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2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックへの期待や、アベノミクスによる株価の上昇などとともに、首都圏での不動産市場は局所的にバブル化しているともいわれている。
2017年上期(1~6月)に売り出された首都圏の新築マンションの価格は、なんと5年連続で値上がりしており、1991年のバブル以来の高値をつけたという。
このように価格や価値の面でも盛り上がりを見せている不動産業界だが、そのIT化もめざましい。それはもちろん、建物自体がスマートハウス化していくという側面もあるが、物件を求めるユーザー体験をICT化していくという面でも進化してきているようだ。
積水ハウスが業界初のVRサービスを導入
この度、積水ハウス株式会社では、最新のバーチャルリアリティ(以下「VR」)技術を駆使した3D空間体験のサービスを発表した。
独自のCADシステムと連動させることで、顧客は邸別自由設計のオリジナルプランに即してVR空間を体感することができる。これまで、あらかじめ用意された住宅のモデルプランやマンションギャラリーなどでVRが使われる例はあったものの、邸別のオリジナルプランでVR空間を体感できるのは住宅業界で初となる。
積水ハウスは、最新のVR技術を導入・活用することで住まいの提案を強化し、営業折衝と設計提案における顧客満足度を一層高めるとしている。
さらにこれだけではなく、提案から契約後、工程管理、アフターサービスに至るオリジナルのITシステムの強みを活かし、IT戦略による大幅な業務効率化につなげ「働き方改革」も推進していくという算段だ。
IT化する不動産サービス
この他にも、不動産サービスにおけるIT化は進んでいる。
その一つが「スマート内覧」という、ユーザーのみで物件の内覧を可能にしたサービスだ。予約当日にユーザーのみで現地に向かい、アカウント登録した携帯電話で「開錠」ボタンを押すと、施錠されている鍵が開き、自由に内覧することができる。退出の際も開錠同様に携帯電話から施錠をすることができる仕組みだ。
・営業スタッフなしで内覧が可能!携帯電話で“施錠/開錠”が可能な「スマート内覧」で不動産営業は進化できるか?
また、中古マンションが過去どのような価格で売られてきたか、いくらで賃貸に出されてきたかといったデータを公開し、ユーザーが閲覧できるようにした「カウル」も、不動産業が抱える課題をITの力で解決している。人工知能を用いて適正価格を算出するだけでなく、業務を効率化することでコストダウンをユーザーに還元するとしている。
いずれも、顧客満足度向上と業務効率化を目的としたサービスだ。
不動産業界のこれまでとこれから
これまで、不動産業界においては「扱う物件の多さ」や「接客サービスの良さ」、「ユーザビリティ」、住宅メーカーにおいていえば「自社商品力」が競争優位性であった。しかし様々な不動産サービスのIT化により、提供できる価値も多様化することだろう。
AIの登場やIT発達の文脈では人間の仕事が失われるという話がよく出るが、不動産営業という職種もその一種なのだろう。
物件を借りたい・購入したいユーザーは家にいながらVRでその物件の雰囲気をつかみ、不動産会社の人間と対面で関わらずともスマート内覧で物件を実感し、問い合わせなどがある際もチャットボットによってその悩みは解決されていく、そんな未来は遠くないはずだ。
デジタルネイティブであるミレニアル世代にとっては、そういった体験こそが未来の物件探しとして魅力的に感じるひとも少なくない。
そうなってくると、不動産業界は今まで以上にコンセプチュアルな部分や、商品力、住むことへの付加価値などの部分で競争が激しくなっていくと予想される。新たなマッチングの形で不動産ビジネスが発達するという未来もあるだろう。
時代と世代にマッチしたサービスや手法を取り入れていくことが、今後の不動産業界には求められていくことは間違いない。
img; 日経電子版 プレスリリース