休日の街を歩いていると、おしゃれな字体で「salad」と書かれた看板が目に入った。興味本位でガラス越しに中の様子を伺うと、カウンター越しに色とりどりの野菜を細かく刻む店員の姿が見える。席のほとんどは、若い女性で埋まっているようだ。
ほんの少し前まで、サラダの専門店が誕生するとは夢にも思っていなかった。
サラダは、あくまでも食卓の脇役。健康や美容のためを思って、仕方なく食べるというひとも多かったのではないだろうか。それが今ではメインに昇格し、さらなる進化を遂げようとしている。
米国のサラダ市場を盛り上げるスタートアップの存在
The Atlanticによると、アメリカにおけるサラダ専門店の規模は2014年時点で300億円を突破。なかには、10%以上の割合で収益を伸ばしているお店もあるという。
このようにサラダ市場を盛り上げているのは、従来の飲食店だけにとどまらない。サラダにもスタートアップが登場してきている。
サラダスタートアップは、従来の飲食チェーンの延長ではなく、消費者のライフスタイルにより密着し、食材の品質や産地はもちろん、より手軽に野菜を採れる仕組みを重要視する。
店舗から自動サラダマシンまで。幅広いサラダスタートアップ
アメリカのアリゾナ州で展開されている『Salad & Go(サラダ・アンド・ゴー)』は、ドライブスルーでサラダを注文することができる新業態のサラダ専門店だ。同店は、それまでジャンクフードのイメージが強かったドライブスルーの見方を大きく変えた。
特徴は、価格帯が他のサラダ専門店と比べて低いところ。メニュー1つで15$(約1,600円)を超える価格帯の店舗が多いなか、Salad & Goでは10ドル(約1,000円)を切る値段で商品を提供している。サラダ市場における、早い・安い・便利の三拍子の加速を後押しするサービスの代表格と言っても過言ではない。
LAとその周辺地域に7店舗を構える『Everytable(エブリーテーブル)』は、お店が位置する地域によってメニューの値段が変わるサラダ専門店。同店は、LA近郊でヘルシーな料理を手軽に食べられるお店が少ない地域を、独自に“food desert”と名付けている。このエリア内で展開している店舗では、エリア外の店舗よりも安い値段で商品を提供しているという。
ヘルシーな食事を楽に取れる選択肢が少なかった地域に、健康的な食生活を身につけてほしいという思いが現れた事業だ。
カリフォルニア州のサンフランシスコには、無人のサラダ専門店『Eatsa(イーツァ)』が存在する。店内には注文用のiPadが複数台設置され、画面をタップするだけで自分好みのサラダをオーダーできる。
頼んだ商品は、タッチパネル付きの液晶が埋め込まれたボックスから受け取るシステムになっている。サラダ一つの値段は10ドル(約1,000円)以下と安価。専用のアプリから事前に注文すればスムーズに商品を受けとれ、会計はカード、レシートはメールなど、スマートな店舗体験を提供する。
ひと味変わったものでは、Chowbotics社が昨年開発した、自動サラダ販売ロボット『Sally(サリー)』もある。使い方はとてもシンプル。ボウルをセットし、タッチ式のパネル画面で自分の好きな材料を選んでいくだけだ。
材料の組み合わせ次第で1,000種類ものサラダを楽しむことができる。カロリー計算も自動的に行ってくれるため、ダイエット中の食事管理などにも役立つだろう。アメリカではすでにいくつかの公共施設でSallyの導入を始めている。今後、ホテルや空港、レストランなどでの設置を進めていくそうだ。
数々のサラダスタートアップの登場により、アメリカのサラダトレンドはさらに加速することが期待される。アメリカで、これほどまでにサラダ市場が盛り上がりを見せるのには何か理由があるのだろうか。
米国のサラダ市場を成長させた社会の実情
実際のところ、アメリカにおけるサラダ市場の拡大は今に始まったことではない。
始まりは、1930年代。ハリウッドに佇むレストランのオーナーを務めていた、ロバート・H・コブ氏により考案されたコブサラダの登場だと考えられる。
生野菜のほかに、鶏肉やベーコンなどを盛り付けたボリューム満点のコブサラダは、カリフォルニアを始めアメリカ全土にまで人気の火が着いた。それまで食卓の脇役でしかなかったサラダが、メインディッシュにもなり得るものへと変化を始めた。
以降、アメリカにおけるサラダ市場は右肩上がり。1980年代に注目が集まり始めたパッケージサラダの売り上げは、2000年には推計3,000億円にも上ったという。
同年の日本におけるパッケージサラダ市場規模は、推計100億円。数字で見ても、アメリカのサラダ市場は日本よりも常に先を進んでいたことが分かる。
女性の社会進出をも支える、サラダ
アメリカのサラダ市場成長の理由には、健康志向の強まりのほかに、女性の社会進出が起因していると考えられる。事実、1960年代からアメリカにおける女性の労働力率は上昇。2000年代に差し掛かるころには、生産年齢人口に占める女性の就業率は65%を超えた。
女性が働きにでることで、簡易的な調理に対する需要が拡大。短時間でも栄養のあるものを食卓に並べたいと願う主婦を中心や、オフィスのランチタイムに、手軽でヘルシーなものを食べたいという女性の増加に合わせ、サラダ志向が強まっていった。
先に説明した、効率化や特定のマーケットに特化したサラダスタートアップの登場は、提供側が消費者のライフスタイルの変化に合わせた結果だろう。
実際、これまでも提供者は、ユーザーの生活ニーズに応える形でサラダ市場にイノベーションを巻き起こしてきた。
例えば、2014年にNYで生まれた「メイソンジャーサラダ」は、持ち運びがしやすいうえに見た目のファッション性も高いため、多くのアメリカ国民の関心を惹きつけた。また、自分で好きな材料を選べる「カスタムサラダ」や、インスタ映えを意識した「エディブルフラワーサラダ」など、時代のトレンドに合ったサラダが次々と登場し続けている。
既存のスタイルに捉われず、新しいサラダの形を追い求める提供側の姿勢が、サラダ市場の成長を助長していると言っても過言ではない。元々の市場が大きかった分、今後の成長幅にも期待ができる。
食卓の脇役から主役へ。アメリカを中心に、サラダ市場の躍進はまだまだ続きそうだ。
img: sweetgreen instagram, Salad and Go instagram, Everytable instagram, eatsa official site, Sally the Salad instagram