「あなたが好きなことをやりなさい」

ひと昔前の日本なら「甘い」と一蹴されそうなブランドメッセージを掲げつつ、コワーキングスペース『WeWork(ウィーワーク)』は今年7月に日本への上陸を果たした。

世界16カ国56都市に拠点を持つ同社は、ソフトバンクとの合弁で日本法人を立ち上げ、2018年の本格始動に向けて準備中だ。

AMPでは2017年7月に開かれた東京のオープニングイベントを皮切りに彼らの動きを追いかけてきた。

WeWorkが一貫して発するメッセージは“コミュニティの重要性”だ。CEOのAdam Neumann氏は「community-manufacturing machine(コミュニティ製造マシン)を構築したい」とまで語っている

そんな“マシン”を強化するために、WeWorkはオフラインコミュニティプラットフォーム『Meetup(ミートアップ)』 の買収を選んだ

当時は奇抜だった「ネットを使ったオフラインの場づくり」

『Meetup』はスポーツや料理、プログラミング、外国語学習など、目的に合わせたグループやイベントを作成・検索できるプラットフォームだ。

2002年にニューヨークで設立され、現在のユーザー数は3,500万人を超える。同社によると1日におよそ15,000件のMeetupイベントが開かれているという。

東京都内でもドッジボールやビットコイン、フォトグラフィーに関するコミュニティがある

ローンチ当初より重視してきたのは、メンバーが「リアルの場」で繋がる機会を提供することだ。オフラインの場づくりにこだわる背景には、共同設立者のScott Heiferman氏が2001年に同時多発テロで得た体験がある。

当時、ニューヨークに住んでいたHeiferman氏は、テロが起きた後に近所の人々が積極的にコミュニケーションを取る姿を目にした。それまでは「インターネットがあれば近隣とのコミュニティなど不要」だと思っていたが、人々が支え合う様子からオフラインの場づくりに可能性を見出すようになる。

その可能性は現在ならさほど突飛なアイディアではないように思えるが、当時は「多くの人がクレイジーな考えだと思っていた」という

日本語対応時に公開された動画でScott氏は「世界で起きる最もパワフルなことは人と人が合うことで生まれる」と語る

コミュニティ戦国時代に求められる変化

2010年代初頭に急成長を遂げたFacebookやTwitterなどのSNSに比べ、“オフライン”のコミュニティにこだわるMeetupの成長は決して目立つものではなかった。

しかし、それらの隆盛ぶりを横目にしても、Meetupにとっては「独立性を保ち、身分相応である」ことが最優先だった。現在においてもその戦略は変わらない。

ここ数年は財政的にも厳しい状況が続いていたが、2008年を最後に資金調達は行ってこなかった。その際も『eBay(イーベイ)』のCEOであるPierre Omidyar氏や、IT投資家のEsther Dyson氏など「ビジネスによる社会貢献の可能性を信じる人たち」から調達をしてきた。

「好きなことは何?」という言葉は、WeWorkの「あなたが好きなことをやりなさい」にも通じる

しかし2017年初頭に彼らを取り巻く状況は大きく変化している。Facebookが6月に新たなミッション「コミュニティを構築する力で世界をもっと密に繋ぐ」を発表し、コミュニティ支援に紐づく機能の拡充に向けて舵を切った。

これを受けてMeetupは、ミレニアル世代への訴求力を高めるため、デザインのリニューアルやレコメンド機能の精度向上に取り組んだ

並行してHeiferman氏は投資家たちへの相談を重ね、WeWorkのNeumann氏と出会う。長い議論の結果、FacebookとInstagramのように独立は保った上での買収という結論に至った。

狙うは「3,500万人のプラットフォームから、10億人が使うサービスへの成長」だ。

WeWork×Meetupが仕事内外のコミュニティを育む

Heiferman氏が買収に向けた議論で問い続けたのは「どうすればより大きなインパクトを社会に与えられるか」だったという。これまで穏やかな成長曲線を描いてきたMeetupにとって、設立7年で時価総額2兆円を突破したWeWorkとの協業は大きな追い風になるだろう。

WeWorkにとってもMeetupとの協業のメリットは大きい。彼らのコワーキングスペースでは、いかに就業時間外のコミュニティを育むかが大きな課題になっていたからだ。

Neuman氏は、コワーキングスペースはビジネス目的で集まる人が多く、作業を終えるとスペースを去る人がほとんどだと話す

今後Meetupでイベントやグループを主催するオーガナイザーは、平日夜や土日にWeWorkを利用できるようになる。日頃からミートアップや瞑想セッションなどが行われるWeWorkのスペースなら、幅広いジャンルのMeetupイベントに対応できそうだ。ウェブサイトではすでに予約を募るフォームが用意されている。

冒頭にも書いたように、WeWorkは2018年に日本へ本格的に進出する予定だ。同社の進出に合わせてMeetupの日本展開も拡大するだろう。Meetupで国際部門の責任者を務めるOdile Beniflah氏も利用者の増加を期待していると述べる。

「まだ日本ではMeetupを知っている個人も企業も少ないです。しかし、今後はMeetupのオーガナイザーがWeWorkを利用できるようになれば、都心のユーザーを惹きつけられると思っています。特に東京ではイベントスペースを探すのに苦労している方が多いですから」

協業の発表に合わせて公開された上記の動画では、最後に“We Meetup”という言葉が浮かび上がる。オンラインとオフラインを横断したコミュニティの構築に取り組んできた両社。Facebookのような巨大なSNSにどのように対抗していくのか。日本での展開も合わせて期待が高まる。

img: Meetup, WeWork