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今ではクリック一つで家まで届けてくれる配達サービスが当たり前になった。
生鮮食品が4時間以内に自宅に届く「Amazon Fresh(アマゾンフレッシュ)」やフードデリバリーの「UberEATS」をはじめ、7月にはシンガポールから買い物代行コンシェルジュサービス「honestbee(オネストビー)」が日本に上陸した。
購買の体験は、大きくその姿を変えようとしている。
ミレニアル世代はオンラインで商品を選ぶ行為に不満がある
北米では車でわざわざ出かけないと日用品・食料品を買いに行けないため、こうした配達サービスに対するニーズは高い。
実際、23歳から35歳までのミレニアルズ世代(以下 ミレニアルズ)の2/3が毎週オンラインで、日用品・生鮮食料品を購入しているというデータがある。それでもまだ、ミレニアルズはオンラインで商品を選ぶ行為に不満を感じている。
そもそもミレニアルズの内44%が、オンラインショッピングをする理由に「時間が節約できるから」を挙げている(データはこちら)。また、13歳から22歳までのジェネレーションZと呼ばれる世代は55%が同じ理由でオンラインショッピングを楽しんでいると答えていることから、若い世代ほど時間節約ニーズが高いことが伺える(世代の定義はこちらを参照)。
こうした背景のなか、北米では商品を選ぶプロセスをなくしたり、顧客の時間節約に重きを置いた配達サービスが発達してきている。今回は北米スタートアップのケースをいくつか見ていきながら、小売市場の「効率化」トレンドを見ていきたい。
「選ばせない」がコンセプトの北米版生協
まずは「Movebutter(ムーブバター)」というサービスを紹介したい。同社は日本の生協と同じく、毎週食材を専用ボックスに入れて配達してくれるサービスを提供する。
特徴は1品目に対して、1種類の商品しか提供していない点である。売れ筋の食料品目だけを揃えて、無駄な商品を提案しないのだ。
多くの商品選択肢を揃えるマーケットプレイス・モデルを否定し、消費者に無駄なものは「選ばせない」というコンセプトを持っているのが特徴となっている。
「Movebutter」はどのように消費者が毎週定期的に買っている品目を選んだのだろうか。
「Movebutter」の消費者行動リサーチのやり方はとてもユニークで、無料で配達代行サービスをサンフランシスコ・エリアに展開。消費者がどのような生鮮食品・日用品を購入したのかというデータを、配達するための車のガソリンコストだけを使って大量に獲得できたわけだ。ただし、共同創業者と2人で行ったので、非常に労力がかかったとのことだが。
彼らはこの現場リサーチにより、3つの事実を明らかにした。(詳細はこちらの動画から)
- 85-90%の人が、周りの人と似たような買い物リストを持っている
- 毎週同じ商品を繰り返し買っている
- 低価格・高品質の商品を選ぶ
当たり前なことかもしれないが、消費者は献立が変わったとしても、ほぼ同じ品目のものを毎週買い、気に入っている商品を必ず手に取る。このデータを基に、必ず買われている食料品目をピックアップ。そして1品目に対して、低価格かつ高品質な商品を提供できるメーカー1社ずつと提携し、D2C (ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のネットワークを構築した。
「料理キットサービス」が夕飯を考える手間を無くす
毎週決まった量の料理食材とレシピが届く料理キットサービスも効率化に軸を置いている。
年間の売上が50億ドルにも及ぶ総料理キット市場はレッドオーシャンの様相を呈している(データ記事はこちら)。それだけ料理の献立を考えることに手間を感じていた人がいたということだ。
この市場で最も有名なのが市場占有率17%を誇る、先日上場をした「Blue Apron(ブルーエプロン)」であろう。「Blue Apron」の想定ターゲット像は都市部に住む20-30代で、特に次のような考えをもつ人たちだ(ターゲット像に関しての詳しい記事はこちら)。
- 忙しい中、日用品ショッピングをするのが好きではない
- 夕食の献立を考えることを煩わしいと考える
同サービスが急成長を遂げられた大きな理由の1つは、上記2つのニーズを満たしつつ、時間を節約するアプローチが共感を得た点だ。特にニューヨークやサンフランシスコの人たちは、自分の時間を買うために予算を割く傾向がある。
「Blue Apron」は、約100万人の利用者を抱え、これまでに430万オーダーを受けている(数値データはこちら)。毎回注文されるオーダー・データを解析して、各顧客に対して最適なもののレシピを提案する。こうして消費者趣向を理解した上で、多くのレシピの中からなるべく「選ばせない」という方向性に軸を振っているのだ。
キット配達の「オートパイロット化」により、格段と効率化される料理体験
「料理キットサービス」でもう一つ紹介したいのが、最近1,500万ドルの資金調達をした「Gobble(ガブル)」だ。「Blue Apron」などの他社料理キットは完成まで1時間ほどかかるが、同サービスでは15分で(立ち上げ当初は10分と標語していた)完了できる超簡単な料理キットサービスを提供している。
今回の資金調達の鍵となったのは、「オートパイロット化(自動選択機能)」を目指すという点だ。
現在は特定の顧客のみが「オートパイロット機能」を利用でき、各顧客に最適化された料理キットが自動で指定された曜日に届く仕組みを提供している。
「オートパイロット機能」では、顧客の過去のオーダー履歴を基に、ビックデータを解析した上で料理キット配達の「自動化」を目指しているという。例えば週末の夕方になれば、今日食べたいと思っていた料理が勝手に届いているという具合だ。
自動化が進むことで、献立を考える手間からオーダーまでの全プロセスを行う必要がなくなり、「Gobble」の強みである調理時間の短縮化も進む。効率化の結果として、料理体験が根本から変わる可能性を秘めている。
大量生産に挑戦する、最適量生産プライベートブランド
最後に紹介するのは食用品からコスメまで、日用品を全て3ドルで提供する「Brandless(ブランドレス)」。市場価格と比べて平均40%も安い。(データはこちらから)
「Movebutter」と同じくD2Cのモデルを採用しており、メーカー直送かつオンライン販売に徹することでマージンがかからない。それによって、低価格での商品提供を実現している。また、1品目、1種類というコンセプトも同じだ。
「Brandless」も「Movebutter」も、コンセプトは「効率化」だけでなく、大量生産品を売りさばくメーカー・小売業界に対しての挑戦だ。
大手オンライン小売メーカーも、この考えに賛同している。例えばAmazonは「Amazonベーシック」という 低価格プライベートブランドを展開。世界最大手の小売企業であるWalmart(ウォルマート)傘下の「Jet.com(ジェットドットコム)」も同じようにプライベートブランドの展開を数ヶ月以内に予定している。
消費者が日常的に購入している膨大な品目データを生かし、低価格かつ高品質な商品を最適量生産するプライベートブランドの形が市場を飲み込もうとしているのだ。
小売の「効率化」が進むのは顧客にとってのメリットだけでなく、生産者側も大量生産に踏み込む必要がなくなるので、在庫リスクが減る。
消費者にとっても生産者側にとっても「効率的なソリューション」となる。
時短ニーズを満たすサービスや、「選ばせない」という効率化を軸にしたサービス、プライベードブランドの波は、特に日用品分野において今後3-5年で圧倒的に進むことだろう。
Img : Hamza Butt, Movebutter, Yuya Tamai, Blue Apron, Gobble, Brandless