決して自慢できる話ではないが、自分はお金の管理や運用が苦手だ。

先月Amazonで何を買ったか、いくら使ったのかほぼ把握していない。月に1度利用するかどうかも怪しいのに、毎月お金を払い続けているサービスもいくつかある。

管理だけでなく運用も課題だ。せっかくFintechサービスの台頭もあって資産運用の選択肢が増えてきているのに、大部分の資産は銀行の預金口座に眠ったまま。

社会人になって数年、自分の「金融リテラシー」のなさを痛感している。

米国では高校の16.4%が「パーソナルファイナンス」を必修科目に

どうやら「金融リテラシーに自信がない」のは自分だけではないらしい。日本の若者500名を対象にした「金融リテラシーに関するアンケート調査」では、実に9割以上が「自身の金融リテラシーは高くないと感じる」と回答している。

この調査によると若い世代の間でも「仮想通貨」や「つみたてNISA」を筆頭に金融関連のワードはある程度認知されている。決して金融に無関心というわけではない。

ただし、それを実行に移しているかというと話は別だ。実態が顕著に現れているのが「金融・投資商品の保有率・購入経験率」の低さで、最も保有率が高い「株式」ですら11.8%となっている。

興味はあるが、実行に移すほどの勇気や知識が不足しているのだろうか。もしそうであるならば、この状況を打破するひとつの鍵は「お金の教育」にあるといえるかもしれない。

「日本証券業協会」が金融経済教育に関して行った調査では、「経済の基本的な仕組み」を取り上げる中学校・高校は過半数を超えるが、「クレジット・ローン・証券」、「保険の役割」について取り上げるのは3~4割程度だという結果がでている。

たしかに高校の「現代社会」や「政治経済」で有名な理論や金融の仕組みを学んだ記憶はあるが「クレジットカード」「保険」など実践的な話を聞いた覚えはない。

これがファイナンシャル教育に熱心なアメリカの場合だとどうなのだろうか。アメリカでは国内の高校のうち約16.4パーセントが「パーソナルファイナンス」を必修科目に設定、五つの州では同科目が全ての高校の卒業必修単位に含まれるという。

たとえばパーソナルファイナンスの授業を全生徒に受講させると発表した「Oconomowoc High School」の場合、授業を通じてクレジットカードの使い方や借地・借家契約書の読み方、投資、学生ローンの返済方法などをレクチャーする。

フィットネスジムならぬ「ファイナンスジム」が話題

このようなファイナンシャル教育のニーズの高まりにともなって、その間口はどんどん広がってきている。北米では、「お金のライザップ」と言えそうな金融版のパーソナルジムも登場した。

マンハッタンにある「Financial Gym」は、専属のトレーナーがマンツーマンでお金に関する目標達成をサポートするサービス。

個々のゴールに応じて、最適な達成計画を立案。対面や電話でのミーティングやオンラインサポートを通じて、実践的な知識のレクチャーからモチベーション管理までを請け負う。利用料金は月額85ドル(約9,000円)だ。

「お金」に関するものであれば対象領域は広い。たとえば結婚式など一定の費用がかかるイベントに向けた予算管理や貯蓄計画、奨学金やローンの返済計画、資産運用のレクチャー、退職後のマネープラン設計などを支援する。

特典として会員限定の無料イベント参加券のほか、ビールやワイン、スナックが無制限で提供される点もユニークだ。

Financial Gymの創業者であるShannon McLay(シャノン・マクレー)氏はもともとメリルリンチでファイナンシャルアドバイザーを務めていた。そんな彼女の元にはお金の悩みを打ち明ける人がよく訪れていたという。だが多くの金融機関では自社の顧客となりえる人にだけアドバイスをするのが通例で、相談したくても相談できる場所が周りにない人もいる。

そんな人たちが「お金」についてしっかりと学べ、本当に必要なサポートを受けられる場所としてオープンしたのがFinancial Gymだ。

最近ではアプリなどテクノロジーを駆使して、機械的にユーザーのマネープランをサポートするサービスもある。Financial Gymの場合、お金は属人的なもので、アルゴリズムだけでは最適化できないという考えのもと、あえてリアルなジムという形態をとっているようだ。

高まるファイナンシャル教育のニーズ、日本でも

実は同様の動きは日本でも始まっている。家計簿アプリや会計ツールなどを展開するマネーフォワードは、2018年1月にファイナンシャルプランナーの横山光昭氏と共同でmirai talk株式会社を設立。新宿に“未来のおかね”を学べるお店「mirai talk」の1号店をオープンした。

mirai talkは横山氏のメソッドと家計簿サービス「マネーフォワード」を組み合わせながら、各ユーザーの家計の悩みや不安を一緒に解決していくお金の窓口だ。

90分間で未来のお金と必要貯蓄額を診断する「ライフプラン診断」、計10回の面談を含む1年間のオーダーメイドプログラム「パーソナルトレーニング」、家計管理や保険、投資について少人数で学べる「お金のスクール」という三つのサービスを用意。これらを通じて家計改善や金融リテラシー向上のサポートをする。

お金のスクールでは現在「家計改善ベーシックコース」のみとなっているが、今後「家計改善アドバンスコース」や「資産運用ベーシックコース」も提供する予定のようだ。

今の時代、わざわざスクールやジムにいかなくても、インターネットで検索すれば金融リテラシーに関する断片的な情報は出てくるだろう。ただそれだけで行動に移せる人ばかりではない。

何かちょっとしたことで壁にぶち当たったとき、すぐに相談できるトレーナーの存在は大きい。モチベーションが落ちたときに厳しいフィードバックをくれる相手も必要だろう。フィットネスジムと同じように、家計管理や資産運用についても正しい知識を学べる機会、個々に最適な目標を設定し、それにコミットできる環境のニーズはありそうだ。

ライザップの場合も、基本的なメソッド自体は食事管理やトレーニングといったオーソドックスなものだが、最適な目標設定と伴走してくれるパーソナルトレーナーの存在が大きな価値となり一気に広がった背景がある。

数年後か数十年後かはわからないが、将来いたるところに「お金のライザップ」がオープンする、そんなことがあるのかもしれない。

img : Financial Gym,pixabay,マネーフォワード,mirai talk