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1950年代のアメリカは、第二次世界大戦の終局を迎え、豊かな経済発展に恵まれた。
保守的な中産階級の台頭や、学歴社会・管理社会の形成が進んでいた当時のアメリカ社会に疑問を呈し、「個」を貫く生き方を求めた若者がいた。
歴史上の用語で、“ビートジェネレーション”と総称される彼らは、窮屈な世界から抜け出すように放浪の旅に出る者が多かったという。荷物は、車一台と古びた鞄をひとつだけ。必要最低限のモノだけを持ち、彼らは生きるために旅をし続けた。
ときは進み、2018年。“ミレニアルズ”と呼ばれて久しい私たちの世代にも、1950年代のアメリカ社会に似たような動きが見られる。「vanlife(バンライフ)」だ。
心の豊かさを求めて旅に出る、vanlifeとは?
Instagramで「#vanlife」と検索してみると、およそ270万近い投稿がヒットする。写真の多くには、色も形も異なる、鮮やかにデザインされたvanが大自然に囲まれていた。車一台に必要なものだけを詰め込んで旅に出るvanlifeは、ミレニアルズを中心に大きな話題を呼んでいるようだ。
vanlifeが広く知れ渡るようになったのは、高級ファッションブランド『ラルフローレン』の元デザイナー フォスター・ハンティントン氏がきっかけだった。忙しい毎日にふと嫌気がさした彼は、家を捨てて必要最低限の荷物を1987年製のフォルクスワーゲンに詰め、旅を始めたという。
フォスター氏はただ奔放に旅をするだけでなく、キャンピングカーでの生活を記録するためにオリジナルのサイト『A Restless Transplant』を開設。Instagramでは「#vanlife」というタグを使い、道中で出会ったキャンピング仲間や、日々の暮らしについて発信し続けた。
すると、彼が投稿した美しい写真は多くの人気を獲得し始める。vanlifeに憧れ、実際に行動に移す者も出てきた。クラウドファンディングを活用し、自身とキャンピング仲間との生活を一冊に収めた写真集『HOME IS WHERE YOU PARK IT』を発売すると、本は即完売になるほどの人気ぶり。vanlifeを起点にしながら、稼いで暮らすことができると広く証明された瞬間だった。
現在、フォスター氏は3年間に及ぶvanlifeを終え、出身地であるポートランドにツリーハウスを建設し、自給自足の生活を営んでいるという。彼が引退してもなお、vanlifeのムーブメントは盛り上がっている。
ミレニアルズがvanlifeに憧れ、実践する理由
なぜミレニアルズは、vanlifeに憧れ、実践をするのだろうか?その答えのひとつに、ミレニアルズの特徴とvanlifeのスタイルが上手くマッチしていることが考えられる。共通している点を三つの例にまとめた。
1. 物質的な豊かさではなく、経験や体験に価値を見出す
SNSを通したコミュニケーションが当たり前のミレニアルズは、ものより経験や体験、他人の共感や評価を重視する意識が強い傾向にあるとの調査結果がでている。「モノをあまり持ちたくない」「体験・つながりを大切にしたい」との項目に対し、回答者の半数以上が同意を示しているのだ。
物質的ではなく精神的な豊かさに重きを置く私たちミレニアルズにとって、必要最低限の荷物を持ち、普段は見られない景色や人に出会えるvanlifeは憧れの対象になりやすいのではないだろうか。
2. ルールに縛られない、柔軟な行動がとれる
vanlifeには「こうあるべき」というルールが存在しない。好きな時間に、好きな場所へいき、好きなことができる。以前、AMPでも取り上げたように働くうえでも柔軟性を重視するミレニアルズが、日常生活においても既存のルールにとらわれたくないと願うのはごく自然なことだろう。
3. 自分らしさを追求し、表現できる
vanを自分流にアレンジ・デザインできるのも大きなポイントだ。現代の若者の意識や動向を読み解く研究「ADK若者プロジェクト」のリーダーを務める藤本耕平氏は、自身の著書『つくし世代』の中でミレニアルズの特徴について以下のように述べている。
「(ミレニアルズは)既成の価値観や枠組み、世間の常識にとらわれず、自分のフィーリングに合うものを自由にチョイスし、ミックスし、アレンジして「自分らしさ」の完成を目指していく」
外観はもちろん、内観のインテリアにもこだわることで自分好みの空間を演出し、「個」を表現できるvanlife。ミレニアルズにとっては心地よいのではないだろうか。
このようにミレニアルズのニーズを満たすためのソリューションが、vanlifeには揃っている。加えて、実践する上での経済面も、ミレニアルズの育ってきた環境を考えるとハードルは高くない。
幼い頃からインターネット機器に触れていた私たちは、オンラインでビジネスに取り組むマインドが形成されている。その上、場所にとらわれずに働くノマドワーカーの概念も身近にあり、旅をしながらでも働くという選択肢に踏み切りやすいのではないか。事実、フォスター氏のようにインターネットを活用し、キャンプ生活を送りながら稼ぐvanliferは次々と登場している。
たとえば、フォスター氏が旅先で出会ったエミリー・キング氏とコーリー・スミス氏は、彼に影響を受けて4年間のvanlifeに踏み切った。今ではvanlifeを始めたいと考える人たちをサポートする、ヴァンライフ・コンサルタントとして活動している。ほかのvanliferの中には、Instagramで根強い人気を誇るインフルエンサーとして活躍し、企業から広告収入を得て生活を送る者もいるそうだ。
vanlifeをサポートするサービスも
vanlifeのムーブメントが盛り上がるにつれて、それを後押しするサービスも徐々に登場してきている。
サンフランシスコに本社を置く『Outdoorsy(アウトドアシー)』は、そのひとつ。同社は、米国内で個人が所有するvanをほかのユーザーに貸し出すレンタルサービスを仲介している。Airbnbのvanバージョンと言えば、イメージがわきやすい。
ユーザーは、サイト上で乗り物をピックアップする場所とレンタルする期間を設定するだけで、個人が所有する貸し出し可能なキャンピングカーを検索できる。値段はもちろん、車に備え付けられている機能や内観の写真など有益な情報が豊富に掲載。ユーザーはしっかりとレンタルする乗り物を吟味できる。
Outdoorsyの共同創業者であるジェフ・ケビン氏によれば、毎年3,500万人以上がvanを借りようと試みるのに対し、既存のレンタルサービスは、10万台も提供できていなかった。加えて、北米地域には年間1,700万台以上のvanが350日間使われることなく車庫に放置されているという。これらに目をつけ、ケビン氏はOutdoorsyの立ち上げに踏み切った。
2018年2月時点で、同サービスの利用者は26万人を突破。毎月2万人以上のペースでユーザーが増えており、着実に信頼と実績を積み上げている。
かつて車一台と鞄一つでアメリカを放浪した“ビートジェネレーション”さながらに、ミレニアルズも社会のルールに縛られない、自分らしい生き方を求めている。ただ、両者には明確な違いがある。
前者は旅をすることで自分が生きる世界と外界に線を引き、ある種、孤独に生きることを望んでいた。しかし、ミレニアルズを中心としたvanliferの多くは、旅をしながらもインターネットなどを駆使して積極的に外の世界とつながろうとしている。
Outdoorsyは貸し手と借り手の間で新たな交流が生まれ、人とのつながりを深めるものだ。これらのキャンプサービスを使うことでvanlifeの実現性が高まるのはもちろん、vanliferの欲求とマッチしアクティブな化学反応を起こす予感がする。