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ネット環境とコンピューターさえあればどこでも仕事ができる時代、自宅で仕事をする人が急ピッチで増えてきている。自宅勤務は時間やコストを節約できるという利点があるが、一方で多くの人が「孤独感」をデメリットとして挙げているのが現状。このマイナス面を解消すべく、新しいテクノロジーやシステムが生まれている。
自宅勤務は快適だが、孤独との闘いでもある
米企業のリモートワーカー、過去10年間で倍以上
欧米ではフリーランスに限らず、企業のフルタイム従業員でも就業時間の一部を自宅勤務に充てる人が増加している。
求人サイトの「フレックスジョブス」と労働関連の調査会社「グローバル・ワークプレイス・アナリティクス」が行った米国の遠隔勤務に関する調査 によると、企業のフルタイム従業員で勤務時間の半分以上を在宅勤務している人(フリーランスを含まない)は、2017年に全米の労働人口の約2.9%(390万人)に達し、2005年から115%増加した。これらリモートワーカーの平均年齢は46歳。大学の学位以上の学歴を持ち、オフィスワーカーよりも高収入の人が多いという。
在宅勤務増加の背景として第一に挙げられるのは、テクノロジーの進化。ネット環境とコンピューターが整えば、いつでもどこでも仕事ができる。また、もう一つの背景となっているのが家族形態のあり方だ。共働き夫婦のほかにシングルペアレントの家庭も増加していることから、仕事と家庭生活のバランスを求める人が増えている。
在宅勤務については通勤時間が節約できるほか、おしゃべりや電話などで仕事を中断される要素が少ないというメリットのほかに、ガソリン代、駐車代、交通代やスーツのドライクリーニング代などの減少で、年間約4,000ドルのコストが削減できるという試算 まである。
しかし、1人で黙々と仕事をするスタイルは孤独感や閉塞感を伴い、この解消が一つの課題となっている。
テレプレゼンス・ロボットで遠隔出勤
自分の分身となるテレプレゼンス・ロボットがオフィスを歩き回る(DoubleのYouTubeより)
1人で働く孤独感を解消する一つの手段として、「テレプレゼンス・ロボット」が登場している。テレプレゼンス・ロボットとは、自分の代わりに会議や学校などに出席するロボットで、遠隔操作により双方向のコミュニケーションが可能になる。
こうしたロボットは複数のメーカーが製造しているが、いずれも操作は簡単で、Wi-fiやSIMカードによりインターネットにアクセスした後、スマートフォンやタブレット上で遠くにいるロボットの動きやマイクのオン・オフなどをコントロールできるというものだ。
ノルウェーのスタートアップ企業「ノー・アイソレーション 」が製造するテレプレゼンス・ロボット「AV1」もその一つで、これは長期の病気療養などで学校に出席できない子供達のために開発された。教室ではロボットが子供の代わりに出席し、ランプ点滅で質問をしたり、視線を動かしたり、あたかもその子が出席しているかのよう。また、病院では病気の子供が友達と教室にいるような雰囲気をもたらす。
「AV1」は長期の病気療養などで学校に出席できない子供のために開発された(ノー・アイソレーションのホームページより)
もちろん、リモートワーカーによる利用も可能で、ユーザーはロボットによる「代理出勤」により、あたかも1日普通にオフィスで過ごしたかのような感覚を味わうことができる。同社は「AV1」のほかに、シニア層に向けボタン1つで操作できる簡易コンピューター「KOMP」も展開しており、「長期的に孤独を終焉させること」(創業者のカレン・ドルヴァ氏)を目指しているという。
日本でも同様のコンセプトで、オリィ研究所 によりコミュニケーション・ロボット「OriHime」が販売されている。OriHime上に搭載されたカメラ、マイク、スピーカーをインターネットを通じて操作することで、周りの人と「あたかもその人がそこにいるように」会話ができる。ロボットの頭や手を動かして「ボディランゲージ」を表現することもできるため、コミュニケーションは通常のテレビ会議よりグッと親密度が増す。
オリィ研究所が開発した「OriHime」は頭と手の動きでボディランゲージを表現(OriHimeのYouTubeより)
手持ちのスマートフォンやタブレットをそのまま搭載する形のテレプレゼンス・ロボットもある。 米リヴォルヴ・ロボティクスが開発した「Kubi」は、スマートフォンやタブレットを搭載するホルダーのような形態で、自分の顔が映った画面を自由に動かし、視線を変えながら双方向の会話が楽しめるというものだ。
米カリフォルニア発のダブル・ロボティクスが開発した「Double」も手持ちのiPadを搭載する形のテレプレゼンス・ロボットで、150㎝まで伸びる軸に支えられた自動バランスシステムを備えた車輪により、オフィス内を自由に移動できる。軸の高さを調節し、スクリーンに映った自分の顔を同僚の目の高さに合わせることも可能。オフィスを歩き回るロボットと同僚が挨拶を交わす光景は、さながら『スターウォーズ』の世界だ。
「Hoffice」で自宅をオフィス環境に
スウェーデン発の「Hoffice」は自宅をオフィスとして開放する仕組み(写真: Amrit Daniel Forss)
自宅勤務の孤独解消に、自宅をオフィスにしてしまおうという動きもある。「Office」と「Home」を掛け合わせた「Hoffice 」と呼ばれるネットワークで、ボランティアが自宅を開放し、見知らぬ者同士が1日、「コーワーカー」として一緒に働くシステムだ。2013年にスウェーデンから始まった動きで、現在は世界各都市に広がっている。
主催者はまず、フェイスブックを通じて参加者を集める。「Hoffice Tokyo」などHofficeの後に都市名を付けたページを作成し、Hoffice開催の日程を決め、どんな設備が使えるか(Wi-fi、プリンター、スキャナ、電話室など)、お茶やコーヒーは提供されるか(寄付を募るか)、ランチをどうするか、喫煙などの禁止事項などを明記。参加者はフェイスブック上で最寄りのHofficeを検索し、メンバー登録して申し込みをするだけだ。
集まった「コーワーカー」たちは、ただやみくもに仕事をするのではなく、45分間の仕事セッションと15分の休憩を繰り返す。休憩時間にはメンバーの得意分野を生かし、ヨガやストレッチ、メディテーション、楽器演奏、太極拳、簡単なゲームなどが提供されるほか、仕事を始める前に次のセッションで自分が到達したい目標を皆の前で発表し、セッションの終わりにそれが到達できれば皆でそれを祝う。単調になりがちな1人仕事にメリハリをつけ、ソーシャルな環境の中でやる気と効率をアップさせる工夫が施されている。
休憩時間にゲームを楽しむ「Hoffice」参加者(写真:Hoffice)
自宅勤務の孤独感解消には、ほかにもコーワーキングスペースで机を借りたり、カフェで仕事をしたり……といった方法も人気がある。大切なのは、自分だけで集中できる1人の時間と、ソーシャルな環境に身を置く時間のバランスなのだろう。人生100年時代を迎え、これまでよりも長く働く人が増える中、リモートワーカーは今後さらに増加が予想される。新しい働き方に向けた模索は続く。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)