「ロボットが人間の仕事を奪うかもしれない」と叫ばれて久しい。

2015年のアメリカでは、労働者1,000人当たり産業用ロボットの導入率は1.75%であったが、2025年までには3倍の5.25%にまで成長すると指摘されている。

また、人口当たりの労働者数の割合が、0.97-1.76%の幅で減り、賃金が1.3-2.6%の割合で減ってしまうとも指摘される。

仕事の中にはロボットに代替されるものもある。この不可逆な流れをうまく活かしたプレイヤーも登場してきた。

ロボットの導入が、ピザ業界に福利厚生をもたらす

今回紹介する「Zume Pizza(ズーム・ピザ)」は、ロボットの普及を上手く生かした組織作りをしているスタートアップだ。

「Zume Pizza」は人間とロボットそれぞれに役割分担をさせ、ピザを作っているシリコンバレー拠点のピザテック企業。同社のコンセプトは美味しいピザを顧客に届けるだけでなく、ロボットとの協業によって従来のピザ企業が抱えていた劣悪な労働環境の改善を目指す。

アメリカのピザ市場規模は2014年度で約380億ドルあり、チェーン店が61%を占めている。とりわけピザハットが14.79%、ドミノピザが9.86%の市場占有率を誇っておりトップ2の企業である。

このような大手チェーン店の労働環境には課題が多く分けて二つある。

  1. パフォーマンスが不安定 : 大手チェーン店ではマニュアルはあっても、ピザ作りの上手い人と下手な人でパフォーマンスが異なるし、のせる具材の量も変わってしまう
  2. 労働者のインセンティブが無い : パートタイムの労働条件なので福利厚生などは受けられない。店舗マネージャーの平均時給が11.59ドルというデータもあり、いかに賃金が低いかがわかるだろう

私が北米に住んでいた頃、チェーン店でいつも注文する料理が日によって味や質が変わるのは嫌であったし、低賃金で雇えるメキシコ人が多いのが印象的であったため、大手チェーン店の抱える労働環境やオペレーションの課題は実体験として感じていた。

生まれたマージンは、従業員への還元と顧客体験の向上へ

「Zume Pizza」では、ピザ製造のプロセスが全てロボットによって自動化されている。人が絡んでいるプロセスはロボットの管理、ピザの品質管理、ドライバーの大きく3種類だ。

CEOのアレックス氏は、私も参加したテックイベント「LAUNCH Festival 2017」で次のようにロボット導入の意図を語っていた。

アレックス「Zume Pizaaの1枚当たりの料金は10-25ドルですが、ドミノピザのような競合と比べて製造コストを安く抑えられています。そのため、マージンを高く設定できます。製造コストが安いからといって、低品質なものを出すわけではありません。Zume Pizzaは全てオーガニック素材を使用しています。

つまり顧客に対してヘルシーなピザを提供でき、配達時間も短くできるため、利便性が上がります。一方でコスト削減、マージンの増加を期待できるのがZume Pizzaのビジネスです」

ピザ製造の自動化によって発生したマージンをどのように使っているかについて次のように語っている。

アレックス「マージンの積み重ねによって発生した余剰資産の用途を何度も議論した結果、従業員への還元と顧客体験の向上に充てることに決めました。例えばZume Pizzaの最低時給は15ドル、ドライバーにおいては18ドル、ホールスタッフは16-31ドルです。そして全従業員及びその家族が眼科、歯科保険を持てます(※アメリカでは国民皆保険に入っても眼科、歯科保険はオプション扱い)。

また、Zume Pizzaのドライバーの内50%が女性です。夜にピザをオーダーした場合に、やはり男性より女性が届けてくれた方が安心感が増し、顧客満足度が上がると考え、積極的に女性の雇用を推進しています。

高い女性ドライバー雇用率を維持できるのは、ピザ焼き機を搭載したトラックの導入です。ピザ配達の業務は全米で3番目に危険な仕事だと言われていますが、配達中にピザを焼き、配達場所に到着した時点で焼きたてを提供できる専用のトラックを導入しているため、急いで届ける必要もなくなり、女性でも安全にドライバー仕事に就けるわけです」

ピザテックが示す、ロボットと協働する未来の労働環境

ロボット導入による自動化によって、商品価格を下げる流れが一般的なやり方になりつつあるのかもしれない。

例えば、同じくシリコンバレー拠点のカフェロボットの「CafeX(カフェエックス)」は、ロボットを使った全自動化プロセスを通じてコーヒを提供する。スターバックスより1-2ドル安い低価格でコーヒーを提供する。

一方で、「Zume Pizza」が指し示すのは、安易に価格を下げるのではなく、ロボット導入によって浮いたお金を従業員への賃金・福利厚生に回して、顧客体験を上げる考えであった。

ロボットの導入は、危険な業務や代わりのきく低賃金の業務から始まる。

しかし、単に既存業務をロボットに置き換えるためではなく、次世代の労働環境に昇華させるソリューションを「Zume Pizza」から学ぶことができるだろう。

img : Zume Pizza, Aranami