アジア太平洋地域の各国でドローン利用促進に向けた動きが活発化している。
2018年4月初め、オーストラリアではクイーンズランド州政府が同国初となるドローン活用戦略の策定に乗り出したことが報じられた。またニューサウスウェールズ州も2050年以降までを想定したドローン利用を検討するという。また同月インドネシアでは東南アジア初となるドローン製造工場が開設されるとともに、国内初となるドローンパイロット養成学校が開校している。
スマート国家としての地位確立を狙うシンガポールでは南西部にあるビジネスパーク、ワンノース地区を国内初の「ドローン・エステート」に指定し、ドローンの試験飛行や開発をさらに加速させる体制を整えた。
シンガポールには域内外からドローン開発を行う大手企業やスタートアップが集まっており、ドローン・エステートを足がかりとして、他国に先がけドローンの実用化を実現したい考えだ。
今回はシンガポールに登場した「ドローン・エステート」を紹介しつつ、同地区で進められようとしているドローンプロジェクトの詳細に迫ってみたい。
モダンなビルが並ぶワンノース地区
航空大手エアバスなど、シンガポールで加速するドローン開発
ドローン・エステートとして指定されたワンノース地区は、2001年にローンチされたイノベーション特区だ。バイオメディカル、情報通信、メディア分野などのグローバル人材を誘致し、同国の知識経済を活性化することを目的として開発された。
ドローン・エステートに指定されたワンノース地区
ワンノース地区の近くにはシンガポール国立大学やフランスの経営大学院INSEADなど、世界レベルの大学や研究機関が拠点を構えており「サイエンス・ハブ」としても知られている。
シンガポール政府は、ワンノース地区をドローン・エステートに指定することでドローン試験飛行を実施しやすい環境を整え、ドローンデリバリーや管制システムなど、街中を想定した実験を進めたい考えだ。また同地区は200ヘクタール(東京ドーム42個分)の広さがあるため、ドローンの性能をフル活用した実験が期待されている。
ドローン・エステートでは、現時点で5つのドローン・プロジェクトが実施される予定。そのなかには欧州航空大手エアバス社が取り組むドローン・デリバリー・サービス「Skyways」が含まれている。
エアバス社が取り組むSkywaysは、自動で飛行するドローンに加え、小包をドローンに自動で積み下ろしするロボットが搭載された小包ステーションが一体になったデリバリーシステムだ。ドローンは2〜4キログラムの小包を運ぶことが可能だという。
エアバス社のドローン・デリバリー・システム「Skyways」
エアバス社は現在シンガポール国立大学と共同で研究開発を行っており、同大学のキャンパス内で試験飛行を実施してきたが、ドローン・エステートが開設されたことで街中での試験飛行が可能となり、実用化に向け大きく前進するとみられている。
エアバス社はSkywaysのほかにも、ドローンによる旅客機メンテナンスプロジェクト「Hangar of the Future(HoF)」なども実施しており、同社のドローン事業においてシンガポールは重要な研究開発拠点になっている。ドローン・エステートの登場はエアバス社が実施するさまざまなドローン事業を一層拡張するものになるはずだ。
ドローン・エステートでは、エアバス社のほかにシンガポール南洋工科大学・航空交通管理研究所(ATMRI)によるドローン管制システムや通信大手シングテルによるドローン・デリバリー・サービス開発などが実施される予定だ。
南洋工科大学・航空交通管理研究所のドローン管制システム(南洋工科大学ウェブサイトより)
以前紹介したブイキューブロボティクス社が提携するシンガポールのドローン企業H3ダイナミクスも同地区でビルの点検作業自動化に向けたドローンソリューションの研究開発に取り組むという。
ワンノース地区にはドローンだけでなくロボティクスや人工知能に関わる企業や研究機関もあることから、さらなるコラボレーションも期待できる。領空の狭いシンガポールだが、政府はリスクをとってドローン開発を積極的に推し進めている。スマート国家を目指すシンガポールがドローンをどのように社会に統合させていくのか、今後の展開に注目していきたい。