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今、日本の観光産業は過去最高の盛り上がりを見せている。日本政府観光局(JNTO)によると、2017年の訪日外国人観光客数は今までで最高の2,869万人を記録している。
また、2020年には東京オリンピックが控えており、今後も訪日外国人観光客数は増加するだろう。中でも、訪日中国人は増加の一途をたどっており、「爆買い」してくれることもあって、観光産業の注目を集めている。
そんな訪日中国人の日本国内での消費を促進するための新しい取り組みが登場した。
中国のモバイル決済「アリペイ(支付宝)」を日本で提供する株式会社ユニヴァ・ペイキャスト(UPC)と、データ分析技術を使ったサービスを展開する株式会社神戸デジタル・ラボ(KDL)とは、アリペイの決済情報とSNSやWi-Fiの利用データを活用した、訪日中国人の観光動向に関するデータ分析の取り組みを開始する。
中国向けの越境ECに欠かせない決済手段アリペイ
中国アリババグループのアリペイは、中国モバイルペイメント業界で約54%のシェア(2017年第一四半期・Ant Financial発表)を占める世界最大の第三者決済だ。タオバオをはじめとしたネットショップサイトで利用される。
利用者はアリペイに会員登録し、商用サイトの支払画面からログインするか、モバイルアプリでQRコードを読み込んで支払い手続きをする。
2018年1月時点で5億2,000万人以上の本人認証済みアクティブユーザーを抱え、世界中に450以上の金融機関パートナーがいるという。
日本では、2015年以来インバウンド施策として多くの店舗に導入されており、現在の導入店舗数は4万店に達する。
現時点で中国の消費者に最も親しまれていると言えるモバイルペイメントアプリであり、中国からのインバウンド客の獲得はもちろん、中国向けの越境ECに欠かせない決済手段だ。
アリペイの決済情報とWi-Fiの利用データなどを組み合わせて観光動態を把握
UPCでは、スマホ決済が急速に普及している中国人の消費を拡大するため、観光店舗などにアリペイの決済システムを提供、アリペイの取扱によって培ってきたノウハウを活かして訪日中国人の「消費」に関する情報分析やセミナーなどを行っている。
一方KDLでは、これまでスマホアプリやWi-Fi、SNSのデータなどから取得できる位置情報を元に、観光客の移動情報を分析し、自治体などに向けて観光施策の検討や改善を支援してきた。
今回の取り組みでは、KDLが取り扱う位置情報を元にした「移動」のデータと、UPCが持つ、エリア別売上推移などの個別の加盟店売上を特定できない範囲での「消費」のデータを掛け合わせた分析を行う。
具体的には、商品の購入場所や日時、購入商品などの情報が含まれるアリペイの決済情報と、訪日中国人のWi-Fiの利用データ、投稿したSNSの位置情報を組み合わせて分析し、訪日中国人の観光動態を把握する。
消費行動と移動情報を掛け合わせることで、集客から消費促進まで一気通貫したプロモーション施策に活用し、アリペイ未導入による機会損失を防ぐとともに、アリペイアプリ内のO2O機能「Discover(口碑/Koubei)」の活用による来店促進を狙いとしている。
たとえば中国人が移動する動線上で中国人に人気の商材の案内板を設置したり、アリペイ未導入の店舗におけるアリペイ導入時のシミュレーションを行うなど、自治体や店舗の中国人向けの観光マーケティングを支援する。
日本でもアリペイの導入進む
前述したようにアリペイは中国向けの越境ECに欠かせない決済手段である。このため、日本でもアリペイ決済の導入がすすんでいる。
株式会社リクルートライフスタイルが運営している、ユーザーが提示する決済サービスのQRコードを読み込むだけで決済が完了する、モバイルペイメントサービス「モバイル決済 for Airレジ」もその一つだ。
このサービスは、GINZA SIXリテールマネジメント株式会社が運営する、銀座エリア最大級の商業施設「GINZA SIX」全館に、順次導入される。
まずは、2018年2月8日より「GINZA SIX」B1階のビューティフロア約30店舗に導入した。これにより、アリペイ決済を利用可能とした。
また、「庄や」、「やるき茶屋、「日本海庄や」、「うたうんだ村」、「大庄水産」などのブランド名で大衆割烹チェーンストアを全国に展開している株式会社大庄は、2018年2月からアリペイを同社の全国20店舗で導入した。
今回の20店舗は中国人客が特に多く来店している店舗の中から選んだという。アリペイの導入により、和食に興味を持つ訪日中国人客の拡大を狙う。
「消費」と「行動」を把握し中国人向けの観光マーケティングを支援
観光庁によると(観光庁「訪日外国人消費動向調査」)、2017年累計の訪日客による旅行消費総額は2016年比17.8%増の4兆4161億円となった。そのうち中国人は全体の約4割を担っている。
このため、日本では各地で訪日中国人向けの観光対策が進められている。しかし観光地では実際の中国人観光客の行動が把握できておらず、具体策の検討に頭を悩ませているのが現状だ。
今回の取り組みはそれ受けてのもの。彼らの「消費」と「行動」を把握し、どこまで中国人向けの観光マーケティングを支援できるか、今後注目したい。