「UberEATS」や「LINEデリマ」の登場で、日本でも少しずつ広がりを見せるオンライン・フードデリバリーサービス。海外ではすでに日常に不可欠なサービスとして受け入れられるほど、深く浸透している国も出てきている。
中国ではフードデリバリー市場が数兆円規模に拡大しており、その成長速度や今後の可能性に投資家らの注目が集まっている。また、ドローンやロボットの試験的導入も進んでおり、テクノロジー活用の動向にも関心が集まっている。
今回は、中国のフードデリバリー市場動向を紹介するとともに、ドローンやロボットなどテクノロジー活用事例についても見ていきたい。
2強がけん引する年間4兆円規模の中国フードデリバリー市場、2018年には11兆円に
世界のオンライン・フードデリバリー市場では、英「Deliveroo」や独Delivery Hero傘下の「FoodPanda」、米「UberEATS」などが大手プレーヤーとして認知されている。
2013年に設立された Deliveroo は、英国、オランダ、フランス、ドイツ、ベルギーなど欧州域内を主要市場としながらも、香港、シンガポール、オーストラリアなどアジア太平洋地域にも進出・拡大している。FoodPandaやUberEATSも同じような市場展開を見せている。
世界各地で事業展開する Deliveroo
シンガポールや香港では地元デリバリーサービスがあるものの、Deliveroo、FoodPanda、UberEATSが市場シェアの大半を占めているといわれている。
一方、シンガポールや香港と文化的・物理的に近接している中国のフードデリバリー市場はまったく異なる構図となっている。
中国ではアリババグループ系の「餓了麼(ウアラマ)」とテンセント系の「美団外売(メイトワンワイマイ)」が市場シェアのほとんどを占めている2強状態なのだ。数カ月前まではバイドゥ系の「百度外売」を含めた3強状態であったが、2017年8月に餓了麼が百度外売を買収し、現在の2強となった。2016年にはこれら3社で市場シェアの90%近くを占めていた。
中国の調査会社易観の市場分析レポートによれば、中国のフードデリバリー市場規模は2017年7〜9月期に前年同期比で約80%増の582億7000万元(約1兆円)と急速に伸びていることが明らかになっている。四半期で約1兆円規模なので、単純計算で年間4兆円ほどの規模となる。
2018年には、11兆円規模に拡大するとの見込みもあり、市場拡大の勢いが非常に強いことが分かるだろう。ちなみに、餓了麼の注文動向レポートによると、2016年の餓了麼が受け付けたデリバリー件数は33億件に上った。
市場拡大に伴う人手不足・賃金上昇、ドローンやロボット導入が問題解決のカギか
14億人近い人口が追い風となり、爆発的な拡大を見せる中国フードデリバリー市場だが、拡大に伴うジレンマにも直面している。人手不足と賃金上昇だ。
中国フードデリバリー市場における配達員の多くは農村出身といわれている。このため、配達員が帰省する旧正月前後には、人手不足になる傾向がある。旧正月明けに配達員募集数が11倍に膨れ上がった事例もあるようだ。一方で、このような特別行事に関わりなく、人手不足が常態化しているとも指摘されている。
こうした人手不足問題を解消するために、フードデリバリー企業は配達員募集で他の企業より高い給与を提示する必要が出てきている。
新聞晨報など中国地元紙によると、配達員の給与は6000〜1万元(約10万円〜17万円)ほどで、レストラン従業員などに支払われる給与額5000〜6000元より高く設定されているようだ。配達員応募者の多くは1990年代生まれで、宅配や飲食からの転職者が多いという。
このようにフードデリバリー企業は人手不足問題に対して、高い給与で人材を確保する対策を取っている。一方で、長期的に見るとコストひっ迫要因となるため、より根本的な打開策を模索する必要がある。
餓了麼は人手不足問題に、ロボットやドローンの導入で対応しようとしているようだ。
餓了麼がこのほど上海のオフィスビル、虹橋万科中心で試験的導入を開始したのがビル内移動に特化したデリバリーロボット「万小饿」だ。配達員がビルの入り口までデリバリーした料理を注文客のデスクまで運ぶことを想定したロボット。
通常、オフィスビルの出入りには許可証が必要で、配達員が足止めをくらう場合が多い。この時間的なロスを解消しようという狙いがある。試験がうまくいけば、同じく地区のレジデンスや商業エリアにも配備する計画という。
餓了麼のビル内移動に特化したデリバリーロボット「万小饿」(YouTube pandailyチャンネル動画より)
餓了麼のデリバリードローン「E7」にも注目が集まる。E7は、最大積載量6キロ、最長飛行距離20キロメートル、最大時速65キロのドローン。餓了麼は、中国国内の複数の都市で試験飛行を行なうと同時に2018年4月には新モデルのドローンを公表する計画だ。
デリバリー速度、精度、安全性など実用化に向けて実証しなくてはならない項目は少なくないが、アリババグループの資本、ネットワーク、技術などを駆使すれば、あっという間に実現されるのかもしれない。