市の紋章がデザインされている(GumshoeのYoutube動画より)
まずはアムステルダム市が街路に広がるポイ捨てチューインガムを収集。これをガムテックの技術でプラスチック片に加工し、靴底をデザイン。エクスプリシットがこれをポップでおしゃれなスニーカーに作り上げた。靴底には半円状に運河が広がるアムステルダム市の地図や市の紋章「XXX」をデザイン。
「ガムシューピンク/ブラック」「ヴェンデッタ・アーミーグリーン/ブラック」の4種を展開している。「ガムシュー」2色が49.95ユーロ(約6,600円)、「ヴェンデッタ」2色が169.95ユーロ(約2万2,500円)。2018年6月発売予定で、すでにエクスプリシットのサイトで予約を受け付けている。
このスニーカーを身に着けることで、消費者はチューインガム問題を解決し、クリーンで魅力的な街づくりに貢献。そして「説教くさくない方法で、この問題に対する意識を喚起する」(タンリヴェルディ氏)のがアムステルダム市の狙いだ。
運河のプラスチックごみを家具やベンチに
プラスチックごみを再利用して作った街のベンチ。2人用ベンチの重さは、1年間で住民2人が廃棄するプラスチックごみの量に匹敵する(写真:The New Raw)
アムステルダム市はプラスチックごみのリサイクルにも積極的に取り組んでいる。そのうちの一つが「Print Your City!」というプロジェクト。リサイクル素材のリサーチ&デザイン・スタジオ「The New Raw」と、3Dプリンターを使って再生プラスチックの建築素材を作る「Aectuel」が主体となっており、アムステルダムの運河や街で集められたプラスチックごみをチップにし、洗浄した後、3Dプリンターで公共のベンチを製作するというものだ。
ベンチは2人が腰かけてバランスを取る丸っこい形の面白いデザインで、重さは約50キログラム。アムステルダムの住民2人が1年間で出すプラスチックごみの量に匹敵する。同プロジェクトは上記2社のほかに、アムステルダムの都市問題に取り組むAMS研究所やデルフト工科大学、ごみ再生事業大手のAEBアムステルダムがサポートしており、ごみ収集プロセスの改善や、地域の住民と一緒に公共物をデザインする可能性を模索しているという。
このほかにも環境保護団体やデザイン会社が協力してアムステルダムの運河から回収されたプラスチックごみをボートやおしゃれな家具に再加工する動きも見られ、新しいごみリサイクルの形や住民の意識向上に向けたイノベーティブな方法として注目されている。
ごみ対策を楽しく、発想の転換がカギ
ごみ捨てをゲーム感覚の楽しいチャレンジに(写真:KesselsKramer)
捨てられたごみを拾い集めてリサイクルする以外に、ポイ捨て自体を防止する面白い取り組みもオランダ各地で見られる。
オランダ南部のデンボス市にある「Koning Willem I College(国王ウィレム1世カレッジ)」は、キャンパス内に投げ捨てられるごみを減らすため、広告会社「KesselsKramer(ケッセルスクラマー)」とキャンペーンを実施した。
「ごみをごみ箱に捨てるのは、どれだけ難しくなるか?」と銘打ったこのキャンペーンでは、ごみ箱を梯子の上に取り付けたり、ごみ箱の蓋に重いダンベルを付けたり、ごみ箱の周りを高い柵で囲んだりと工夫を施し、ごみ捨てを難しくすることで学生たちの「チャレンジ精神」に火をつけた。ちょっと面白いチャレンジにはゲーム感覚で取り組みたくなる人間の心理をうまくついたユニークな解決法と言えるだろう。
ごみ箱の蓋に重いダンベル。発想の転換でごみ捨てを楽しく(写真:KesselsKramer)
ごみをごみ箱に捨てると面白い仕掛けが体験できるというのも一案だ。ユトレヒトを拠点とするデザイン会社「ioglo」が開発したごみ箱「FUMO」は、タバコの吸い殻を入れるとノリのいい音楽が流れ、光が点滅。吸い殻を入れるのが楽しみになる工夫が施されている。
「エフテリング」というオランダのテーマパークで、「ホロボロガイス」というキャラクターの口がごみ箱になっており、子供達がごみを入れると「ありがとう!」という声が返ってくるのも同じような原理である。ごみを入れた後にお礼やご褒美が帰ってくれば、大人だって嬉しいものだ。
「タバコの吸い殻をカラスに集めてもらおう」という試みもある。アムステルダムのデザイン会社「CrowdedCities(クラウディドシティズ) 」が開発した「Crowbar(クロウバー)」は、カラスが吸い殻を拾ってごみ箱に入れるとカメラがそれを読み取り、カラスにご褒美としてのエサを与える仕組みになっている。
学習能力が高く、仲間から行動を学ぶ性質を持つカラスの習性を利用したもので、街のごみをあさって散らかすカラスの公害も同時に解決できるものと期待されている。タバコのポイ捨ての根本的な解決にならないことや、カラスへの健康被害などが問題視されているが、オランダらしいユニークなアイデアと合理性に満ちている。
タバコの吸い殻をカラスに集めてもらう装置「Crowbar」(写真:CrowdedCities)
罰則や規制で縛るのではなく、楽しくイノベーティブな方法で問題を解決していこうとする試みは、オランダの得意とするところ。ごみ対策のみならず、様々な場面で見受けられる。
「説教くさくない」オランダのごみ対策、その効果のほどはまだ明らかではないが、まずは問題意識の喚起に成功していると言えるだろう。オランダ人の発想の転換に学ぶところは大きいのではないだろうか。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)