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ビットコインをはじめ、仮想通貨の価格が激しい乱高下を続けており、G20でもそれに対する規制に注目が集まるなど、仮想通貨関連のニュースを目にしない日はない。決済にかかる時間やスケーラビリティの問題から、まだまだ法定(フィアット)通貨を代替できるほどの実用性はなく、単に投機の対象になってしまっているという見方もある。
一方で、国内ではビックカメラやヨドバシカメラ、そして今月1月からはヤマダ電機でビットコイン決済が導入されるなど、一部の小売企業はポジティブな動きを見せている。
この一見矛盾する状況にはどのような背景があるのか、そして企業・ブランドにとって仮想通貨はどのような可能性を秘めているのだろうか。
ファストフードチェーンがトレンドを牽引
冒頭で紹介したような日本企業以外にも、海外では以下のような大手ブランドの取り組みがこれまでに注目を集めてきた。
- サブウェイ
2013年時点で、フランチャイズ店舗の一部がビットコイン支払いの受け付けを開始。サブウェイ本社としての取り組みではなく、あくまでイノベーティブなフランチャイズによる実験的な試みだった。 - バーガーキング
昨年、ロシアのバーガーキング(Burger King Worldwide Holdingsの関連会社)が、「WhopperCoin」と名付けられた独自のトークン(あるブロックチェーン上で発行される独自コイン)をローンチ予定と発表。単なる支払手段としてでなく、ブランドが独自のトークンを発行し、ロイヤリティプログラムと組み合わせるという目新しさが注目された。 - ケンタッキーフライドチキン
今年1月、KFCカナダがビットコインを使った場合のみに購入できるチキンバスケット「The Bitcoin Bucket」を期間限定で販売。ビットコインの価格変動を反映するため、Facebookのライブ配信機能を使って価格情報を発信したり、Twitter上で消費者とリアルタイムでやりとりをしたりと、積極的なマーケティング施策も各メディアで取り上げられた。
フランチャイズではなく、ケンタッキーブランドを運営するYum! Brands Incの完全子会社Kentucky Fried Chicken Canada Company(非フランチャイズ/ジョイントベンチャー)が同施策を打ち出したことから、ケンタッキーブランド全体としての仮想通貨に対するスタンスも感じられた。
なぜ、このように仮想通貨絡みの施策を打ち出したり、ビットコイン支払いを受け付けたりする企業・ブランドが続々と登場しているのだろうか? 仮想通貨は実用性に関してはネガティブな面が取り沙汰されることが多く、またリスクを孕んでいるにも関わらず、だ。
例えば、ビックカメラやヨドバシカメラ、ヤマダ電機では、スムーズな決済を行うために仮想通貨取引所Bitflyerの決済サービスが導入されているほか、上記のサブウェイやKFCカナダでもサードパーティーのウォレットサービスを経由して支払いを受け付けているので、カウンターパーティーリスクを免れることはできない。
また清涼飲料水を製造・販売する米企業Long Island Iced Tea Corpが、社名をLong Blockchain Corp.に変更したところ、株価が最大で300%近く上昇したニュースなどから、仮想通貨に絡んだ企業の取り組みを「メディアに注目してもらうための単なるマーケティング施策」と揶揄する声も多いのが、現状だ。
ミレニアル世代の30%は「株よりビットコイン」
こうした企業・ブランドの動きには、彼らがターゲットとしている層や顧客単価が関係しているようだ。
まず、ブロックチェーン起業に特化したベンチャーキャピタルBlockchain Capitalが昨年行った調査によれば、18〜34歳のいわゆる「ミレニアル世代」の30%は、1000ドルが手元にあれば株式よりもビットコインを購入すると回答したのだという。
2,000人を対象にした同調査では、さらにミレニアル世代の42%はビットコインについて何かしらの知識があるとされている。
またビットコイン決済を選ぶ人の顧客単価は、その他の決済手段を利用する人に比べて高いようだ。ビックカメラのビットコイン決済導入に関するITmediaのインタビューによれば、「全決済方法の平均額とビットコイン決済単体の平均額を比較すると、後者の方が2~3倍ほど高い」とされている。
もう少し対象を広げたJCBの調査(「キャッシュレスとデビットカード利用意向に関する実態調査2018」)では、「キャッシュレス派の平均貯蓄増加額は87.6万円で、現金派の平均貯蓄増加額(32.5万円)の2.7倍」や「キャッシュレス派では、お金の管理を得意だと思っている人は54.8%と、半数以上がマネー管理力に自信を持っていたが、現金派では39.7%と4割にとどまった」という結果が示されており、新しい決済手段に前向きな層の方がお金の扱いに長けていることがわかる。
つまり、今後メインの消費者層となるミレニアル世代や、お金を持っているアーリーアダプターの取り込みこそが、仮想通貨に前向きな企業の狙いなのではないだろうか。
さらなる普及に向けて
決済処理の技術的な部分については、コインチェック事件を受け金融庁が仮想通貨取引所に対して厳しい姿勢を見せており、今後はよりセキュアな体制が築かれていく可能性が高い。そうすればカウンターパーティーリスクも徐々に低減していくだろう。
またライトニングネットワークなど、決済の高速化を狙った技術も現在活発に開発が進められているため、将来的にはサードパーティーのサービスを使わなくても迅速に決済ができるようになるかもしれない。
TwitterとSquareのCEOを務めるジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏も「ビットコインは10年以内に世界中で利用される単一通貨になるだろう」と発言している。
今後、小売企業の仮想通貨受け入れが加速し、仮想通貨が電子マネーのような地位を確立していけば、世界中どこへ行っても両替無しで商品やサービスを購入できるようになるかもしれない。
文:行武温
編集:岡徳之(Livit)