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スマートフォンを持ち歩く現代人は、情報の受信だけでなく、発信も日々おこなっている。日常のちょっとした出来事から、ニュースになるようなスクープまで、様々な人が発信可能だ。実際、マスメディアで取り上げられることもある。まさに、1億総ジャーナリスト状態といえる。
今、個人が発信する情報の中では「写真」が大きな比重を占めている。2017年の流行語大賞に「インスタ映え」が選ばれたこともその事実を物語っているだろう。写真に対する評価も、「プロが撮った美しい写真」という観点とともに、「インスタ映えする写真」という観点が使われることも多くなったようだ。
様々なメディアに写真素材を提供する、ストックフォトサービスのラインナップにも「インスタ映え」写真が加わることになった。
「PIXTA」で スマホ写真の投稿販売が可能に
2018年1月29日、ピクスタ株式会社は、同社が運営する「PIXTA(ピクスタ)」で、スマートフォンで撮影した写真の投稿・販売が可能になったと発表した。「PIXTA(ピクスタ)」は、写真・イラスト・動画・音楽などのデジタル素材のマーケットプレイス。プロ・アマ問わず登録でき、インターネット上でアップロードした素材は審査を経て販売される。
頻繁に使用されるシチュエーションであらかじめ撮影・制作された写真やイラスト、動画、音楽などのデジタルデータ素材は「ストックフォト」と呼ばれる。広告や出版物、テレビ番組、Webサイト、SNSなど、さまざまな用途に使用されるが、撮りおろし・描きおろしに比べコストが低く、必要なときにすぐ使えるというのが特徴だ。
「PIXTA」ではこれまで、デジタルカメラ以外で撮影した写真は受け付けない、という制限を設けていた。しかし、デバイスの進化による画質の向上、SNS映えする自然な写真の需要、アジア展開におけるローカルコンテンツの強化といった理由から、スマートフォンやタブレット等のデジタルカメラ以外で撮影した写真もPIXTAで販売できるようにする。
スマートフォンで撮影した写真の画質は、PIXTAの審査基準をクリアできる状態まで高くなっている。また、SNSを意識したマーケティング活動が活発になり、画像を購入する企業の需要が増えているのも、背景の1つだ。ビジュアルコミュニケーションの活性化で、ユーザーの撮影スキルも上がっているという。他にも、スマートフォンの普及率が高いアジア各国からのローカルコンテンツを取り込みたいという狙いもある。
スマホ写真の、購入・販売ができるサービスには「Snapmart(スナップマート)」が、以前から存在していた。
スマホ写真のフリマ「Snapmart」との住み分け
「Snapmart(スナップマート)」は、2016年6月からスタートした、スマートフォンで撮影した写真を売買できるアプリだ。アプリで写真を選んで、タグやコメント、位置情報を指定すれば、すぐに1枚100円での販売を始めることが可能。出品から報酬の受取まで、全ての操作がアプリ内で完結する、という手軽さだ。出品した写真は、広告素材を探している企業などが購入する。
「Instagram」などのSNSに投稿されるような、「日常的で自然な写真」を販売することで、従来のストックフォトサイトとの差別化を図っている。
実は、2016年8月に、「PIXTA(ピクスタ)」を運営するピクスタは、「Snapmart」事業をオプトインキュベートから買収しているのだ。しかも今回の発表により、「PIXTA」と「Snapmart」で、スマホ写真の投稿販売が同時に継続されることになる。
「PIXTA」と「Snapmart」は、買収当初から「それぞれのサービスの世界観を守る」ために、連携はせず必要に応じて運営ノウハウを共有する、というスタイルでやってきた。
また、自分の写真を販売するストックフォトサービスには、ターゲットユーザーごとの住み分けがある。ターゲットには、プロカメラマン・アマチュアカメラマン・スマホユーザーがある。これまで、アマチュアカメラマンの部分を「PIXTA」が、スマホユーザーの部分を「Snapmart」が担ってきた。
今回、「PIXTA」がアマチュアカメラマンだけでなく、スマホユーザーを取り入れることになったのは何故だろうか。企業のマーケティングがSNSを意識したものになり、その需要をカバーする必要が出てきた、そこでアマチュアカメラマン並みのクォリティを持ち、スマホユーザー特有の日常的で自然な感じをもつ写真、という新たなカテゴリーを作り出そうという狙いがあるのではないか。
SNSマーケティングがストックフォトサービスを変える
ストックフォトサービスは、これまでプロやアマチュアカメラマンがデジタルカメラで撮影した、クオリティの高い写真素材を揃えることでメディアへの供給を可能にしてきた。
しかし、「Instagram」などを活用したマーケティングが活発になるにつれ、一般のユーザーがスマホで撮影した「日常的で自然な」写真に対する需要が生まれ、価値を持つようになったのだ。
今、写真を評価する基準が変化し始めている。「一億総カメラマン」の時代、我々はスマホで「日常的で自然な」写真を毎日、商品として生産できるようになってきたといえるのかもしれない。