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2017年、株式時価総額が5,000億ドル(約53兆円)を超え、Facebookと並んだことが話題になったテンセント。同社傘下でオンライン音楽配信事業を提供するテンセント・ミュージックは2018年中のIPOを目指し、その企業価値は100億ドルにのぼるとされている。
中国のオンライン音楽市場の歴史を辿りながら、月間アクティブ・ユーザーが7億人を超えるテンセント・ミュージックの規模感とインパクトを読み解いていく。
中国モバイル音楽と「QQ Music」の発展
中国のオンライン音楽市場が形成されていく中で、テンセント・ミュージックはどのように存在感を示していったのか。
中国の調査会社であるiiMedia Researchによれば、中国のオンライン音楽配信の歴史は五つのフェーズに分けて整理できる。ここ数年はスマートフォンの普及により、業界が急速に動いているようだ。
模索期(1997-2007):音楽配信サービスが生まれた、モバイル音楽市場の黎明期
始動期(2008-2010):各音楽配信サイトがモバイル版をローンチし、市場が動き始める
成長期(2011-2013):モバイル・インターネットが普及し、ユーザーと市場が急速に拡大
調整期(2014-2016):版権強化の動きが厳しくなり、また合併や買収が相次ぐ
発展期(2017-): 業界構図は基本的に固まり、プラットフォームが差別化しながらビジネスモデルを模索
テンセント研究院によると、1998年に中国CD市場はピークを迎えるものの、2003年にiTunesが出現したあと、音楽ダウンロードサービスが急激に普及。音楽CD市場の規模は2004年から下降する。
その翌年である2005年にテンセント・ミュージックの前進となる「QQ Music」がローンチされた。上記の整理図を参考にするならば、モバイル音楽市場が動き始めたタイミングだ。QQ Musicはコンテンツの正規化に早くから取り組み、アプリ経由で音楽ライブを中継するなど、音楽配信だけに留まらない総合音楽プラットフォームとしての地位を築いてきた。
QQ Musicは、2013年から無料を維持しながらも、高品質の音楽をダウンロードする際には課金が必要なモデルを採用し、サービスの有料化に取り組み始めた。
黎明期から音楽配信サービスを提供してきた「KuGou Music」と「Kuwo Music」を擁する「China Music Corporation」とQQ Musicが2016年に合併し、「Tencent Music Entertainment Group」が誕生することになる。
現在はQQ Music、KuGou Music、Kuwo Musicの3アプリ合計で月間アクティブユーザーが7億人を超えている。中国のインターネット研究機関DCCIが発表した2016-2017年のオンライン音楽業界の調査によると、「最もよく使う音楽配信アプリは?」との質問に、QQ Music、KuGou Music、Kuwo Musicの3アプリのいずれかを回答したユーザー数は76.1%にのぼり、テンセント・ミュージックが市場を独占しているといえるだろう。
月間アクティブユーザーが7億人のテンセント・ミュージック、そのビジネスモデルは?
音楽配信アプリと言われると、iTunesのような楽曲購入型か、SpotifyやApple Musicのような月額制のストリーミングサービスを思い浮かべる方が多いだろう。
QQ音楽のマネタイズ手法は、それらのサービスと少し異なる。
QQ音楽には三つの種類の楽曲が登録されている。一つ目は聴くことはできるが、高品質な音源では聴けないもの。これらは「緑钻」という課金サービスに申し込めば、高品質な音源で楽しむことができる。
二つ目は「課金音楽パッケージ」というサービスに課金してはじめて聞くことができる楽曲群。三つ目はデジタルアルバムに含まれており、そのアルバムごと購入する必要があるものだ。
高音質の音源を聴きたいときや、そもそも課金しなければ聴けない楽曲を聴くためにユーザーはお金を払うという仕組みだ。
テンセント研究院の2014年のレポートによると、SpotifyやApple Musicなどのストリーミングメディアへの課金額が可処分所得に占める割合はアメリカだと0.34%だが、中国の場合0.004%に過ぎないと報告されている。
海賊版で音楽を無料で視聴できてしまう中国では、Spotifyなどが採用するフリーミアムモデルは難しいと中国音楽事業に詳しい専門家は分析する。だが、興味深い動きもある。
テンセント・ミュージックとSpotifyが最大10%の株式を交換する取引について交渉中と2017年末にThe Wall Street Journalが報じた。記事中のアナリストの分析にあるように、Spotifyは1億4000万人のユーザーのうち6000万人超を有料会員へ移行させることに成功しており、そのノウハウをテンセント・ミュージックに持ち込み、課金率を上げるのが狙いだろう。
中国では無料で簡単に音楽が聴けてしまう状況があるため、課金を促すのは簡単ではない。だが、仮に中国でアメリカと同じくらい課金率が実現されれば、そこには大きなビジネスチャンスが眠っている。Spotifyのノウハウを持ち込めるかどうかは、月間アクティブ・ユーザー7億人のテンセント・ミュージックのさらなるスケールを左右するだろう。
競合が出現する中でコンテンツ強化を急ぐQQ Music
月間アクティブユーザーが7億人を超えていたとしても、安泰ではない。中国国内でも競合サービスが立ち上がり、テンセントを追随する形で成長中だ。
たとえば、ゲームや越境ECなどを提供するネットイース傘下「music.163」が急激にユーザー数を伸ばしている。2016-2017年のオンライン音楽業界の調査の分析によると、評価機能やコミュニティがユーザーに受け入れられているようだ。
一方、テンセント・ミュージック傘下のQQ Musicは、オンライン音楽雑誌の提供や、テキスト媒体の強化をアプリ内で行い、音楽を聴く「前」からユーザーを自社のプラットフォームで囲い込もうとし、対抗している。
テンセント・ミュージックは今後も独占的なポジションを維持し続けることができるのか、また、テンセント・ミュージックが課金ユーザー数や一人あたりの課金額をどこまで伸ばせるかは、中国の音楽文化の発展とデジタルサービスの成長を考える上で注目したいポイントだろう。
img : QQ Music , Kugou Music , Kuwo Music Fabian Grohs