2017年末、株式時価総額が5,000億ドル(約56兆円)を超え米フェイスブックに並んだとして話題となった中国IT大手テンセント、ECイベント「独身の日」だけで3兆円近い売り上げを記録したアリババなど、最近話題に事欠かない中国企業。ドローンや人工知能など先端領域でも果敢な取り組みを見せている。

同じ2017年末に、空飛ぶ自動車を開発する米国の「Terrafugia」を買収した中国企業ジーリー(吉利)もそんな企業の1つだろう。

空飛ぶ自動車というと、テンセントもこのほどドイツ発の「Lilium」に投資をしており、中国企業の関心が高い分野となっている。

今回は日本ではあまり馴染みのない米拠点のTerrafugiaと中国企業ジーリーについて、どのような企業なのか紹介したい。

MIT卒業生らが立ち上げた「空飛ぶ車」企業

Terrafugiaはマサチューセッツ工科大学(MIT)の卒業生らによって2006年に設立された企業だ。

創業者の1人で現CTOを務めるカール・ディートリッヒ氏は、MITの航空力学・宇宙工学分野で学士・修士・博士号を取得した人物。イノベーション関連の賞を複数受賞したことのある天才エンジニアでもある。

Terrafugiaが開発しているのは、空飛ぶ自動車「Transition」と「TF−X」の2モデル。

Transitionは、2009年にプロトタイプの試験飛行が実施され、2015年頃の発売開始が予定されていた。当初設定されていた価格は、27万9,000ドル(約3,000万円)。現在は、予定が変更され2019年頃のデリバリーになると見込まれている。価格も変更され30万〜40万ドル(3,300万〜4,400万円)となっている。

米国の航空法上では、Transitionは「light sport aircraft(軽量スポーツ航空機)」に分類されており、これに該当するライセンスを持っていると運転・操縦することが可能だ。

1人乗りで、最高速度は陸上では110キロメートル、飛行時は185キロメートル。飛行距離は700キロ以上。


Transition

一方、TF−XはTransitionの後継機として発表されたモデル。空飛ぶ自動車では初の自動運転車になると見られている。

自動運転のほかにTransitionとの大きな違いは、4人乗りであること、そして垂直離着陸ができる点だろう。販売開始は2023年以降で、価格は30万ドル以上と見られている。


TF−X(Terrafugiaウェブサイトより

買収戦略で事業範囲拡大と海外市場アクセスを強化するジーリー

このTerrafugiaを買収したジーリーとはいったいどのような企業なのか。

ジーリー(ジーリー・ホールディンググループ=浙江吉利控股集団)は、民間自動車メーカー「吉利汽車(ジーリー・オートモービル)」とスウェーデンの自動車会社ボルボ・カーズの親会社だ。ジーリー・オートモービルは2017年上半期中国国内で41万台を売り上げ日産に次ぐ7位となった。中国の民間自動車メーカーとしては国内2位の規模を誇るといわれている。


ジーリー・ホールディンググループ・ウェブサイト

1986年に創業されたジーリーはもともと冷蔵庫メーカーとして始まった。その後、1990年代にバイクの製造、98年に小型バンの製造、2002年に乗用車の製造を開始している。2004年にIPOを行い香港証券取引所に上場した。

その後、2008年頃から買収による事業拡大路線を加速している。

2008年、ジーリーは米フォードにボルボ・カーズ買収の話を持ちかけ、2010年に買収を完了。2013年には英国のタクシーメーカー「ロンドン・エレクトリック・ビークル・カンパニー」を買収。2017年マレーシアの自動車メーカー「プロトン」の株式49%を取得したほか、英国のスポーツカー・メーカー「ロータス・カーズ」の株式51%を取得している。

買収により事業範囲拡大と海外市場へのアクセス強化を推し進めるジーリー。Terrafugiaの買収で空飛ぶ自動車事業に参入することになる。ジーリーは、Transitionを2019年までに、TF-Xを2023年までに販売できる体制を整えたい考えだ。

空飛ぶ自動車は、LiliumのほかにもUberやAirbusなども本腰を入れて取り組む領域。今後数年でスタンダードな乗り物になっているのかもしれない。

img: terrafugia