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社会の高齢化が進み、日本では国民医療費の増加が問題となっている。医療の担い手が足りない医師不足、病院の地理的な偏在による医療格差など、解決していかなければならない問題は多い。
医療の積み重なる問題の解決には、成長が著しいAIやオンラインサービスの利用が不可欠であり、すでにその試みは始まっている。
医療×AI / オンラインサービス
AIやオンラインサービスの進化にともない、医療にも導入されている。いくつか例にとってみよう。
医療系スタートアップ・株式会社Kids Publicが提供する「小児科オンライン」は、子育て中の母親に向けた遠隔医療相談サービスだ。
ビデオ通話ソフト「Skype」や、コミュニケーションアプリ「LINE」を使用して、現役の小児科医が相談を受ける。都市・地方・海外在住の日本人家族など、多くのユーザーをかかえている。
東京大学医科学研究所では、米IBMの拡張知能である「 Watson(ワトソン)」を活用し、がん患者の遺伝子データから、適切な治療薬を探し出す。医師は、膨大なデータに接する負担を減らし、患者は適切な治療を受けられるようになる。
自治医科大学が開発している「ホワイト・ジャック」は、診療を支援するシステムだ。論文情報や臨床データなどを蓄積したAIと、人間の医師が対話し、病名候補を見つける。医師の診療を効率化し、見落としも防ぐことができる。
サンフランシスコに拠点を置くスタートアップ Enlitic社は、ディープラーニングを用いたAIで、レントゲン・CTなどの画像からがんを検出するシステムを開発。これにより、診断スピードがアップし、その精度の向上にも寄与している。
今、このような医療へのAI・オンラインサービス導入の流れが加速しており、今後さらなる医療の発展が期待されている。
医療系AIスタートアップのNAMが、チャットボット型電子カルテ「ドクターQ」を提供開始
2017年11月29日、AIによる医療系製品開発の株式会社NAMは、2018年1月から医療機関を対象にチャットボット(自動応答プログラム)型電子カルテ「ドクターQ」の提供を開始すると発表した。
現在の医療現場が抱える課題のひとつに、医師が患者の経過を把握することのむずかしさがある。患者は、経過が良好なときには医師への報告をしないことが常になっており、自覚症状が少ない慢性疾患では、自己判断で治療を中止してしまうこともまま見受けられる。
その一方で、患者は自分自身の医療情報を持つことがむずかしいという現状もある。お薬手帳はスマートフォンで持ち歩こともできず、カルテを閲覧するのも困難だ。
映像通話を用いる遠隔診療で保険診療を行うことが可能になったが、相手の顔を見て会話を行って診療をしなければいけないという制約があり、まだまだ医師が患者の経過を手軽に収集できるという状況にはいたっていなかった。
NAMが提供するチャットボット型電子カルテ「ドクターQ」は、こういった医師と患者双方の課題を解決するため、「ドクターQ」のシステムは、利用者となる患者と医師、それぞれのための機能を兼ね備えている。
患者はLINEで「ドクターQ」のLINEボットを友だち追加することで、スマートフォンのLINEアプリ上で操作することができる。医師代わりのチャットボットからの問診を受けたり、自分自身のカルテを閲覧したりすることが可能となる。
医師は、「ドクターQ」のサービスウェブサイトにアクセスすることで、患者の経過を把握し、ボットを通して患者と接触することができる。電子カルテのフォーマットに沿う形式で、チャットボットが医師の代わりにLINEのチャット画面を通して患者に経過を質問するという仕組みだ。
システムは、カルテに記載するべき患者情報、医師がフォローするべき患者情報、患者が気にするべき診療情報を自動で、収集・整理していく。
「ドクターQ」のシステムは、医療機関を対象に無償で提供される。LINE上に医療機関などからの広告を表示する事業、患者に医師を紹介する事業、健康食品を販売する事業により、マネタイズするようだ。
こうした、AI・オンラインサービスによるソリューションは、悲観的な話題の少なくない医療現場に対する大きな一歩になる可能性もある。
AI・オンラインサービスが高齢化社会における医療の課題をクリアする
高齢化社会が進み、患者の増加に対し、医療のリソースが不足する状況になっている現代では、医療費の伸びが止まらず、医師が疲弊し、患者が適切な治療を受けられないといった問題があらわになってきている。
こうした問題を解決すべく、AI・オンラインサービスを活用したスタートアップが登場し始めた。
AIによる画像診断・遺伝子分析などは、医師の負担を軽減する。映像通話を用いる遠隔診療は、医師の少ない地方の患者の治療をおぎなう。チャットボット型電子カルテは、医師と患者のコミュニケーションを以前よりも密にする。
悲観的だった高齢化社会における医療問題への見方を、転換させるポテンシャルを持つといえるだろう。
img : @Press