従来のテレビ視聴に代わって消費者のスタンダードな娯楽になりつつある「動画配信サービス」。中でも最大手のNetflixの快進撃はすさまじく、先日発表された2017年第4四半期決算では過去最高の契約者数の伸びを示した。

NetflixやAmazonなどの大手はオリジナル・コンテンツへの投資を加速しているが、一方でインディーズ作品や日本のアニメ、ボリウッド映画など「ニッチジャンル」を専門とする動画配信サービスも台頭してきた。

今回はそんな動画配信サービス市場に生まれる、新たな流れを紹介する。

メジャーがカバーしきれない作品を網羅

NetflixやAmazonプライム・ビデオなどの大手動画配信サービスではメジャーなハリウッド映画やドラマシリーズが楽しめる。しかし、スタンレー・キューブリックや小津安二郎の作品が見たい人、日本のアニメファン、B級ホラー映画マニアなどは大手のコンテンツセレクションにあまり魅力を感じないだろう。

そんな視聴者を対象に「ニッチジャンル」を専門とする動画配信サービスが台頭してきた。ここ数年で生まれた新しい動画配信サービスを紹介しよう。

Shudderは米ケーブルテレビ会社のAMCネットワークスが運営する動画配信サービスで、スリラー、サスペンス、ホラーといった恐怖系の映画、テレビシリーズ、オリジナル・コンテンツを提供している。料金は1週間のフリートライアルの後、1カ月4.99ドルまたは年間47.88ドル。

Spuulは2012年、シンガポールを拠点に設立されたOTTサービス事業者。ヒンディ語、パンジャーブ語、タミル語などで配信されるインドの映画やテレビシリーズを専門とし、コンピュータ、スマートフォン、タブレットなどで1万時間分の作品の視聴が可能。


インド映画を専門とする「Spuul」より

Yaddoは2016年11月、BBCの「Storyville」元編集長のFraser氏が退職後に立ち上げたドキュメンタリー専門の動画配信サービス。NetflixとAmazonもドキュメンタリー制作に乗り出しているが、Yaddoは彼らが「アメリカ中心」であると指摘しており、日本、韓国、中国などのドキュメンタリーを増やして差別化したい考え。

Mubiは世界中のインディーズ映画を専門とする動画配信サービス。スタンレー・キューブリック、黒沢明、マーティン・スコセッシの作品など、キュレーターが提供するおススメ映画のセレクションが好評。料金は1週間のフリートライアルの後、1カ月8.99ドル。

「最悪の映画の最大コレクション」をキャッチフレーズに登場したBrown Sugarは、アフリカ系アメリカ人のTVネットワークであるBounceTVが2016年秋に立ち上げたSVOD(サブスクリプション型ビデオ・オン・デマンド)サービス。

「Foxy Brown」「Shaft」「Pride」 「Jackie Brown」など、アフリカ系アメリカ人のスターが出演、または監督する映画を配信する。料金は1週間のフリートライアルの後、1カ月3.99ドル。Amazonと提携しており、Amazonプライム会員による登録が可能となっている。


アフリカ系アメリカ人が出演・監督する映画を配信する「Brouwn Sugar」は、Amazonと提携している。

Crunchyrollは「NARUTO-ナルト‐疾風伝」「セーラームーン」など日本のアニメ作品を中心とするコンテンツを配信。アップルTV、クロームキャスト、ROKU、ニンテンドー、Xbox、プレイステーションなどのゲーム機、アンドロイド、iOSで1万5000時間分のコンテンツのストリーミングが可能。1カ月7ユーロ。フィギュアの無料配送などを含むプレミアム会員は月12ユーロ。

嫌な事があった日、ホームシック、ラブシックな日には、ハートウォーミングな作品を専門とするFeeln。ホールマークカードが運営する動画配信サービスで、1カ月の料金は4ユーロ。

これらニッチジャンルのSVOD(サブスクリプション型ビデオ・オン・デマンド)は現在、単独で運営しているところが多いが、今後は大手との提携が進むとの見方も出ている。豊富な独自コンテンツを持つ日本企業にとってもビジネスチャンスとなる可能性がある。

大手はオリジナル・コンテンツで勝負、Netflixは今年80憶ドルを投資

ニッチジャンルを扱う動画配信サービスが生まれる一方で、NetflixやAmazonなどの大手は独自コンテンツへの投資を加速している。

Netflixは2017年第4四半期決算発表で、新規契約者数が過去最高となる830万人に達したことを明らかにした。この主因として、「Stranger Things」や「The Crown」といったオリジナル・コンテンツが視聴者を惹きつけたことを挙げている。

同社は2016年、2017年にそれぞれ50億ドル、60億ドルをオリジナル・コンテンツに投資してきたが、2018年はこれをさらに積み増し、75億~80億ドルを投じる計画。急成長する動画配信サービス市場で、シェアを拡大するために「オリジナル・コンテンツを強化する」という戦略を明確に打ち出している。


Netflixの大人気オリジナルシリーズ「Stranger Things」

ライバルのAmazonプライム・ビデオも当初はビデオの視聴毎に料金を課金するTVOD(都度課金型ビデオ・オン・デマンド)のサービスを提供していたが、2013年以降はSVODに注力しており、豊富な資金を背景にオリジナルコンテンツの制作に乗り出した。

この戦略が功を奏し、2015年には同社のオリジナルドラマ「Transparent」がゴールデン・グローブ賞を獲得している。同社は2017年に45億をオリジナル・コンテンツに投資したとみられているが、Netflixが2018年にコンテンツ投資を拡大したことを受け、Amazonも一段の投資拡大に乗り出す可能性が高い。

このほか、ウォルト・ディズニーが出資するHulu(フールー)は、ディズニーが21世紀FOXの映画・テレビ部門を買収することから、そのコンテンツ注入に期待感が高まっている。また、アップルも近年は有力クリエイターを次々と雇用しており、独自コンテンツの制作を強化するとみられている。

コンテンツ競争は消費者にメリット

動画配信サービスによるコンテンツ競争が激しくなった背景にあるのは、若年層を中心とした同市場の急拡大だ。

居間のケーブルテレビや衛星放送で毎週決められた放送時間にテレビドラマを視聴するスタイルは若い世代の間では過去のものとなりつつあり、映画やテレビドラマは各自がコンピューターやスマートフォン、タブレットなどで好きな時間に好きな場所で視聴するものに変化している。

米シンクタンクのビュー研究所(Pew Research Center)が2017年8月に実施した調査によると、テレビ番組をNetflixやAmazonプライム・ビデオなどによる動画配信サービスで視聴する人は、米国で約28%。

18〜29歳のミレニアル世代に限ると、この割合が61%と過半数を占めた。一方、ミレニアル世代でケーブルテレビや衛星テレビを持っている人の割合は37%と、30~49歳の世代で52%に上っているのと比べて大きく後退している。


コンテンツ競争の激化は消費者の選択肢を広げる。(Amazonプライム・ビデオのオリジナル作品)

今後もデジタル・メディアを支えるデバイスの増加や高速インターネットの普及、モバイル・プラットフォームを通じたオンデマンド・サービス需要の拡大などを背景に、動画配信サービス市場は拡大が続くとみられている。

インターネット関連の統計会社であるStatistaは、VOD(ビデオ・オン・デマンド)市場が2018年~2022年の間に年率6.2%成長すると予想。英コンサルティング会社のFuture Market Insightsも2017~2027年のVOD市場が年率8.2%の幅で拡大すると分析している。

この成長市場でのシェア獲得に向け、サービス事業者間のコンテンツ競争は一段と激化すると予想されるが、コンテンツの質向上や選択肢の増加は消費者にとっては喜ばしい展開。消費者のエンターテイメント・ライフはさらに充実したものになるだろう。