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イーロン・マスク氏が指揮し、2022年には本格的に始動するといわれている火星移住計画。このままでは人類が滅亡してしまうという想定のもと、人類の新たなフロンティアを開拓しようという試みである。
一方で、地球内でまだ開拓されていないフロンティアに進出しようという取り組みも進んでいる。そのフロンティアとは、「海」だ。
海上、海中、深海に人間が住める空間を創り出そうというもので、火星と比較して実現可能性は高く、一部の研究者や投資家、起業家らが注目している。いったいどのようなプロジェクトが進行しているのか。
2020年を目指し動き出したフランス領ポリネシアの海上都市計画
日本人にも人気の南太平洋のリゾート、タヒチ島。そのタヒチ島が属するフランス領ポリネシアで世界初の「海上都市・国家」が誕生するかもしれない。
2017年1月、フランス領ポリネシア政府は海域内で「海上人工島」建設を許可し、その人工島に特別な法的枠組みを適用する旨の合意書に署名をしたのだ。
このプロジェクトを率いるのは、米サンフランシスコ拠点の非営利組織「Seasted Institute」だ。Seastead Instituteは、ペイパル共同創業者であるピーター・ティール氏とノーベル経済学賞を受賞したミルトン・フリードマンの孫にあたるパトリ・フリードマン氏が2008年に立ち上げた組織。
Seastead Instituteは、地上の国家・政治システムは時代遅れで、イノベーションを生み出せないと批判し、独自の新しい政治システムを持つ海上国家の建設を目指している。
フランス領ポリネシア
フランス領ポリネシアで始まるのは、この海上国家建設に向けた第1歩となるプロジェクトである。当面の目標は2020年までに海に浮かぶ島と300人ほどが生活できる居住空間の建設だ。この海上人工島は経済特区扱いとなり、Seastead Instituteは海上でさまざまな試験的な取り組みを実施できるようになるという。
ただし建設を始める前に、人工島がフランス領ポリネシアにどのような経済的恩恵を与えるのかを示し、また人工島建設の自然環境への影響評価を実施することが条件となっている。現時点で見積もられているプロジェクトの総費用は1億6700万ドル(約190億円)。
このプロジェクトについては、これ以上の詳細は明らかにされていないが、Seastead Instituteがこれまでに発表しているドキュメントなどから海上都市・国家の完成イメージを描くことができる。
海上都市・国家では、エネルギー・水・食糧の自給自足を行い、廃棄も域内で完結する仕組み。また独自の政治体制を持ち、あたかも1つの国家として振る舞う存在になると考えられている。
海上での建築という技術的な側面に加え、軍隊、警察、税制、財政、外交など、法・政策や経済の側面でまだ議論の余地は残っているが、研究機関・大学などの協力を得て打開策を模索していくようだ。
海上都市イメージ図(YouTube seasteadチャンネル動画より)
清水建設が構想する、未来の海上・海中都市
海上都市というテーマでは海外発のプロジェクトが話題になることが多いが、日本でも注目されるプロジェクトが実は存在する。
清水建設が未来構想として明らかにしている海上都市「グリーンフロート」、そして海中都市「オーシャンスパイラル」だ。
グリーンフロートは2008年に発表されたプロジェクトで、当時キリバス共和国から水没の危機から国を救うソリューションになるかもしれないと関心が寄せられ、その話題をきっかけとして世界中に知られるようになった。
「グリーンフロート」イメージ(seastead清水建設ウェブサイトより)
構想で明らかになっているのは、タワーが特徴的な海上都市だ。タワー上部には3万人が居住できる空間、水辺部分にも1万人が居住できる空間がある。タワー部分の大半には食糧自給のための植物工場が備えられている。タワーと水辺部分から成る1ユニットの直径は3000メートルで高さが1000メートルの巨大な海上都市となる。
一方「オーシャンスパイラル」は、海中数百メートル部分に設置された直径500メートルの球体を居住部分とし、そこから海底3000〜4000メートルほどまで伸びるスパイラル上のトンネルと海底部分に設置されたファクトリー部分で構成される巨大建造物だ。
「オーシャンスパイラル」イメージ(seastead清水建設ウェブサイトより)
オーシャンスパイラル内では、やはり水・食糧・エネルギーは自給自足になるが、深海だからこそ可能な方法が考えられている点に注目したい。たとえば、海水温度差を利用した発電、深層水を利用した養殖、水圧を利用した淡水化などがある。また、オーシャンスパイラルを拠点とし、深海資源を活用した新しいビジネスの可能性にも言及されている。
清水建設はオーシャンスパイラルの実現時期を2030〜50年としている。20〜30年後には充実した深海ライフを送れるようになっているかもしれない。
オランダ、ドバイの海上都市・居住プロジェクト
Seasted Instituteや清水建設のプロジェクトだけでなく、このほかにも世界ではさまざまな海上都市に関わるプロジェクトが明らかになっている。
オランダ海洋研究所は、木とポリスチレンを材料に海上都市の基盤素材を開発。三角形の基盤をつなぎ合わせると全長5キロほどの大きさに拡大することができる。もちろんこの基盤上に居住空間やオフィス、工場などを建設し、1つの都市を形成することも可能という。
Space@Seaと呼ばれるプロジェクト名で現在さらなる研究が進められており、農業、交通・ロジスティクスハブ、エネルギーハブ、居住の4分野への応用実験も実施される予定だ。現時点でのプロジェクト総費用は760万ユーロ(約10億円)。
オランダ海洋研究所が開発した海上都市の基盤
海上都市ではないが、ドバイでは海に浮かぶ家が販売されており、売れ行きは好調のようだ。ドバイの不動産開発会社Keindienstの海上不動産プロジェクト「The Heart of Europe」向けに開発された海に浮かぶ家「Seahorse」。
研究開発に5000時間以上、デザインとエンジニアリングに1万3000時間以上を要したというこの海に浮かぶ家は1200万ドル以上と高額であるが、これまでに少なくとも60戸以上が売れたようだ。
海に浮かぶ家「Seahorse」(The Heart of Europeウェブサイトより)
地球は70%が海に覆われているが、これまでは技術的な問題があり、海上・海中・深海での活動は非常に限られたものだった。しかしテクノロジーの進歩で、人類は海での活動領域を大きく広げれる時代を迎えたといえるだろう。
今回紹介してきた取り組みはほんの一部。水面下では数多くのプロジェクトが計画されており、今後どのように発展していくのか、その動向に注目していきたい。