インターナショナルSOSは、リスク管理者を対象にした調査をまとめた『ビジネスレジリエンス・トレンドウォッチ2019』を公表した。

同時に、世界各国の医療リスクと安全上の最新のリスク評価を示した『トラベルリスクマップ』の最新版である2019年版も発表されている。

同マップ作成にあたり、企業の出張とリスク軽減について調査が行われた。組織の中で社員の出張やリスク軽減に関わり、影響を与える責任者や担当者を対象として2018年10月に実施。640人から回答を得ている。

調査結果の主なトピックは2つ。

  • 「来年は渡航リスクが高まる」と答えたのは約半数。割合は2年前に比べて25ポイント低下
  • 渡航リスク管理の課題は、「多様化する社員のニーズへの対応」「社員教育」

2019年に渡航リスクが高まると予想したのは43%、9ポイントの低下

多くの企業のリスク管理に関わる意思決定者は、2019年に渡航リスクが高まると予想。しかし、その割合は過去3年間で年々減少している。

過去1年間(2018年)に渡航リスクが高まったと回答したのは47%。昨年の63%と比較すると16ポイント(pp)低下、一昨年の72%から25ポイント低下している。

過去1年間(2018年)での渡航リスクは同程度だったと回答したのは45%だった。昨年の31%より14ポイント 上昇、一昨年の24%から21ポイント上昇した。

2019年は渡航リスクが高まると予想したのは43%。その割合は昨年の52%と比較して9ポイント低下、一昨年の57%から14ポイント低下している。

この結果について、インターナショナルSOS/コントロール・リスクスのセキュリティマネージャーであるSally Napperは次のようにコメントしている。

「意思決定者のほぼ半数が、来年は渡航リスクが高まると考えています。今回の調査では、多くの企業で社員の渡航時の習慣の変化が見過ごされているのが明らかになりました。

企業が社員の現在のニーズを適宜、各種ポリシーに反映させていければ、社員はより多くの情報を得て、より安全に働くことができます。変化に対応できるリスクマネジメントプログラムが引き続き重要になります。経営陣の承認やその他の活動へのサポートを得る際にも役立つでしょう。」

企業の出張規定は、多様化する社員ニーズへの対応が遅れている

今回の調査では、出張規程について調べている。そこでは、規程が今日の社員のニーズの変化に対応できていないことが明らかにされた。

以下に項目と数値を示す。

  • サイバーセキュリティについて取り上げている企業:33%
  • 女性出張者への配慮がなされている企業:26%
  • ブレジャー旅行(出張にレジャーの要素を加えた旅の形「Business + Leisure」)について取り上げている企業:18%
  • シェアリングエコノミーサービスについて取り上げている企業:14%
  • 障がいを持つ出張者への配慮がなされている企業:10%
  • メンタルヘルスの問題を抱える出張者への配慮がなされている企業:11%
  • 性的少数者の出張者への配慮がなされている企業:9%

この結果について、インターナショナルSOSの情報分析部門のグループメディカル・ディレクターDoug Quarry医師は、次のようにのべている。

「渡航時の医療および安全の評価は、渡航先だけでなく、渡航者個人に重点を置く必要があります。性別、年齢、性的指向、精神的健康状態などの渡航者個人の情報や状況によって、対応すべきリスクは異なります。

出張規程を現代の働き方に合わせていける企業は、安全配慮義務やサステナビリティの実現も容易になります。」

海外で働く社員を守るために、企業が直面している課題

「渡航リスクに関する社員教育」は、渡航者の安全確保における最大の課題と捉えられているという。これについては、過去の同調査でも明らかになっている。

この項目は、63%と昨年と比較して10 ポイント上昇。大きな問題であることがうかがえる。

企業が直面している課題として、次のような項目が続く。

  • 社員が渡航前情報を読んだことの確認:44%
  • 渡航者の所在地の追跡:42%
  • 有事の際の社員との連絡手段:42%
  • 健康と安全を管理するために十分なリソースを備えていること:40%

海外で働く社員を守るために、企業が行う活動

「渡航承認プロセスへの渡航リスク評価の導入」は、渡航者の健康と安全のために過去1年間で行われた最も一般的な対応策だという。この項目を選択した回答者は42%に上った。

企業が行う活動としては、次のような項目が続いた。

  • 渡航安全に関するトレーニングおよび安全対策トレーニングの実施:39%
  • メールによる渡航前と渡航中の注意喚起:38%
  • 渡航リスクポリシーの更新(多様性に関する項目を除く):36%
  • 健康と安全に生じた問題の種類および件数の測定と分析:29%
  • 渡航者の所在地確認プログラムの実施:29%
  • 健康診断を毎年実施:28%

これについてQuarry医師は、「渡航リスクを軽減するには、教育とトレーニングが不可欠です。このような安全配慮義務を満たすための基本対策を講じている企業がいまだに半数に満たないのは驚くべきことです。

こうした対策を講じることで、社員の海外出張・駐在はより円滑に進みます。それにより、社員を守ることに加え、プロジェクトの投資の損失も防ぐことができます。」と指摘している。

将来のビジネスレジリエンス構築へ向け、改善できること

ビジネスレジリエンス(ビジネス危機管理能力)を構築するために、ほとんどの企業で現在実施されていない施策があるという。

たとえば、「出張規程に精神的健康状態や多様性の問題といった重要点が盛り込まれていない」という点が挙げられている。

ほとんど実施されてない施策、として挙げられたのは以下のとおり。

  • 自社のサステナビリティ(持続可能性)プログラムに渡航リスク対策を含めている企業:9%
  • 道路交通事故の件数をモニターしている企業:11%
  • 出張中に注意すべき健康上の問題を理解するためのプログラムを実施している企業:21%

img:インターナショナルSOSPR TIMES