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日々、話題に事欠かない「仮想通貨」。乱高下するその値動きだけでなく、コインチェック事件や詐欺まがいの通貨に関するトピックもあり、これまでになく世間の注目を集めている。しかし、実際に仮想通貨を保有する人はそこまで多くないようだ。
金融情報サイトのFinder.comがアメリカの成人2,000人を対象に行った調査によれば、仮想通貨を保有する人の割合はたった8%。残りの92%のうち、今後購入したいと考えている人の割合も8%以下と、慎重な目で見ている人がまだまだ多い。
そもそも仮想通貨の入手方法について、どのくらいの人が知っているのだろうか? 街頭広告やテレビCMで、取引所で法定通貨と引き換えに購入できると認識している人は一定数いるだろう。しかし、手段は他にも存在する。
たとえば、「マイニング」はどうだろう。マイニングとは、ブロックチェーン上の決済を記録する際に行われる作業のことを指し、ビットコインをはじめとする多くの仮想通貨にとっては欠かせないプロセスのこと。
その内容は、簡単に言えば、難しい算数の問題を解くようなもの。しかし、問題の裏に何かロジックがあるわけではなく、解くには、とにかくランダムに計算し続けなければいけない。問題が解けた人には、その報酬として仮想通貨が配布されるのだ。
原則的には家庭用のパソコンでもマイニングは可能だが、極めて効率が悪い。そのため、マイニングをする人(マイナー)の多くは、専用のマシンを使って仮想通貨を「採掘」をしている。
しかし、ただでさえ複雑に思える仮想通貨を採掘するために専用のマシンを導入するとなると、あまりにもハードルは高い。やはり、ここは取引所で購入するのが一番手っ取り早いのか–。
だがもし、普段通りの生活をするだけで、このマイニングを簡単に行え、仮想通貨を手に入れられるとしたらどうだろうか? そんな「採掘家電」が続々、登場している。
暖まっているうちに稼げる「採掘ヒーター」
そんな採掘家電の一つが、マイニング機能を備えたヒーター「QC-1」だ。
先述の通り、マイニングで仮想通貨を手に入れるには、相当な量の情報を処理しなければならないため、専用のマシンは通常のパソコンの何倍もの電気を消費し、そのエネルギーは熱として発散される。パソコンで作業中、熱を発しているのを感じたことがある人は想像できるだろう。
フランスのQARNOTは、この課題を逆手に利用するアイデアを考えついた。それが、QC-1だ。
QC-1には、一部のマイニング専用マシンにも用いられている、AMD製のグラフィックカード(RADEON RX 580 8G)が2枚搭載されており、これがメインの熱源となる。グラフィックカードには冷却用のファンは付いておらず、またハードディスクも搭載されていないため、稼働音はまったくせず、見た目にも高級感がある。
QARNOTのウェブサイトに書かれた情報によれば、QC-1を電源とインターネットに接続し、仮想通貨ウォレットの情報をモバイルアプリに登録するだけで、すぐにマイニングを開始。デフォルトではビットコインに次いで時価総額第2位のイーサリアムをマイニングするよう設定されており、Linuxの知識があれば、他の通貨もマイニングできるようだ。
消費電力量の目安は通常時で450Whと、家庭用のエアコンとほぼ変わらない水準。本体価格は税込みで2900ユーロ(40万円弱)で、現状のイーサリアムの価格を考慮すると、一ヶ月あたりの収益額は約70ユーロ(9000円強)ほど。
これを安いと取るか高いと取るかは、住む地域によって変わってくる。寒い地域であれば、ヒーターを多頻度で使うことになるため、その電気代によっては長期的にはQC-1のほうが通常のヒーターより安上がりになる場合もあるだろう。
歯を磨いているうちに稼げる「採掘歯ブラシ」
より簡単に仮想通貨を体験してみたいという人には、世界初の「ブロックチェーン歯ブラシ」をおすすめしたい。中国の32teethという企業が開発したこの歯ブラシを使えば、普段通り歯を磨くだけで、オリジナルのAYAトークンを手に入れられる。
この歯ブラシはAR機能も備えており、ユーザーはスマートフォン上で自分の歯の状態を確認しながら、気になる箇所を重点的に磨くことができる。
32teethはクラウドファンディングで資金を調達しており、現在の調達額は目標金額の10万人民元(約170万円)を軽く超え、29万人民元(約500万円)に達している。支援者の数は700人以上に上り、キャンペーン終了の5月8日までまだまだ調達額は伸びそうな勢いだ。
残念ながら、現状の構想では集めたAYAトークンは歯ブラシや歯間ブラシなどと交換できるものの、現金には替えられない。しかし、これまでも歯の健康に特化した製品を開発してきた32teethが、今後このプラットフォームを拡張し、他のブロックチェーンと接続できるようになれば、歯を磨くだけでお金を稼げるようになるかもしれない。
大手家電メーカーも採掘家電市場に参入の可能性
家電とマイニングの可能性に目をつけたのは、スタートアップだけではない。昨夏、深センに本拠地を構える中国の家電大手Mideaが「採掘家電」に関する特許を出願していたことが明らかになった。
同社が開発したマイニング用の特別なチップを導入すれば、エアコンからテレビ、冷蔵庫や洗濯機まで、あらゆる家電をマイニングに利用できるのだという。
さらに今年に入ってから、韓国のサムスンもマイニング用のチップを製造していると報じられた。このチップは他企業のために製造されているようだが、家電を幅広く扱うサムスンが今後マイニング機能を備えたデバイスを生み出すとしてもなんら不思議ではない。
彼らの狙いは、仮想通貨投資に前向きなミレニアル世代の取り込み、また、価格競争に陥りやすい家電の付加価値向上が考えられる。
技術的な課題もあり、仮想通貨を法定通貨のように扱える世界が実現するまでにはまだ時間がかかりそうだ。しかし、仮想通貨普及のきっかけは意外なところに埋もれているかもしれない。
文:行武温
編集:岡徳之(Livit)