私たちが毎日行う行動の一つに「検索」がある。

Googleが掲げる理念「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」は広く知られているものの、未だ検索に感じるストレスは少なくない。

手がかりとなる検索ワードを入れることで関連情報が表示されるが、1つずつ地道にクリックし、調べていかなければ自分の欲しい情報源にたどり着けない。日常のふとした疑問ならまだしも、ビジネス上のリサーチともなると、生産性に直接関わってくる。

そこで登場したのが、リサーチ時間がなく忙しい人をターゲットとしたグーグル検索代行サービスの「Wonder(ワンダー)」だ。

どんなウェブリサーチ案件も24時間以内、75ドルで代行してくれる『Wonder』

「Wonder」は最短24時間以内にどんなリサーチ案件も代行し、グーグル検索をもとにした調査結果を綺麗なレポートにして提供してくれる。料金は1回当たり75ドルほど。

主なターゲット顧客はビジネスマンで、企業のリサーチ業務の外注先としても使われている。なかには、全米の企業収入上位500社にランキングされる『フォーチュン500』にも企業顧客を持つ。コンサルからメディア企業、起業家までの幅広いビジネス層が利用している。

インターネットの登場以降、誰もが何気なく行っていた「検索」をいかにビジネス機会として捉えたのか。創業者であるJustin Wohlstadter氏(以下、ジャスティン氏)は次のコメントをくれた。

「私たちが行っているのは、『知識』を効率的に届けるネットワーク構築です。たしかに『Google』は私たちにとって欠かせないサービスではあります。ですが、『情報』を整理するだけであり、そこからどのような結果・洞察が得られるのかわかりません。どのようにしたらバラバラになった情報をまとめ、『知識』として効率的にユーザーに届けられるのかと考えた結果、『Wonder』のアイデアに行き着きました」(ジャスティン氏)

ここからはジャスティン氏への取材コメントを交えつつ、サービスが本質的に優れている点、マーケットプレイスの確立からグロースハックまで、「Wonder」が辿ってきた軌跡と、細かいノウハウを見ていきたい。

顧客は時間を買い、生産性とパフォーマンスを最大化できる

「Wonder」創業者・Justin Wohlstadter氏

ジャスティン氏が利用シーンの一例として挙げてくれたのが、ニュースメディアでの活用だ。これから取材に当たる人の経歴を調べる際、大手新聞社やテレビメディアの記者から「聞くべき質問リストをすぐに送ってほしい」という問い合わせが多いという。

本格的なリサーチャーは雇えないなか、随時最新ニュースの編集・撮影に取り掛からないといけないメディアならではの組織課題を、「Wonder」にリサーチ外注することで解決している。

他にも具体的な事例として、コンサル業界での活用に関しても教えてくれた。

「例えばコンサル業界では1時間当たり300 – 400ドルのコストがかかります。 また、2 – 3人のリサーチチームを編成し、1 – 2週間リサーチプロジェクトに当たらせるのが一般的。2人で1週間の時間をリサーチに費やすだけで最低でも240万円かかります。ここで『Wonder』を利用することで通常数日かかるようなリサーチ時間を24時間に短縮でき、費用対効果も抜群です」(ジャスティン氏)

限られた時間内で高いパフォーマンスを要求されるビジネス・プロフェッショナルにとっては、自分の時間を75ドルで買えるならば安く感じるのではないだろうか。「時間を買えること」にこそ、「Wonder」がサービスとして優れている点と言える。

リサーチャーの採用は、ハーバード大学より厳しい合格率5%

「Wonder」のオペレーションは、顧客から受けたリサーチ内容に最も上手く対応できるリサーチャーをマッチングさせるシンプルなものだ。リサーチャーは有名大学の学生から退職をした人まで幅広く、3,000人を超えるリサーチャーが全米にいる。

しかし、マーケットプレイスとして数千人単位の規模を持っているとしても、代行サービスには課題点も少なくない。その一つに作業を担う側の「質」をどれほど担保できるのかという点が挙げられる。例えば家事代行サービスの「Homejoy(ホームジョイ)」では、サービス提供者にホームレスのような人までを採用していると噂になり、6,400万ドルもの大型資金調達をしながらも消えていった。

サービスの質を一定以上常に保つため、「Wonder」ではどのような採用プロセスを敷いているのだろうか。

「まずは簡単な筆記テストを受けさせます。このプロセスは1次試験で、次のステップでは実際に顧客から届くリサーチ内容をまとめるという実地試験が待っています。

実際の仕事では、どのような情報源をたどってリサーチをしたのかを記載しなければいけないので、「ソース発見」プロセスを見るためです。ここまでで合格ラインを突破した人の中でも、特に優秀な人を選びます。ハーバード大学の入学率5.2%より低い合格率です。これはもちろん質を担保するためです」(ジャスティン氏)

成長スピードを殺してでも、重要視する4つの指標

「Wonder」がグロースのために追っている重要指標は下記の4つ。

  1. リクエスト数
  2. GMV(総流通総額)
  3. オペレーションクオリティ (リサーチに費やした時間と、それに対しての顧客からの評価)
  4. 週間リテンション率 (顧客の継続利用率)

「有料広告は成長が急激に早まり過ぎるので、非常に危険です。この点、大切な指標を追いながら、目標値を着実に達成していくことが大切だと考えています。私たちの場合、毎週の継続リクエスト数及びユーザー数を中心に見て、じっくりと時間をかけて取り組んできました。これにより、顧客に定期的に必要とされるサービスにまで成長させてきたんです」(ジャスティン氏)

また、「カウンターバランス」という概念をチームに徹底させている。1つの重要な指標があったとしても、必ずそれと相反する指標を置くのだそうだ。「Wonder」の場合、リサーチをする時間をトラッキングしながら、クオリティーを相反指標として重視している。言うまでもなく、時間を費やしても顧客からの評価が低ければ意味がないからだ。

スピードを殺してでも、4つのシンプルな指標を追いながらコアファンを作っていく点が、サービス・クオリティーの担保から成長戦術まで緻密に描けている『Wonder』の強みであろう。

課題は価格設定。「100年企業」へ向けた今後の戦略

順風満帆に見える「Wonder」だが、依然価格設定には苦しんでいると語る。

これまで20回以上の料金変更を行ってきたが、基本的なコンセプトとしては料金を「上げる」方向でサービス設計をしているそうだ。より価値がある情報量に富んだコンテンツを提供するため、それを提供できるリサーチャーを雇用するための仕組みづくりのためである。

「『Uber』は当初、サービス・クオリティーと財務状況維持のために高級車だけの配車を行っていました。サービスモデルが完成したと感じた後、初めて一般車の配車サービスをローンチしました。このようにビジネスを十分に継続・維持できるようモデルを確立した後に料金を安くしている戦略が正しいと考えます。そのため、私たちもなるべく高い料金設定にあえて挑んでいるのです」(ジャスティン氏)

最後に、今後の戦略と方向性についても語っていただいた。

「『Wonder』の立ち上げ当初は、私自身が全てリサーチ業務を行っていました。また、当初は図書館の司書をターゲットとした、無料のリサーチサービスとして始まったんです。そしてようやく3,000人を超えるリサーチャーを集めることができるプラットフォームとなりました。

『Wonder』のビジョンは「100年企業」を創ること。より多くの知識を、より多くの人々に提供することで、社会をよりよくしていくことが会社のミッションです」(ジャスティン氏)

Img : Thomas HaynieCC BY 2.0), Wonder