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仮想通貨ビットコインの基幹技術であるブロックチェーン。そのビジネスへの応用可能性に注目が集まる一方で、社会的インパクト(社会的貢献)を生み出す潜在力にも大きな期待が寄せられている。
北欧の福祉国家フィンランドでは、政府が地元スタートアップとともにブロックチェーンを活用した難民向け金融・社会支援を開始したほか、国連がブロックチェーンを活用したプロジェクトを開始するなどしている。
今回はこのような「ブロックチェーン・フォー・グッド」なプロジェクトに焦点を当てながら、ブロックチェーンが生み出す社会的インパクトの可能性を探ってみたい。
フィンランド、ブロックチェーンで難民受け入れ時の問題解決へ
世界中ではいまだ紛争などで難民生活を強いられている人びとが何千万人も存在する。多くが中東やアフリカからの難民で、隣国に避難したり、遠く欧州や米国、アジアの難民受け入れ国に避難したりしている。
難民受け入れの際に多くの国で課題となっているのが、難民の身分証明(ID)だ。欧州では欧州議会の主要議題の1つとして議論されている。その難民の身分証明問題に、フィンランド政府と地元スタートアップが1つ解を示し注目を集めている。
これまでは難民がフィンランドに入国する際、現金が支給されていたが、新プログラムのもとフィンランド移民局は、地元スタートアップMONIが開発したプリペイド・マスターカードを支給する。このプリペイドカードは、ブロックチェーン技術によりデータが記録されることから、強力な身分証明カードとして機能するという。
MONIカードの最大の強みは「銀行口座」として機能すること。これにより雇用に関わる障壁をなくし、難民が職を得て、社会的に安定した生活を手に入れるプロセスを加速できる。この銀行口座を通して、給与の受け取りが可能となるだけでなく、買い物や支払いもできるようになるからだ。また、ブロックチェーンシステムを介して、フィンランド移民局が支出をトラックできることも難民受け入れに関わる課題解決につながると期待されている。
MONIのプリペイドマスターカードはMONIアプリと連動し、アプリ上で送金や支払い確認ができ、またMONI同士の場合であれば瞬時に送金できる便利さが注目され、銀行を介さない新たな金融サービスとして注目を浴びている。
MONI(MONIウェブサイトより)
国連で発足「ブロックチェーン・コミッション」とは?
ブロックチェーンの潜在力は国連の間でも注目され始めている。
国連は9月末にブロックチェーンを通じて「持続可能な開発目標」に関わる取り組みを促進するためのグループ「ブロックチェーン・コミッション」を立ち上げた。「持続可能な開発目標」とは2015年に国連総会で採択されたもので、持続可能な開発を実現するための17のグローバル目標と169のターゲットを掲げている。
17のグローバル目標には、貧困をなくす、飢餓をゼロにする、保健と福祉を充実させるなどが含まれる。169のターゲットは、これらのグローバル目標を達成するための具体的な数値が設定されている。たとえば2030年までに1日1.25ドル未満の生活と定義される極度の貧困を終わらせるなどだ。
ブロックチェーン・コミッションは、各国政府、NGO、民間企業のパートナーシップを促進させるとともに、世界中のブロックチェーンコミュニティをつなげ、この技術を活用して、開発途上国における社会的インパクトを生み出すことを目指す。この一環でブロックチェーン・コミッションは、インキュベーションプラットフォーム「ブロックチェーン・フォー・インパクト」を立ち上げ、ブロックチェーン技術の具体的な活用方法を模索し始めている。
社会的インパクトを生み出す可能性があるとして、ブロックチェーン・コミッションが注目している取り組みはすでにいくつか存在する。
新型ポータブルシェルターを開発するShiftPods社は、仮想通貨「Shelter Coin」を発行するための組織Shelter Coin Foundationを設立。災害時などの緊急避難シェルター提供を、仮想通貨の購入により迅速に実施できる仕組みを構築している。
災害時などでよく実施される募金では、そのお金が被災者のために使われることが少ないという課題を解決するために、ブロックチェーン技術を活用し、仮想通貨を介すことで、資金の流れを滞りなく効果的にしようという試みだ。
ShiftPodsのポータブルシェルター(ShiftPodsウェブサイトより)
別の取り組みとして、Mother Earth Trustが発行する仮想通貨Earth Dollarが挙げられる。Earth Dollarはビットコインと同様ブロックチェーン技術を活用した仮想通貨だが、自然資産に裏づけられている点でビットコインと異なる。仮想通貨を裏づけるのは河川や森林などの自然資産で、その自然資産は所有者や先住民たちが保証する。通貨の価値は自然資産が豊かになればなるほど上がる仕組みになっている。
加速する国連のブロックチェーン活用の取り組み
このほかにも国連ではブロックチェーンを活用したさまざまな取り組みを行っている。
国連の「ID2020」というイニシアティブは、マイクロソフトとアクセンチュアの支援のもと、世界に11億人存在するといわれている公的身分証明を持たない人びとに、ブロックチェーンを活用してIDを付与しようというもの。ID付与により、国境を超える際に難民であることを証明したり、難民受け入れ国にてそれまでの学歴を証明したりできるようになる。
国連世界食糧計画(WFP)はブロックチェーン技術を活用して飢餓撲滅運動を加速させるプロジェクト「ビルディング・ブロックス」を開始。2017年5月には、ヨルダンで試験運用を実施した。この試験運用では、ヨルダン国内に避難している約1万人のシリア難民が、イーサリアムベースのプラットフォームを介して、目の色彩をスキャンし食糧を受け取る仕組みがテストされた。
WFPはブロックチェーン活用により、食糧提供スピードを上げるとともに、不正行為やデータの管理ミスを防ぐことができると考えている。この試験運用結果を踏まえて、今後は10万人以上に対して実施できる仕組みをテストし、2030年までに世界中の食糧難問題を解決することを目指す。
このようにブロックチェーンを活用し社会的インパクトを目指す取り組みは、世界規模で広がりを見せている。このほかにも地方自治体レベルや草の根レベルでも数多くの取り組みが始まっている。まだ世に登場して間もないテクノロジーだが、ブロックチェーンが社会全体にインパクトを与え、人類にとって必要不可欠なインフラになっていくのは間違いないだろう。